見出し画像

1031「ピッコー、ピッコー」

今日はハロウィンなので、子供が帰ってくる時間には仕事を切り上げてご近所にキャンディをもらいに行かなくてはいけない。お世辞ではなく、アメリカ生活においてある種最も重要な日であるとも言える。この日だけでは、普段用事がないお店にずんずん入っていっても許される。地域全体で子供をもてなすわけなので、私も一通り子供を連れ回したら配る側をやるのかなと思うが、配る側が何も仮装していないと格好がつかないので、何か着なくてはならない。

この時期になるとそこかしこの空き店舗スペースみたいのにコスチューム屋が開店する。なので、そういう駆け込み需要にも対応できるようになっている。結局、子供の学校が終わる時間帯、つまり街全体がTrick or Treatモードに突入する直前に駅前のコスチューム屋でコスチュームを入手した。去年や一昨年は「無」を意識したボディスーツだったり、その前はアメリカ国旗のボディスーツだったが、ああいうのは視界が辛いしビジュアル的に暑いので、ハロウィン活動をやる上でのQOLがすごい低い。思えば、アメリカに来てからずっとボディスーツに拘ってきたので、つらいハロウィンが続いていた。しかし、ボディスーツ系は匿名性も担保できるし、どうしても魅力的だった。

そんなわけで衝動的に、QOLが高い開口型で、派手で抽象的だけど動きやすくて風通しも行けそうなものにした。

今年のコスチュームは、「ピクルス」。これが非常によかった。動きやすい。ストレスがない。視界もバッチリだ。これは良いハロウィンになりそうだ。ボディスーツだと、ちょっと暗くなってくると、階段を上るのとかに、妻の介助が必要だ。階段が全然見えないのだ。危ない。昨年は目のところに穴を開けてもらったのでどうにかなったが、それでも視界は狭かった。

しかしこのピクルスなら、安全に子供たちを引率できる。

そして抽象的なのが良い。どういうことかというと、よく、「アベンジャーズ」とかああいうのに扮しているお父さんがいるが、ああいうのは個人的に相当厳しい。私は「モノマネ」というものが非常に苦手なのだが、要するに何かについてロールプレイをすることが苦手だ。ああいうキャラクターものを着ると、そのへんの辛さが換気されてしまって、人格が崩壊するような気がする。たとえば、今日も何人か見かけたが、ドラゴンボールの孫悟空の格好などを間違ってしてしまったあかつきには、かめはめ波を何回か試し打ちして走って家に帰って柱に頭を打ちつけて入院するだろう。

だから私は、「国旗」とか「無」とか「ピクルス」とか、そういう、抽象的なものでありたい、と思う。

そしてこのピクルス、結果的に、やたら構ってもらえる。まず、すれ違う人々が、80%くらいの確率で。

「ピッコー(Pickle)」

「ピッコー、ピッコー(Pickle, Pickle)」

とつぶやくというか、呼んでくれる。

たまに、コミットメントが強い人が出現して、

「お前は、ピクルスなのか、キューカンバーなのか」

「お前は、ズッキーニか」

などと、コミュニケーションを求められる。

去年から、高尚な話ではあるが、お菓子をもらうだけ(Taker)ではなくって、あげる側(Giver)をちゃんとやろう、ということで長男とは路頭に立ってお菓子を配ることにしているのだが、配っていると、

「ピクルスだ! ピクルスだ!」

「ありがとう、ピクルスさん!」

などと、すごく喜んでくれる。

そんなわけで、今年も重要な年中行事が終わった。例年は、ニューヨークもハロウィンの日にはすっかり寒くて冬に突入しているものだが、今年は暑かった。


みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!