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アザミの粘り勝ち

ある日、食虫植物にハマっている子供が、食虫植物の図鑑を開きながら説明を始める。

すると家族の別の1人が
「アザミも食虫植物じゃなかったかな?」

子供はアザミを知らず、その件についてはそこで終わった。

しかし、傍でこのやりとりを耳にした私はずっと引っかかっていた。

なぜなら全く無関係な話にしては『アザミ=食虫植物』と、登場人物が具体的過ぎるからだ。

そして時間に余裕が出た時に調べてみることにした。

すると私は驚愕の事実を知ることとなった。

そもそも冒頭のアザミの発言をした家族の根拠は、アザミの花の下の部分がベタベタしていることを知識として知っていたからだった。

確かにアザミは花の下の部分から粘りのある粘液を出す。

この粘液によって、アブラムシなど茎をよじ登って、陸地伝いで花までアクセスしようとしている輩を御用とばかりに捕まえるのだ。

その理由は、花の蜜を奪われないためだ。

アザミとしては、花の蜜を吸う虫には空を飛んで欲しい。
なぜなら花粉を体に纏ってなるだけ遠くへ飛んでいって欲しいからだ。
その点、陸地伝いで花を失敬しにくる連中には、花粉の遠方への配達は望めず、win-winではない。むしろ泥棒といっても過言ではない。
そんな蜜泥棒を捕まえるシステムを保有しているアザミには驚きだ。

しかしこのシステムは、招かれざる客の撃退術ではあるが、食虫植物という活動ではない。

実はさらに驚く仕掛けを持つ植物が存在していた。アフリカ原産のロリドゥラ科の植物には、ベタベタの長い腺毛が生える細長い葉がある。

その葉には、昆虫の死骸がたくさん付着する。しかしこの分泌される粘液には消化酵素が含まれておらず、昆虫を食す食虫植物ではないようだ。

実は腺毛に絡め捕られた昆虫を食べに、カメムシのような肉食性の昆虫がやって来る。ロリドゥラはこのカメムシたちの糞を栄養として葉から吸収しているらしい。

窒素に乏しい湿地の土壌から栄養を摂るのではなく,肉食性昆虫の窒素豊かな糞から栄養を摂るというなんとも効率的な手法を有していた。

カメムシはといえば、餌となる昆虫を飛び回って探し回るのではなく,ベタベタの植物の上を歩きまわるだけで効率よく食べることが出来るのだ。

 さらに驚くべきは、このカメムシには体表に特殊な脂質の層をもち,それが体表から剥がれることで、ベタベタする粘液の上を自由に歩き回れる。

カメムシとロリドゥラ属植物の両者は相利共生の関係であると考えられる。

ロリドゥラは、消化酵素を用いて捕らえた獲物を消化し、栄養にするステップを踏むことなく糞の栄養分を戴く。

なんともローコストでエコな仕組みである。

直接的な食虫植物ではないが、虫を弥生時代の高床式倉庫の『ネズミ返し』の如く粘液で追い払うメカニズムを持ったアザミ。

やはり当たらずとも遠からず。

『そんなわけがない』と決めてかかるのでなく、試しに調べてみると意外なことがわかるという一例であった。

おしまい

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