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「中田敦彦のyoutube大学」で観るべき動画6つ

こないだ、縁があって「スナック堀江万博」という堀江貴文さんのイベントに出させて頂いた。私は大学4年のとき堀江さんの会社(ライブドアの前身)がまだ15人くらいしかいなかった頃に末端でアルバイトをしていたので、今の仕事をやっているきっかけにもなっている。個人的に堀江さんとお話するのは22年ぶりでもあり、とても感慨深い機会だった。

と同時にこのイベントの出演者が結構すごくて、しかしまあ総じて言うとあまり積極的にここに並んでまーすというのは叫びづらい感じも個人的にはある。正直、「どうなんかねえ」と思っている人もいる。とはいえ、そんな濃い方々の末席に入らせて頂いた。

で、この中で最も「おおっ!」と思ったのが、中田敦彦さんだ。オリエンタルラジオの中田敦彦さんは、昨年からいわゆるYouTuberとなり、「中田敦彦のyoutube大学」という教育系動画を毎日のように発信している。中田さんがこの活動を開始したのがまだ昨年ということがにわかに信じられないほど、今までに配信されたコンテンツは多数で多様だ。

中田さんがやっていることは、とにかく「いろんなものを面白く、わかりやすく説明する」、という一点に尽きる。たとえば中田さんは世界史の授業なんかをやって配信しているが、歴史の授業って、基本的に年号やら知らない人の名前を暗記する科目で、理解する前に心が折れて嫌になってしまう系の科目であるところ、徹底して「この人がこれをやったから世の中がこうなってこういうことが起きたよ」という「流れ」、つまり歴史というものの最も面白くて大事なところだけを抽出して、しかもそれを、「しゃべりのプロ」である芸人さんのテクニックを駆使してプレゼンテーションしていく。

古今東西、学校の授業っていうのは退屈になりがちなものだ。その中でも授業が面白い先生と全く面白くない先生がいる。同じことを教えているのに、面白かったり面白くなかったりする。じゃあその授業の面白さと面白くなさを分けるものは、高校生程度の授業においては、恐らく「話芸」の問題だ。数学も国語も理科も社会も、結局のところストーリーだ。ストーリーテラーとしてすぐれている先生の授業は面白いし、つまらなそうにテンポ悪く話す先生の授業は退屈だ。たぶんそれだけの話だ。つまり、学校の授業というのは「話芸」だ。

この話で思い出すのが落語だ。古典落語というのは、基本的には同じ筋書きの話をいろんな落語家がいろんな解釈をして演じる「話芸」だ。「時そば」という演目があって、もはやすべての落語家がやるようなレベルのメジャーな噺だが、前座の方が演じる「時そば」と柳家小三治師匠が演じる「時そば」は、天と地ほども違う。小三治師匠の「時そば」は、なぜこんなに面白いのかというレベルで面白い。さらに言うと後味が他の噺家と全然違ったりする。小三治師匠の芸には「これ面白いでしょ」的なドヤ感が全く無い。とか言い出すと落語の濃い話になってしまうので止めておくが、とにかく、同じ話をいろんな人がして、そしてそれが面白かったり面白くなかったりする、というのが落語だ。

思えば授業というものも同じだ。歴史の授業でも数学の授業でも、「カリキュラム」というのは古典落語みたいなもので、みんなカリキュラムに沿って話芸を展開しなくてはいけない。「授業がうまい」≒「噺がうまい」なのだ。

予備校のキャラが強い先生とかが古来からもてはやされたりするが、あれはどういうことかというと、単純に話がうまいという面もあるだろう。学校の勉強だと足りないから予備校に行く、みたいのは、「より話がうまい教師の授業を聞きに行く」という側面もある気はする。

