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位牌や仏壇は我が家に必要なのか? 新しい弔いの形に仏壇トランスフォーム

新しい弔いの形を求めて
 
家族それぞれに「弔いの形」があると思います。
私は昨年末、母の介護のために退職したにも関わらず、退職後、1ヶ月で母が急逝してしまったので、まだ気持ちが整いません。
「かあさん、これからだったのに・・・」と。
それでも葬儀や自宅の引き払いなどは待ってくれません。
葬式を決め、戒名を決め、墓地を決め、バタバタと作業しながら、やっと四十九日を越えました。
いまは毎日、線香をあげ、水を取り替え、遺影を拝んでいます。
無宗教の生活からいきなり仏教徒の習慣に染まりました。
 
母も私も特定の宗教を持たないので、いままでは多くの日本人と同様に、多神教的な行動様式で、神社にもお寺にも詣るし、クリスマスを祝います。なんならハロウィンも、バレンタインも楽しみます。
それは宗教心がないわけではなく、日本人らしい八百万の神々に敬意を表しているのだと考えていました。
なのに何故か、人生の最後になると、突然「仏式」になるのは、とても不思議でした。
 
とはいえ、法的な拘束もあり、葬儀で時間がない時に周囲と面倒を起こさないという判断で、ここまでは病院・警察や葬儀屋が用意した楽な方、お仕着せのコースがある方の選択をしてきました。
その帰結が「いつの間にか仏式」の弔い方でした。
少し落ち着いてきたので、この「多神教の自分が、いつの間にか仏式」という流れに対する、ささやかな抵抗として、これから生涯、自宅に持ち込むことになる「位牌」や「仏壇」について熟考することにしました。
 
これは、自分のライフスタイルにマッチした、自分らしい弔い方を見つける旅の話です。
 
位牌と仏壇の必要性
 
まず位牌と仏壇の必要性を検討しました。
墓地を永代供養してくれる築地本願寺にしたので、そこの宗派である浄土真宗の仏具の考え方から調べました。
 
すると浄土真宗という宗派を重視するなら「位牌は作らない」が正しいということを知りました。
その代わりに浄土真宗のしきたりでは、過去帳や法名軸に手を合わせ、「南無阿弥陀仏」と念仏を唱えます。
正直、これも利便性の面で銀座に近い築地本願寺に墓地を決定してから知ったことです。
*この墓選びの経緯については、こちらの記事をお読みください。
新しいお墓選び「築地本願寺倶楽部」 21世紀の家族の終活 – ゴキゲンLifeShift (gokigenlifeshift.com)
 
ただなじみのない自分には、浄土真宗のしきたりで、過去帳に手を合わせ、念仏を唱えるスタイルも、正直、母の弔いに、心が入るかと問えば、ピンときません。
重要なのは、母を思い、母の供養を念じることなので、自分らしいスタイルを模索すべきだと考えていました。
 
第2に、経済的な側面もありました。位牌や仏壇など自宅用の供養セットは意外と高額です。
検索すると「位牌を作ると5万円」からと出ますし、加えて仏壇を作るとそれ以上かかるというのがお定まりコースです。ここまで、葬儀や、墓地で散々、業者に言いなりになって、お仕着せコースで支払いしてきたのですが、どうも国民規模の宗教的集団詐欺にあってる気分です。家に持ち込むものを購入するときは、半年間、物欲を抑制して、それでも欲しいものを、半年後に買うスタイルを貫いてきた自分には、これが一番ピンとこなかったのです。
自分なりの工夫がしたくなりました。
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物欲抑制装置 アーリーリタイアに向けた支出抑制の入口戦略 – ゴキゲンLifeShift (gokigenlifeshift.com)
 
マンションや現代の暮らしに似合わない従来の仏壇・仏具
更に、我が家のマンションのスペースとそこでの自分のライフスタイルが、どうしても仏壇と馴染まないのです。洋風のつくりに、いきなり「仏壇」という和式の弔いの形態を挿入する違和感こそ、「母を思い、母の供養を念じる」信心とは別のものになると思いました。
 
それを解消するために、いまでは洋風の仏壇などの様々な新しいスタイルがあることも今回学びました。
しかし、いろいろネットで調べても、デパートなどで現物を見ても、自分らしいか、と問うとピンときませんでした。
 
オリジナルの祭壇をつくる決意
 
そこでまず仏壇を作るのはやめました。自分の「創意」を発揮して、自分オリジナルの祭壇を我が家に取り入れようと思いました。
 
その前提で、「位牌」について、じっくり調べてました。
 
日本の風習にありがちなのですが、古来からの風習だと思われていることの歴史は意外に浅いのです。
しっかり調べると、明治期以降、古くても江戸期ということが多いです。
「私は信心深い」風に、他人に「すべき論」を説いてくる人ほど、知ったかぶりで自分で調べてもいなくて、来歴や意味を知らないことが多いものです。
 
歴史好きはこういう状況ほど疑い深くなります。
 
位牌はいつ日本に来たのか?
 
