悪人目線の世界を描く【デンタウン】

興味深い絵本と出逢いました。

その名は『デンタウン

簡単なあらすじ


とある一家がある地へ降り立ちます。

そこから開拓を始めます。

自らの家をつくり、
街をつくり、

レストランや病院、学校、映画館、遊園地。

やがてそこへは大勢の人が集まって、とても賑やかな街へと変貌を遂げます。

ある日、その街は破壊されます。

実は、その土地とは、人間の口の中の『歯』であり、
破壊行為とはすなわち歯科における『抜歯』であったのです。

視点をズラす

幼児向けの絵本が陳列されているなかから子供が探し出した1冊。

表紙には歯が描かれており、おそらく歯にまつわる話であり、『はははのはなし』に代表されるような、『歯を磨かないと大変なことになるぞ』というメッセージ性のある本であろうと思っていました。

ところが一緒に読んでいると、一貫して虫歯の元となる『ミュータンス菌』が主役として一人称で話が進んでいきます。

彼らの街が発展する=虫歯が進行する

これが遂に抜歯にまで至るのですから穏やかではありません。

しかし主役の彼らは栄華を極めるというか、充実した日々を送っているようにただただ描かれているのです。

歯を磨きましょうという直接的なメッセージは登場しません。

ここに子供は面白さを見出したようです。

そしてこの本を広げつつ、歯磨きをして欲しいと要求するようになりました。

「デンタウンが壊れていく様を実況しつつ、歯磨きをして欲しい」というのが具体的リクエストです。

もたらす効果

絵本ですので、単純にエンタメとして楽しめばそれでよいのでしょうが、
子供は直接的なメッセージはなくとも『歯を磨く』という行為の重要性を感じて本書を見ているようです。

この様子をみると、正論として

『虫歯になるから歯を磨こう』
などと親としては揺るぎない正義と思って歯磨きを迫り、
遊びたい一心でそれに抵抗する子供
という、これはどこの家庭でもみられる攻防戦ですね。

しかし少し視点をズラして問題を提示すると、『楽しみ』として子供は受け止めながら物事の重要性を認識していく。

本書を通じて、正攻法で迫ることから、少し変わった戦略の新鮮さと効果を感じさせられました。


おわりに

デンタウン、すなわち彼らがつくった街(=虫歯)は、かなり細かく描かれています。

そのどこに主人公の僕やその両親がいるのか。

まるで『ウォーリーをさがせ!』
のような楽しみ方も出来そうです。

まだ発売されて間もない絵本ですが、色々な楽しみ方ができる1冊になりそうです。

おしまい

最後までお読みいただきありがとうございます。 いただいたサポートは麦チョコ研究助成金として大切に使用させて戴きたいと思います。