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0604「匂いはリピートする」

昨日日本に来ていて、今週だけこちらで仕事だ。この滞在中、いろいろ大事なものを仕込んでいくことになる。ちなみに、7月から夏の間は決算もあるので、わりと日本にいる予定なので、是非構ってください。

今回は飛行機に乗る前にやっておくべき仕事をやっておいたので、わりと読書が可能な感じだった。今回、Kindleに突っ込んでおいた漫画がわりと大当たりだった。面白いと思っても、そんなに何度も繰り返し読むだろうなという漫画ってないし、忘れちゃうようなものもある。

しかし、たぶんこの漫画は繰り返し読むことになる。

それはなぜかというと、「匂いがする」漫画だからだ。その場とか情景とかの匂いが漂ってくるような、単なる物語として消費するのではない、例えば温泉みたいな、何度でも入りたくなるような漫画というものがたまーにあって、そういう漫画は、何度も何度も読み返すようなものになる。どういう基準なのかわからないし、共通項を見出しづらいのだが、たとえば「動物のお医者さん」なんかは自分にとってそういう漫画だし、匂いや空気がやけに思い浮かんでしまう、ということでいうと全然違うけど「夕凪の街・桜の国」などは短いし、100回程度読んでいる自信がある。古くは、「まんが道」なんかもそうかもしれない。
重ねて、うまい共通項が見つからないのだが、これらの漫画って、「ずっとこの世界に浸っていたい」と思わせる、単なる物語の時間軸で片付けられない空間の広がりがある気がする。そういう「匂い」は、1回で消費されることはなくて、何度もリピートされる。

で、昨日読んだのは、「異世界居酒屋『のぶ』」だ。この漫画のアイデアは天才的だと思う。もともとは「転生したらスライムだった件」などと同様にライトノベルが原作で、コミカライズだ。

うちの父は60を超えてもいろんな事情があって飛行機に乗ることができなかったのだが、最近ニューヨークにいる孫に会いにこれるように、ということで飛行機に乗ってみよう、ということになった。で、昨年の夏に長男と父との3代で日本からほど台湾に行った。

台湾という場所はPARTY TAIPEI(現Whatever)があったくらいなので、私は土地勘があるし、おいしいものも、楽しい場所もたくさん知っている。つまり、私は自分が既に知っている、台湾でのとっておきの体験や食い物を父と、長男に共有するということをやったのだ。

この、「相手が知らない素晴らしい、楽しい、あるいはおいしいものを体験させて、驚き、喜ぶのを楽しむ」というのは、非常に原始的な人間の喜びだと思う。今年のお正月の日記にも書いたが、そういう欲求こそが「愛」ということでもあるのかもしれない。

「相手が食べたことがないおいしいものを食べさせる」のも、その一種だ。私の場合、外国の友人を母国である日本に案内するようなこともあるが、外国の人って、普通の日本人がみんな知っているようなものも知らなかったりするから、リアクションが楽しい。それでも、寿司もラーメンも世界的にメジャーになってきているので、外国人がみんなそうであるわけでは当然ない。

「異世界居酒屋『のぶ』」は、そういう「相手が食べたことがないおいしいものを食べさせる」欲を、「中世ヨーロッパっぽいファンタジー世界の街に日本の居酒屋(裏口が日本とつながっている)が開店している」というとんでもないセッティングで満たす漫画だ。

「中世ヨーロッパっぽいファンタジー世界の街に日本の居酒屋(裏口が日本とつながっている)が開店している」なので、お客さんは中世ヨーロッパっぽいファンタジー世界の人たちなので、ビールから枝豆から、あらゆる日本の居酒屋で出す飲食物に初めて触れて感動する。で、彼らが初めて飲んだビールや初めて食べた枝豆が、半端なく美味しそうなのだ。何しろ、初めてだからだ。

そういう「日本食テロ」的な展開が、ゆっくりとした素朴な世界の中でダラダラと続いていく。居酒屋を通した人間関係なども、広がっていく。何しろこの居酒屋が出す料理は、客にとってすべて未知なものなので、ネタも永遠に続く。そういう構造だから、エンドレスに日本食や普通の日本の居酒屋の魅力というものが、最良の形でプレゼンされていくし、そこにあるのはそうは言っても普通の居酒屋でしかないので、まるで自分がその空間で酒を飲んでいるかのように、安心感のある空気が漂っている。

ニューヨークに帰る便で読んでいたら死ぬところだった。日本行きの便で読めて良かった。

みんなにも読んでほしいですか?

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