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具のない茶碗蒸し

こころの幸せレシピー①

シェフ 梯 真由美

【材料】
 ・ベターな気持ち カップ1
 ・ベストな気持ち 大さじ1

【調理法】
 ・材料を混ぜ合わせ、よく振ります。

9歳のときに大病を患い、生死をさまよいました。
何とかたすかった後、お医者さんが最初に言われたのは
「何でもいいから、食べたいものを食べるように。」
ということでした。

口の中も喉もただれてしまって
固形のものが、なかなか食べられなかったので、
プリンとソフトクリームを食べるのが、楽しみでした。

病院の食事で一番お気に入りだったのは、
「お麩だけ入ったすまし汁」でした。

ある日、先生の奥さんが、
「ウチも今夜は茶碗蒸しだから。」と
私のために、具のない茶碗蒸しを届けてくださいました。

とても嬉しかったのを、
茶碗蒸しを作るたび、今でも懐かしく思い出します。

その後、眼の治療のために、別の大病院で手術をしました。
はじめの食事はお粥だったのですが
ある日、看護師さんに
「ふつうのご飯を食べて、元気になろうね。」
と励まされて、普通食になりました。

その日の夜も、全然食欲がありませんでした。
でも、食べないと叱られそうに感じて
ほとんど手をつけないまま、廊下においてあった下膳台に
誰も見ないうちにと様子をうかがいながら、返した・・・つもりでした。

目がほとんど見えていなくて
ちょうど看護師さんが廊下の向こうから曲がってきたのに出会ってしまい、
ナースステーションが大騒ぎになりました。

「えらいことになったなぁ。」と思いましたが、後の祭りでした。

担当の看護師さんに、
「真由美ちゃん、お母さんがいないと、ご飯が食べられないのかな。」
「真由美ちゃんが、いっぱい食べて、元気になるのを
 みんなが待っているんだからね。」
「ミートボールは嫌い?」
「そうだ!真由美ちゃんが、一番好きな食べ物は何?」
と問われました。

言いようがなくて、
最後の質問だけ答えました。
「お麩」
「お麩???」
看護師さんを、すっかり困惑させてしまいました。

あれから30年以上が過ぎ、愛犬の具合が悪くなった時
まる2日何も口にしなかった後、
彼が、私の焼いたぶどうパンをひと口ふた口食べた時には
踊るような気持ちになりました。

次は、鶏肉のミンチボールをせっせと作りました。
「これならどう? 」
とチーズの中にプロポリスのカプセルを入れてみたりもしました。

「いっぱい食べて、元気になって欲しい。」
という、私の願望そのものだったな。
と今では申し訳なく思っています。

心底、からだやこころが弱っているときは、
どうがんばっても、食べられないのではないか。
と今更ながら感じます。
少しずつエネルギーが増してきたら、
自然に食べる気力は増してくるのでしょう。

みんな、良かれと思ってしているのですが、
元気になるために、栄養を取らないと!
という、周りの思いやりのような願望は
ともすれば、強い圧迫感になるのかも知れません。

もし今、こころとからだが滅入っている人を支えるとすれば、
小さなカップの、具のない茶碗蒸しは、どうでしょう。
「よかったら、ふぅふぅしながら、ちょっとずつ食べてね。」
と伝えます。

胃に優しいだけではなく、
「元気になってね。」のベターな気持ちが、
無理なく相手のこころに響くかも知れません。

【調理のコツ】
 ・気持ちは詰め込みすぎず、ふんわりと。

サポートいただきまして、本当にありがとうございます。 どなたかご縁のある方のこころの奥に、私の言葉が届くとうれしいな~。と思って 書いています。とっても励みになります。こころから感謝をこめて。                              板橋真由美