で、中田敦彦さんに話を戻すと、中田さんはそもそも「しゃべりのプロ」なのだ。しかし、今まで「教育」をやる芸人さんはいなかった。これはコロンブスの卵だろう。「授業」は「話芸」なのに、授業をする人は決してしゃべりのプロではなかった。これはパラドックスだ。なぜかというと授業≒しゃべりなんだから、「授業のプロはしゃべりのプロであるべき」なのだ。そして、中田さんがやっていることは「しゃべりのプロが授業をする」という、なんで今まで無かったんだろう、としか言いようがない、絶対勝てる黄金の組み合わせであると言える。

最初は、「世界史」「日本史」といった学校で習ったようなものを面白く再講義する系が主だった。中田さんは、これらの授業を「入試には役に立たない」と言っているが、それは謙遜というものだろう。東大なんかの歴史の入試問題は、全部論述式で、そこで見られるのは「歴史の流れをわかっているか」みたいなところだ。中田さんの歴史の授業は、「流れ」に力点を置いて、それをわかりやすく面白く説明する。入試なんてなくなったほうが良い、みたいなことをこないだ書いたが、私は学生は全員中田敦彦のyoutube大学を観るべきだと思う。変な予備校に行くより絶対にそっちのほうが良い。

で、最近の中田さんは世界史とか日本史とかに留まらず、社会の仕組みや政治、ビジネス書に至るまで、いろんな本を読んではその内容を理解し、1本40-50分程度かそれ以上の授業にまとめてわかりやすく、面白く語る。「面白い」と言っても、芸人として笑かしにいくようなことはなく、授業で扱っている話題が持っている「素材の面白さ」を濃縮して語ってくれる感じになっている。たとえば、「フェルマーの最終定理」について説明するときも、「フェルマーの最終定理とその周辺の面白さ」を表現してくれる。芸人のコンテンツといって想像するような「漫談感」はない。これは、「最高に話がうまい先生」の超面白い授業だ。そしてありがたいことに、YouTubeがある時代ではそれを、どこにいても好きな時間に好きなだけ聞ける。私は毎日、洗い物をしながら、あるいは風呂に入りながら、「中田敦彦のyoutube大学」を聞いている。

芸人さんとしての中田さんにはほとんど興味がなかったが、この1年で、見え方が全く変わってしまった。年齢的には5歳くらい下だが、「同時代の偉人」くらいに思っているところがあるので、冒頭に触れた形で同じイベントに出させていただくことがちょっと誇らしかったのだ。

そんな中田さんの動画にも、「ふーん」くらいなものと、聞いていてすごい感動に包まれるようなものまでいろいろある。で、私がなぜ今日この記事を書いているかというと、今日観た「アートの見方」という動画がめちゃくちゃ面白く、周囲の人々(クリエイティブ関係の仕事をしているわけなので、そういう人々も多い)に全員観て欲しいと思うレベルで感動したので、「ああそうか、じゃあ自分がいかにYouTube大学が好きなのか、ということと、自分が人に見せたいYouTube大学の動画をピックアップして紹介しよう」と思ったからだ。

世界史とかのやつは基本的に安定して面白いのでそのへんは割愛して、わりと最近の、授業内容が多様になっている時期からのものが中心となるが、自分の周囲に是非観てほしいと思ったものを6つ、コメント付きでキュレーションしてみようかと思う。基本的に各講義は複数の動画で構成されているので、最初の第1回を貼っておく。


アートの見方

最初は、前述の、今日観た「アートの見方」からだ。

この授業、何が良いって、ベースとなっているのが最近もてはやされている「アート思考」の本なので、20世紀以降のアートの歴史を作品を通して学びながら「アートというものがどういう考え方で前に進んできたか」ということ「アートって何なのか」ということに至るまでしっかり説明されているということだ。私も仕事柄プレゼンテーションやコンサルティングをするが、週明けから打ち合わせで「アート思考」って言えるような気がする。

