拒絶~「保つ」ための受容と拒絶~⑦

1.社会の拒絶と「死」
「他のどの食べ物よりもまっさきに強く惹きつけられたチーズに、はやくも彼はガツガツとむしゃぶりついた。たちまちのうちに彼はチーズを、野菜を、ソースを、目には満足の涙さえ浮かべて平らげた。ところが新鮮な食べ物の方はさっぱり気に入らず、そのにおいからして我慢できずに、食欲をそそられる食べ物の方を少しずらして遠ざけたいくらいだった。」

これは、グレゴールが虫に変身してそれまで真面目に取り組んでいた仕事を休まざるを得なくなり、会社の人から見放された後の場面である。

グレゴールは新鮮な食べ物を遠ざけ、腐った食べ物、特にチーズを好んで食べる。

仕事という社会的な立場を失ったグレゴールは、大衆の人に受け入れられる食べ物と自分を無意識のうちに照らし合わせ、そういった食べ物を拒んだのではないかと考える。

そして一般的には遠ざけられる腐ったものを自分と同じようなものだと認識して食べたのではないだろうか。

グレゴールは特に腐ったチーズに夢中になるが、そのチーズは、彼が数日前に「こんなもの食えるか」といって拒絶したものである。

彼は社会を受け入れていたときのかつての嫌ったチーズを虫になった後には積極的に受け入れることをした。このようにグレゴールは社会に拒絶され、社会的に受け入れられるものを拒んだ。これは「社会的な死」といえると考える。
また、グレゴールにとって家族はこの世で唯一信頼している対象であり、唯一大切なものであった。

そのため、家族のためにできることは何でもしたいと考えていたといえる。

彼にとって家族は自分の外にいるものでありながら、自分というものを成り立たせるために必要不可欠な存在であった。

よって家族のためにやりたくない仕事に精を出していたと考える。

グレゴールは虫になって仕事を失ったが、それによって長年縛られていた固定観念から脱し、視野を広げることができた。彼はそのことに対し喜びを感じていた。

しかし一方で、家族という枠組みからは離れられていないと考えられる。

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