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名前の由来|栃木市箱森町|箱森裕美

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栃木市箱森町
ひぐらしや神社の木々を森と呼ぶ
パチンコ店宮殿を模し天の川
秋高しジャスコに小さき映画館
どれも姓違わず稲田の中の墓地
秋の田を本読みつつの下校かな
あきのらいさまだよテレビ消しとこう
花梨の実道路向こうに他の学区
月光に色褪せてゆく歩道橋
トラックの頭うずもれ曼殊沙華
花野ゆらめいてレンタルビデオ店

栃木県栃木市箱森町、わたしの生まれた町の名前だ。
「はこもり」ではなくて、「はこのもり」と読む。
何か箱庭みたいな、実在の町の名前じゃないみたいな、少し不思議な感じの並びがわりと気に入っていた。

名前は変わっているけれども、大きなバイパスが通って、パチンコ屋さんがあって、ジャスコがあって、そのほかは田んぼ、みたいな、なんの変哲もない地方の町だった。
小学校高学年か中学生くらいにできたおそらくTSUTAYA系列の「CCスクエア」という、レンタルビデオ屋と雑貨店と書店がミックスしたような店がわたしの文化のすべてで、そこでCDやビデオを借りたり、音楽雑誌やファッション誌を読みふけっていた。

進学で東京に出てくるのと同じくらいの時期に、箱森町はとても変わった。
開発が急速に進んで、パチンコ屋さんがあって、ロードサイド店舗が道路の両側にぽんぽんと増えて、ヤマダ電機もやってきた。
ジャスコはイオンになって、田んぼは埋め立てられて、びっくりするほどなくなった。なんの変哲もない地方の町だ。
CCスクエアももうない。とても大きなスポーツ用品店になったようだった。

そして、わたしの生家ももうない。
わたしの家族は駅に近い場所に引っ越して、家は取り壊された。
壊された瞬間に立ち会っていないから、何回か、家があった住所にも行っているけれども、でも、やっぱり生家はあるような気がしてしまう。
今、グーグルストリートビューで生家のあった場所を見てみたら、セイタカアワダチソウしか生えていない更地となっていた。

わたしの栃木市箱森町はもうわたしの中だけに存在している。

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