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シンって、なに?

こう考えてみよう。調度は井戸の底から引き上げられて、何かの全体計画の肉づけに使われた。ところがその夢は、とうの昔に見失われ、あとはただ、空間を埋めたい、一族の自己イメージを甦らせたい、という強迫観念による努力だけが残った、と。崩れた巣を、眼のない生き物が蠢くのを、想い出す。

ニューロマンサー


賛否両論ですなぁ。
賛否両論なんてのは大抵は賛が勝ってるもんですがどうも今回は本当に賛否両論って感じ。否定派の声がでかいってのもあるでしょうが。

僕は結構楽しめたんですよ。
というかかなり。
少なくとも『シン・ウルトラマン』よりは随分ノれました。
『シン・ゴジラ』ほどじゃないですが。

だから否定派の多さに驚きました。
あ、そんなダメっすか。
みたいな。

じゃあせっかくだしどこがよくてどこがダメなのか言語化しとこうかと思いまして筆を走らせている次第。
「エブエブ」の感想文がどうしても書けなくて(良すぎて)おためごかし的に書いている側面もありますが…。


あ。
一応言っておくと僕は仮面ライダーわかりません。全然通ってない。
ていうか特撮自体よくわからん。
なんなら邦画も観ないし。
そういう人間の感想と思ってもろて。


まずは良かったとこ悪かったとこ明記しましょうか。

良かった点:
・開始0秒からの盛り上がり
・冒頭の戦闘シーン
・キャラデザ

悪かった点:
・キャラ表現の上滑り

どちらでもある点:
・役者
・VFXとストーリー
・レイアウト

列挙するとこんな感じ。
順番に分析していきませう。


では良かった点から。

・開始0秒からの盛り上がり
映画は結局エンディングが良いかどうかだ…てなことを押井守は言っていましたが、同じくらい導入も大事だと僕は思っています。
というのも印象ってのがあるわけで。引き込みが強ければ期待感が高まって全体の体験にも影響するでしょう。
そういう意味で映倫のロゴをバックに音圧強めの音楽から入るのは「おっ」となりましたし、追われるシーンから入る切迫感が良かったです。

・冒頭の戦闘シーン
"冒頭の"って限定してるのは手放しで褒められるのがほとんど冒頭しかなかったからなんですが、それは後述。
ショッカーを殺していくところ。これが良かった。
暴力表現っていうのが根本的に好きな僕としては、血しぶきをまき散らしながら重たい打撃を伴って殺しを遂行するシーンにはかなり痺れました。『マトリックス』的なスタイル/ファッションとしてのアクションも悪くないんですが、やっぱり重みがあった方が実写映像としては威力がありますね。

・キャラデザ
といいつつ基本的には仮面ライダー1号の襟足が出ているデザインのことです。
芋臭さがうまいこと脱臭されていますよね。現代的な抜け感っていうか。
まあ他のスーツも良かったですよ。
映画的なカラコレも相まって作りもの感が強すぎない。上手いことフィクションとして消化もとい昇華されてそうな感じ。


次に悪いところ。

・キャラ表現の上滑り
これは『シン・ゴジラ』からずっとそうです。庵野が脚本書く限り変わらない点でしょう。
キャラ付けとしての口癖とか、嘘っぽすぎるセリフとか、悪く言うなら寒いです。
アニメで培ったキャラクタライズのメソッドをそのまま持ち込んでいることで失敗してるんじゃないですか?変な口癖とかポーズとか。
役者の技量もあるんでしょうが、とはいえ「こういうやつ好きな人いるでしょ」で差し込んだシーンが完全に滑ってたりもするから(シャワー浴びたい!とか)やっぱ脚本力が足りてないんじゃないのと思わずにはいられない…。


さて良くも悪くも…な点。

・役者
『シン・ウルトラマン』より良いんじゃないですか?あっちは僕終始顔しかめながら観てましたよ。 
ヒロインの波辺美波は言わずもがな、竹ノ内豊と斎藤工の常連面子もいつも通りよし(斎藤工は絶対髭あった方が良い)。
ただ長澤まさみと西野七瀬はよくなかったなあ…。
まあスベってます。
長澤まさみはまだ脚本に殺されたと言えますが西野七瀬はやっぱりほかの俳優陣と比べて一段落ちていた気がします。止まってたらいいんですが体を動かし始めると余計に。
池松壮亮と柄本佑はちょっと特殊で、ヘルメットかぶってる間はいいんだけどヘルメット脱いでる間はそんなに…とか思ってた。これアレですか。単に顔が好みじゃないってやつですか。

