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はじめての「かなしばり」…?

「かなしばり」というものがある。意識はあるのに、身体が動かせないというアレだ。
それが先日、僕の身にも起きた。
もしかすると起きていないかもしれない。
どっちなの?と聞かれると困る。
僕自身にも分かっていないのだ。
ただ少なくとも、僕はかなしばりというものを軽んじていた、ということを痛く思い知らされることとなった。

「意識」というものは必ずしも覚醒時のものとは限らないと考える。たまに、第三者視点で見る夢や、「自分」が登場人物として現れない夢を見る場合もあるが、大抵は自分視点で見る夢であることが多い。少なくとも僕はそうである。
その時、明らかに非現実的な事が起きようとも、ちゃんと自分の意思で考えて行動しているはずだ。殺人鬼に追いかけられれば恐怖を感じて逃げるし、大切な人が攫われれば助けようとする。夢の中の自分は、現実とは多少異なれど自我があるということだ。

ここで何が言いたかったかというと、「夢の中」の意識で身体を動かそうとしているのに「夢の中」の身体が動かない、すなわち「夢の中でかなしばりにあう」こともあるのではないか?ということだ。
いや、この場合は「かなしばりにあう夢を見る」というのが正しいかもしれない。
眠っている間にも「夢の中」に意識がある事を認めるならば、おそらくありうることだ。
ただ、どちらの表現にせよ、これでは実際にかなしばりにあったとは誰も認めてくれないだろう。あくまで夢の中の話な訳だから。

たまに、夢の中で「あっ、これ夢だな」と分かる時がある。もっとも、そういう時はほぼ目が覚めかけていて、「夢なら何したって構わねぇよなぁ〜」と悪知恵が働く頃には現実に引き戻されている。この瞬間ほど、もっと明晰夢の練習をしておけば良かったと後悔することはない。
夢を夢だと気付くタイミングって、普通は目が覚めた時だ。あとになって「あ〜アレ夢だったのか」となるパターンの方が多い。あれほどまでの違和感になぜ気付けなかったのかとやるせなさを覚える経験は誰もが一度はあるのではなかろうか。
一方、フィクションでよく見る話だが、自分の頬をつねって夢じゃない事を確認するシーンがある。あれは、現実を現実だと気付くパターンだ。実際にやったことある人っているのだろうか。もし自分の頬をつねって夢から覚めた人がいたら面白いな。

少し横道に逸れてしまったが、普段僕らは自分が夢の中にいるのか、現実にいるのかの判断を結構無意識でやってのけている。事実、「今のあなたは現実にいると言えますか?」という問いに明確な根拠を持って答えられる人は少ないのではないかと思う。僕らは感覚で現実を生きている。

改めて、先日僕が体験したかなしばりの話に戻りたい。あの日、確かに僕は、「意識があるのに身体が動かない」という体験をした。
だが困ったことに、それが夢であるとも現実であるとも判断がつけられないのだ。そのため、心の底から「いやぁ〜、かなしばりにあっちまったよ」と言えずにいる。
このモヤモヤに終止符を打ってくれる人がいると願い、他人の夢の話ほど無益なものは無いの分かっているのだが、あの時僕が見た夢の話をさせて頂きたい。

かなしばりにあったのは昼寝の時だった。
午後1時頃、睡眠負債を返済すべく布団に入った。そして、部活動を始めた。この時点でだいぶ夢すぎるのだが、中学の頃のメンツと高校の頃のメンツが混じって一緒に練習していたのを見て、はっきりと夢であることを悟った。知人の年代がごちゃ混ぜになるパターンは夢あるあるだ。
問題はこの後だ。
同棲している彼女がバイトから帰ってきた。
ドアの開閉の音や「ただいま〜」という声で、僕は部活動の夢から覚め、嘘の青春から現実に引き戻された。
そして「おかえり」の返事をしようとすると、どうもおかしい。声が出せそうにない。そのことに気付くと同時に、呼吸が出来ていないことにも気付く。一瞬呼吸の仕方を忘れた事がある人になら通じると思うが、あれがずっと続く感覚だ。焦りを感じ、彼女を呼ぼうとするがやはり声は出ない。それどころか、身体も全く動かないことにここで気付く。このままでは布団の中で溺れてしまう、と必死にどうにかしようと抗っているうちに、呼吸の仕方を思い出した。息を切らしながら身体を起こし、「あ、身体も動く」と安堵する。
これが俗に言うかなしばりというやつか、と終わってみれば呑気なものだ。貴重な体験が出来たことにテンションが上がった。
完全に覚醒した僕は、かなしばりにあったことを彼女に伝えようと彼女を探すのだが、どうしたことか、彼女の姿はどこにも見当たらなかった。そういや俺彼女いなかったわ、的なことではなく、彼女はまだバイトをしている時間だったからだ。LINEで「一回家帰ってきた?」と聞いたが返事はNOだった。

要するに、彼女が帰ってきたことで夢から覚めたが、彼女が帰ってきたこと自体も実は夢だったということだ。夢を見ている夢を見るなんて、なんともややこしい。
それよか、「彼女が帰ってくる→かなしばりにあう→身体が動く」の一連の流れがあまりにシームレスであり、夢から現実に切り替わったタイミングが分からない事が問題だ。一体、僕はいつ目覚めたんだ。
実は、かなしばり中に夢か現実かの判断するのはとても難しいのだと分かった。いつも寝ている布団からの、見慣れた景色。違和感があるとすれば身体が動かない事だけ。あまりに大きすぎる違和感だが、それが起こってしまうのがかなしばりというやつだ。せめて、自分の頬をつねることが出来れば、こうはならないのだが…。

あれこれ考えてみたが、結局答えは見つからないので、あのかなしばりは現実だったという事にする。その方が、自分の経験値が上がった気もするし、「ドアの音は彼女ではなく不法侵入者のもので、まだ家のどこかに潜んでいる」「実はまだ夢から覚めておらず、これも現実では無い」といったホラー展開を否定できるからだ。
みなさんもかなしばりにはどうか気をつけて。

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