実際問題、私たちの業界でも「アートとデザインの違い」みたいな話は古典的によく出てくる話なわけだし、「メディア・アート」をつくるお手伝いもちょこちょこさせて頂くわけだが、そういう仕事をしているからこそ、この動画は観て理解しておいたほうが良いと思う。


フェルマーの最終定理

面白すぎて震えるほど面白い名作。長きに渡って数々の数学者たちが挑んでは証明できなかったフェルマーの最終定理が証明されるに至るまでの数学者たちの群像劇にもなっている。中田さん自身が細かい数学の知識を持っているわけではないので、「フェルマーの最終定理の証明の歴史」をストーリー仕立てで説明するものだが、逆にそれがいい。あと、それでも地味に背理法の説明とか、「予想」と「定理」の違いとか、数学における大事な考え方をしっかり伝えてくれる。

世界を変えた感染症の歴史

コロナ禍状態になってから公開された、「人類と各種感染症の戦いの歴史」の授業。有史以来の「ヤバかった感染症」4つと、人類がそれに対してどう戦ったかをプレゼンテーションする動画。いま、感染症との戦いの真っ只中にいる私たちが、これからどういうことが起こりうるのかを考える上でも非常に価値のある情報を冷静に伝えてくれる。「病名は知ってるけどどんな病気だったのかまで知らない」みたいな病気についても学習できる。私はこれが公開されたとき新型コロナウィルスでぶっ倒れている最中で、治って洗い物に復帰したときに観たのがこれだったのを覚えている。


ワイン

普通に生きていると敷居が高いワインの種類や歴史について、また、ワインがいかに投資の対象になってきたか、世界史とどう関係してきたか、みたいなことが語られる。私は普段ワイン飲まない蒸留酒野郎だし、ボルドーとブルゴーニュの違いもあんまりよく知らなかったが、瓶の形の違いとか、シャトーと畑があってロマネコンティは畑なんだよ、とか、知らないことがたくさんあって、洗い物をしながら心の中で「へえボタン」を連打した。これを観た後に近所にワインを買いに行って、一晩で空けてしまって妻に怒られた。


田中角栄

これが非常ーーに面白かった。基本的には田中角栄のサクセスストーリーなのだが、コミュニティをやっている者として、どうしても参考にせざるを得ない。やっぱり行動速いと楽しいよなあ、とか。自分の少年時代の資本主義の空気って、このへんでつくられたんだなあ、とか。
この後公開された「自民党の歴史」もかなり面白かった(自民党を支持するとかじゃなくて、今まで名前だけ知っていた政治家たちが、どういうモチベーションで、どういう立場で何をしようとしていたのか、みたいなことがとても良くわかる、という意味で)。

香港と中国

中国の現代史と、なぜ香港のデモがあんなことになっているかについて。共産主義の失敗、なんでここ最近中国の勢いがすごかったのかなんかも含めて、丁寧に説明してくれる。中田さんは現代史を結構やる。学校の歴史授業の大きな問題として、「現代史をちゃんとやらない」があるのは明らかだが、本来、今の時代に起こっていることを理解するためには現代史のほうが全然重要だ。そこをカバーするのに、「YouTube大学」はすごく有用だ。知っていることも多いかもしれないが、これを流れで見ておくと、最近の香港のニュースの見方が変わったりする。中国の仕事もあるし、台湾にもコミュニティのメンバーがいるので、これは非常にありがたい講義だった。

そんなこんなで、上記は是非、ご覧頂くと生産的というか、ソーシャルメディアやそのへんの無料記事を読んでいるよりも有意義な時間を過ごして頂けること請け合いだ。タダで仕事するの嫌だし、仕事以外で人と接するのも大概の場合つらいので、オンラインサロンとかあまり興味を持てないのだが、中田さんのオンラインサロンに入ると、この授業が生で聞けるらしいということで、ちょっと興味を持った程度に「YouTube大学」は素晴らしい。80までやり続けて小三治師匠みたいに人間国宝になって欲しい。