拒絶~「保つ」ための受容と拒絶~⑩

4.「変身」における家族関係と食の関わり
ここまでの経緯から、彼は、自分の家族を信じることができなかったのではないだろうかと考える。

家族がいることによって自分はこの世にいる意味がある、家族は自分の一部であると感じていたグレゴールにとって、家族のことを信じられないということは自分のことも信じられないということであり、これまで述べたような食の拒絶に及んだのではないか。

グレゴールが虫になったことがきっかけにより、ザムザ一家は誰しも余裕がなくなり、やり場のない苛立ちを周囲にぶつけていた。

グレゴールの世話を押しつけられていた妹は彼に対し最低限の世話しかしなくなった。

彼女は兄のことだけでなく、両親、特に父のことを気にかけていた。

その父親は妹が世話をしないことを母親のせいだと責め立てながらも妹には金輪際グレゴールの世話をするなと怒鳴った。

父は家族の一員であるグレゴールと妹が距離を縮めることに不安を抱いていたのではないかと考える。

グレゴールの母親は怒る父親を無理矢理寝かしつけた。

子どもたちの味方になりたいと思いつつも、父の怒りを鎮める手段が思いつかずになだめることしかできなかったのではないだろうか。

グレゴール自身も、自分の世話をしない家族に対しやり場のない怒りを覚え、彼ら触発しない程度に反抗をするようになった。

ザムザ一家はその誰しもが、家族以外の世界を受け入れていなかったのではないかと考える。

このようにして、グレゴール、並びにその周囲はある出来事があるたびに自分のことは受け入れられていないと感じ、家族のことも受け入れられなくなっていった。

グレゴールはそうした経緯によって食を拒むようになっていったのではないだろうか。

もしグレゴールが会社の人や家族を受け入れる、もしくは受け入れてもらうことがあったのならば、このようなことは起きなかったのではないかと考える。

言い換えれば、人間としてのグレゴールは物語が進むにつれ拒絶され、殺されていったと同時に、自分自身でも、周囲や自分のことを受け入れられず死んでいったということであるといえる。

そしてこれは、グレゴールだけではなく周囲にもいえることだと考える。

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