まず、インド仏教と位牌は関係がないそうです。
仏教とは無関係?!臨済宗から広まった「位牌」の意外な歴史 | お知らせ・コラム | 葬式・葬儀の雅セレモニー (miyabi-sougi.com)
 
上記のWEBでは、日本に入ってきた位牌の祖になるのは、古代中国の先祖崇拝にあるとのことです。
コラムで紹介されている、黒い布の「銘」や後漢の「主」です。特に「主」の説明が気になります。
「後漢の時代(25年 – 220年)、上流階級が亡くなると故人の慰霊のために「主(しゅ)」とよばれる、黒漆で塗られた特別な木製の箱が作られたという資料が出てきます。「主」は立方体もしくは四角柱で、その側面に丸い穴が開いた形状をしています。その穴を通じて箱の中に故人の霊魂が入るとされました。」
 
この「主」の起源は、ウェキペディアにも記載されています。
位牌 – Wikipedia
位牌は故人の戒名や法号を記した板で中国の儒教にルーツを持っている[7]。儒教では後漢のころから位板(いばん)・木主(もくしゅ)・神主(しんしゅ)・虞主(ぐしゅ)等の名称で40cm程度の栗の板に生前の位官や姓名を心霊に託す風習があった[7]。
この中国儒教の独自の「主」を日本に導入にしたのは、南宋から帰国して、臨済宗を起こす栄西でした。
同時代の記録に長享三(1489)年、臨済宗の仏式で行われた九代将軍・足利義尚の葬儀に位牌の最初の記録を見出すことができます。
 
位牌の原初を探る
 
ここまでは、Webで調べればわかることなのですが、ここから先は歴史探偵としての想像を含みます。
先ほどの儒教の「主」の説明で「立方体もしくは四角柱で、その側面に丸い穴が開いた形状をしています。その穴を通じて箱の中に故人の霊魂が入るとされました」と、ほぼ同じ意図を持つ構造物があります。
 
それが、「ピラミッド」です。
 
私はエジプト文明のビデオ作品をプロデュースした経験がありまして、それを制作する過程で、早稲田大学さん関係でかなりの量のピラミッドやエジプト文明の文献を読ませていただき、それなりの知識を持っているつもりです。
ピラミッドの建造は、「亡くなった王の魂(バー)が、王の棺から出て、細い穴を通じて出ていくが、弔いが成功すると、いつか戻ってくると信じられており」、ピラミッドやミイラはその復活の装置だというのが通説です。
これは棺の中に書かれている「死者の書」などで語られる「魂の物語」なのです。
 
そして、その意味で私が「位牌」の直接の起源と考えるのが、古代エジプト以降、巨大なピラミッドを建造できなくなった後期エジプト文明で見られる「オベリスク」です。
 
みなさんは、オベリスクというと、パリのコンコルド広場を思い出したり、アメリカ・ワシントンを想起されると思いますが、あれは各時代の英雄が勝手にエジプトから持ち出した泥棒の証(笑)です。
 
オベリスクは、力の落ちてきたエジプト王家の「新たな弔いの形」でした。
実は単体のオベリスクとしては成立してなく、埋葬された「死者の谷」と一対で考える必要があります。
実際に現地に行くと「死者の谷」の形状、そのものが三角錐で「ピラミッド」を表しているのです。
個人埋葬から、死者の谷への「集団埋葬」になりましたが、その段階で、個人を象徴するものが「オベリスク」になりました。ここに「王の名前」を刻むことで、王は栄光の中に弔われるのです。
エジプト文明では「王の名前」こそが栄誉であり、最上の価値でした。その意味で、最高の罰が「歴史から名前をはく奪する」ことで、墓石や遺跡から根こそぎカルトーシュという王の名前を削り落としてしまうという刑罰でした。
私は、「オベリスクに死者の名前を刻む」、これこそが、「位牌」の意図であり、古代中国の先祖崇拝の仏具になった理由だと推察しました。
 
オベリスクは、卒塔婆の起源であると言われることがあります。
「卒塔婆は古代インドで「仏塔」という意味のサンスクリット語「ストゥーバ」を漢訳したものであり、ストゥーバ(仏舎利塔)とは釈迦の遺骨を納めた塔のことです。」
卒塔婆の起源も、遺骨を納める「塔」なのです。
 
エジプト文明の影響は、世界中に広がっており、いろいろな形にアレンジされていきます。
中国に入るころには、大幅にサイズダウンして、「主」になった可能性がありますし、インドでも、「塔」の程度にサイズダウンした可能性は大いにあります。
 
その意味で、魂の復活を願うピラミッドの巨大な影響が、中国経由で「位牌」になり、インド経由では「卒塔婆」になり、それらが原初の意味も不確かなまま日本に「仏具」として流入されたのではないかと考えています。
 
(LD:レーザーディスク)地球カタログ ピラミッド
商品番号 PILW-1057
*現在は、DVDのみ、以下の解説資料は入手不可能です。本当は膨大な数の静止画資料を見ていただきたい。

オリジナルのオベリスクを「位牌」にするプロジェクト
 
蘊蓄はそこまでにして、自分なりの「弔いの形」を見つける旅は、この「位牌はオベリスクが原初」という直感に基づいて、母の弔いのために自作のオベリスクをつくろうというプロジェクトになりました。
我が洋風のマンションにも似合うオブジェの感覚で制作し、自分のライフスタイルにマッチした祈念をするために、自分らしいオリジナルの位牌を、得意の陶芸で自作することにしました。
 
制作過程を写真で紹介しています


これを自宅のマンションの廊下のギャラリーにに持ち込むとこうなります。
いただいたドライフラワーに加えて、自作の線香立てや水差しと並べます。
母だけ特別あつらえた、世界中に一つしかない「弔いの形」です。

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