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【論文紹介】A Investor's Guide to Crypto【暗号通貨】

最近Journal of Portfolio Managementで発表された暗号通貨に関する論文がためになったので、定量分析面での結果を簡単にご紹介します。図表などは載せられませんがご容赦ください。著者たちは主にマン・グループというイギリスの老舗ヘッジファンドの中の人です。


暗号通貨のボラティリティは確かに高いが、現金を上手く混ぜることでボラティリティを十分コントロールできる

暗号通貨は一般的にかなりハイリスクな資産と見なされがちですが、他の伝統的資産と定量的に比べたらどうかを著者らは検証しています。全サンプル期間(2017-2022)におけるビットコインの日次リターンの標準偏差(ボラティリティ)は4.9%であり、年率換算すると約80%程度の水準です。一方で、S&P500のボラティリティは日次で1.2%、年率で19%なのでビットコインよりも1/4程度です。このことはビットコインを運用資金の1/4投資をして残りを現金で保有する戦略とS&P500に全額投資する戦略のボラティリティが同程度であることを示唆します(当たり前ですが、、、)。

注目すべき点はテールイベントの発生頻度の比較です。今、標準偏差が3以上のレンジを超えるイベントをテールイベントと定義して、サンプル期間でビットコイン、イーサリアム、S&P500のテールイベント発生回数をカウントすると、なんとS&P500の方が暗号通貨よりも回数が多いことが分かりました。これは、2020年の1Qのコロナショックの期間で、S&P500が多く売られダウンサイドのテールイベントを経験した一方で、暗号通貨は株式ほど多く売られなかったことに起因しているようです。

また、暗号通貨も他の伝統的リスク資産同様ボラティリティの持続性(ボラティリティ・クラスタリング)を持つ一方で、ボラティリティが高いからといってその分将来リターンは高くなるとは限らない点に注意が必要です。

暗号通貨のトレンド・フォロー戦略

伝統的リスク資産で1~12ヵ月のモメンタム(トレンド性)を示す傾向がありますが、暗号通貨ではどうでしょうか?著者らは1ヵ月、3カ月、12カ月のトレンド・フォロー戦略をビットコインとイーサリアムに対して検証を行いました。結果として、どのホライズンのトレンド・フォロー戦略も単純なバイアンドホールド戦略よりもシャープレシオの観点でアウトパフォームすることが分かりました。

株式などの他の伝統的リスク資産との相関は平時では低いが、レフトテールの相関はかなり高い

まず、著者らは暗号通貨間の相関を見るために、Coinbaseで取り扱われている暗号通貨の15分足リターンを用いて、20日間のローリング相関を計測しました。結果、2018年以降約0.4~0.8と高いペアワイズ相関が示されました。暗号通貨の多くが異なる機能のブロックチェーンを持つにも関わらず、投資家たちはそれらの違いをあまり気にせず、一括りにリスクオン資産と見なして投資をしていると考えることができます。結局のところ暗号通貨間では分散投資効果は見込めないということになります。

では株式などの伝統的資産やファクターとの相関はどうでしょうか?株式がドローダウンしている局面とそうでない局面に分けて資産間の日中リターンの相関を測ったところ、平時においては平均的な相関はわずか0.02であった一方で、ドローダウン時には株式だと0.68になることが分かりました。つまり、アセットアロケーションに暗号資産を組み入れることで、平時においては分散投資効果を享受できますが、ドローダウン時には上手く機能しない危険性を示唆しています。ちなみに、ビットコイン/イーサリアムとS&P500の20日間のローリング相関を計測すると、2020年3月以前は0に近かったのに、それ以降はかなり相関が高まっている点にも注意が必要です。


今回ご紹介する内容は以上になります。論文では他にもメカトーフの法則に関する考察や、ビットコインはデジタルゴールドたりうるのかという点についての議論、フロー・ストックモデルに関する分析、機関投資家にとってポートフォリオに暗号通貨を追加するカストディや規制上の問題についての議論などが挙げられており、色々勉強になりました。暗号通貨周りの状況は日々目まぐるしく変わっていっているので、金融業に携わる人間の一人として常に動向をチェックしていければと思っています。


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