・VFXとストーリー
なんでこの2つまとめてるのかというと、どちらも僕が意識の外に飛ばした要素だからです。
この2点がおかしいのはクモオーグとの戦闘までの段階で気づくことだと思うんですが、僕、この時点で「ああこれはそういう映画なんだな」と納得してしまったんですよね。

VFXのしょぼさは100%同意するんですが、でも邦画ってこんなもんなんじゃないですか?観ないんで勘で言ってますけど、僕の数少ないデータではそもそも日本で映画を作ると現状この辺りが頭打ちなんでしょって思ってるので、そこは期待していなかったので気にしなかったです。むしろ『シン・ウルトラマン』がそうだったようにオーグメントたちの人外感の表現としてポジティブに機能しているようにすら見えました。
ウルトラマンや仮面ライダーが棒立ちしているカットあるじゃないですか。あれの異物感が僕かなり好きなんですよ。で、そいつらが戦うとこういう…人間の理解を超えた変な感じになるんだろうな~っていう。ハチオーグとのコマ送りバトルがハマってたでしょ。
しょぼいはしょぼいですけどね。

そしてストーリー。
忙しないですよね。終始。常に仮面ライダーとショッカーとの戦闘に従事しています。ドラマらしいドラマが合間に挟まってますが…。連作のドラマなら気にならないんだろうけど2時間ちょいにまとめると流石にツギハギ感が出ますな。
思ったのは、この映画自体がそもそも仮面ライダーというコンテンツに対するオマージュであって1つの話として成り立たせようという志は完全に放棄しているのではないかということ。単に思い出を現代の技術で再エンコードさせたかっただけではないか?ということ…。
そう考えたら話の散らかり方は気にならなくなったんです。そういう楽しみ方はしないほうがいいなって頭が切り替わっちゃった。そうなっちゃえばあとはもう映像を楽しむだけで。
だからまあ気になりませんでした。
そういう映画ってあるしね。

・レイアウト
さあ問題児。
特徴的だったのは役者二人が向き合ったシンメトリーなショットとか役者の顔にアップで正対したショットとかでしょうか。
この辺り、褒める気にはなれないけどけなすほどでもないというか。変だけどだからって悪いわけではないと思います。実はここ明確に『シン・ウルトラマン』と比べて良かったところで、変だけど下手じゃないギリギリのところで踏みとどまっているんです。『シン・ウルトラマン』はダメでした。神永が浅見の匂い嗅ぐカットとか勘弁してほしい。
変なレイアウトを作るっていうのを長年やってきたからこそのバランス感覚なんでしょうか。変さが作家性として許容できる範囲にあるんですね。
しかし。
どうもこれがアクションになると上手くない。いやへたっぴでもないんですが効果的ではない。特にVFXとの相性が悪い。
前述したように本作のVFXはしょぼいです。ただしょぼいならしょぼいなりにレイアウトでごまかせる部分はあったはず。なのに明確にVFXを使っているシーンに限って俯瞰気味に撮ってるんですよ(ダムを滑り降りるクモオーグとかライダー同士の戦闘シーンとか)。このせいでものすごくちんまいことが起こっているように見えるという…。これに関しては『シン・ウルトラマン』のほうが良かったですね。あっちは常にビルとか山とか巨大な被写体があるのでダイナミックさが担保されています。この辺はゴジラ好きな樋口真嗣の手腕なのかな?
ただやっぱり僕はそのしょぼいVFXをそこまで悪く思ってない側面もあるので、ひと口に駄目だーっていう気にもならないんですねぇ。


以上。
うん。
書いてみるとやっぱり賛否両論さもありなんだなこれ。

エヴァ以降、シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース(長ぇな)においては庵野の屈折した人格は鳴りを潜めています。それは本人の変化によるものでしょうが、それは大人になったとかそういうことではなく単にクリエイターとしてのスタンスの変化なのではないかと思ってます。
だって人間味ないですもん。
エヴァの芯だった内面的な鬱屈や『トップをねらえ!』にあったフェティッシュや憧憬すらも抜け落ちている。
「最近は経営に目覚めた」なんて押井にこぼしてたそうですが、そんなスタンスの変化が作品に如実に表れているように思えてならないです。
創作でなく製作。
趣味でなく商売。
そういう意味での志の低さが否定的な部分に影響してたりして。

そんな変化を経てもまだ残る独特さっていうのが、数十年越しに獲得した純粋な作家性なんじゃないかなぁとか、そんな風にも思ったり。


いやまあ、変なんですけど。
ずっと。


(画像引用元)

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