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国境の街

 笹舟をそのまま大きくしたような、頼りない舟が土色の川を渡る。板に腰かけた目線に水面が近く、ほとんど埋まっている心地だった。船頭の持つ長い櫂が川底を削るたび進んでいく。ほんとうに川底を削っているのかはわからなかったが、がりがりと不思議な音がしていた。おびただしい数の骨が沈んでいれば説明がつくような音だった。  海外に来たのははじめてだったから、こんなふうに国境を跨ぐのもはじめてで、手続きの仕方がわからず、一度はタイの出国手続きをせずに来てしまい、余計に往復することになってしま

    • 棒立ち

       譲二には鼻の横に大きなほくろがあったが、誰もそのことについては言わないまま四年生の秋に除去した。  それから少しして歩が、譲二の顔は四角いと言い出した。デカ四角い。プリントが配られるたび歩はお前ほんと美白だなと言い、箱型の筆箱を逆さにして鉛筆吐くなよと言い、机に座って俺のケツ穴どんなニオイ? と言った。だから私も雑巾やゲームボーイを譲二と呼んだ。ごめん譲二! 一塁ベースを踏んで私は笑い、打たれた歩も笑い、ごめん俺! と三塁を蹴る譲二も笑った。  私たちはいつも一緒だった。校

      • 公開作品まとめ

        現時点でネット上に公開している作品をまとめました。 第1回ブンゲイファイトクラブ参加作品 「来たコダック!」(6枚) 第2回ブンゲイファイトクラブ参加作品 「voice(s)」(6枚) 第3回徳島新聞 阿波しらさぎ文学賞 大賞作品 「あまいがきらい!」(15枚) お気に入り。 「Qちゃんの朝」(15枚くらい) 第1回かぐやSFコンテストHonorableMention(選外佳作)作品 「Real Name」(10枚)

        • Real Name

          〈幸也〉という文字を、私は読むことができなかった。  校庭ではたくさんの子どもたちが授業で習ったばかりの影踏みをして遊んでいた。広々とした校庭を、私は鬼に影を踏まれないよう必死に駆けていた。そうして疲れてくるとどこか建物の影に自分の影を隠そうと思ったのだけど、まだ陽が高く隠れ場所が少なかったし、目立った影はもう鬼が先回りして見張りをつけていた。そうでなかったら私はあんなところには行かなかっただろう。  へとへとになりながら私は、当時もう廃棟だった校舎まで逃げ、その仄暗い影の中

        国境の街