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0511「平和島タイムリープ」

朝の羽田便でニューヨークに帰る感じだったので、先に平和島温泉に行ってそこから空港に向かうことにしていた。平和島温泉が良いのは、わりと空港前乗りユースを想定しているので、大荷物を預けられるロッカーがあるところで、あと、最近まで電源を貸してもらえなかったんだが、使えるようになっていて、なんか結構進化している。

サウナ室ではずっと「モノフェスタ」が流れていた。通販のやつだ。腰の周りに装着するとマッサージ機みたくなってゴロゴロしながらそれをやっていると腹回りの贅肉が落ちてウエストが細くなる、というのを売り続けていた。繰り返し繰り返し、同じ商品をプッシュし続ける。ウエストが10cmも細くなって驚きを見せる中年男性の映像が流れる。

サウナ室を出て、水風呂に行き、またサウナ室に入る。「モノフェスタ」がやっていて、ウエストが10cmも細くなって驚きを見せる中年男性の映像が流れる。

サウナ室を出て、水風呂に行き、またサウナ室に入る。「モノフェスタ」がやっていて、ウエストが10cmも細くなって驚きを見せる中年男性の映像が流れる。

午前四時、私は平和島でタイムリープ状態になっていた。

「ああ、これはタイムリープだなあ」と思って、「All You Need Is Kill」を思い出した。

「All You Need Is Kill」は、単行本2冊のタイムリープ漫画(もとはラノベ)だ。2冊ぶんしかないのに、とても密度の濃い作品で、その分量も相まって、何度も読んでいる。

謎の生物と戦う兵士が、戦場で死ぬと死ぬ前の日の朝に戻って、戦闘能力が上がっていって、だんだん強くなっていく切ない話だ。

尊敬する安倍吉俊さんがイラストを描かれている。安倍吉俊さんといえば自分にとっては、すごい昔にフジテレビの深夜枠でやっていたアニメ「灰羽連盟」の原作の安倍さんだ。

「灰羽連盟」は相当好きで、DVDボックスも持っている。私がDVDボックスを買ったのなんて、「坂の上の雲」と「灰羽連盟」くらいのものだ。

「灰羽連盟」の内容というか設定は、わりとつかみどころがないしここで説明するのは面倒なのでリンクを貼ってごまかすが、あんまり単体のアニメ作品で、文学として本当に素晴らしいと思った作品がそれまでなかったところ、この作品は本当に良い文学作品だと思ったので、詩を書いている父にも見せたら父も気に入っていたのを覚えている。そう考えると、これをやっていた時期は、実家に住んでいたのかな、と思う。

この「灰羽連盟」の中に出てくる「過ぎ越しの祭」というお祭りの設定が本当に好きで、毎年お世話になっている人に、いろんな色の実を渡すお祭りとして描かれる。各色の実には下記の意味がある。

赤の実=お世話になりました(感謝)
緑の実=おめでとう(祝意)
茶の実=ごめんなさい(謝罪)
白の実=ありがとう、さようなら(感謝、惜別)
黄の実=好きです(好意)

現実のモデルがあるのか知らないが(「過ぎ越しの祭」そのものはユダヤのお祭りだったはず)、この風習と、祭の間街に流れる暖かい雰囲気、というのがすごく繊細に描かれていて、こんなお祭りが現実にあったら良いのに、と思う。何回か企画会議とかでもそういうの出した気がする。

深夜にチラッと見ただけのアニメでも、こういうレベルでしっかりと匂いまで描くことができたら、一瞬であってもずっと受け手の中に入っていくようなものになるんだな、という、「言葉で伝えられない匂いの力」みたいのを教えてもらったのが「灰羽連盟」だった気がする。

「灰羽連盟」は、大谷幸さんによる音楽も本当に素晴らしくて、サウンドトラックは今も普通に聴いている。

というようなことを一通り思い出して戻ってきた私は、サウナ室で「モノフェスタ」を見ていた。ウエストが10cmも細くなって驚きを見せる中年男性の映像が流れる。

サウナ室を出て、水風呂に行き、またサウナ室に入る。「モノフェスタ」がやっていて、ウエストが10cmも細くなって驚きを見せる中年男性の映像が流れる。

明け方の平和島温泉のサウナ室には、その中年男性と私しかいない。

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