三島由紀夫の事件は、私の人生には大きな影響があった。

あの日、わたしは高校を中退し、上京、出版社に勤めだしたころだった。

会社に夫から電話があり、もうやめてしまえ、会社なんか。大変なことが起きた。

市ヶ谷に行こう。

電車に乗ると、みんな泣いている。すし詰めなのにシーンとしている。

不気味な異空間であった。

市ヶ谷の駅から出られず、深夜まで駅にいた。

軍駐屯地に行っても、駅に佇んでいても、何の情報もない時代。わかっていた。

一人ではいられない。あの『豊穣の海』の余韻に抛られた、後にくる自分がどうなるか。


唇をかみしめ、こぶしを握った人の群れ。

悲しみよりも悔しさのように、まだ10代の自分には見えていた。

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