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入社10年目管理職になるためのヒント パート1‐⑥

みなさま、はじめまして。Mori-Chan と申します。
本シリーズより、パラレルワークを実践する中小企業診断士として執筆させて頂きます。よろしくお願いします。
初回に紹介がありましたが、私はインドに3年間駐在した経験があり、「日本の常識はインドの非常識」(逆もまた真なり)を身をもって体験してきました。そうした体験も踏まえて、管理職になるヒントを皆さんに提供できたらと考えています。

X社社長の相談の第3回目です。
前回までのあらすじと相談内容は、こちらをご覧ください。

1.成長マトリクス

X社はこれまで親会社であるXY社のPC関連機器を扱ってきたが、コロナ禍で需要が高まっている、在宅勤務やオンライン会議の商材は扱っていなかったため、ニーズを取り逃がしてしまっている状態である。また、対面販売を中心とした営業手法の限界もあり、売上が減少傾向となっている。
新商材をラインナップに組み込み、ターゲットと製品を分析することで、再び成長軌道に乗せたいと考えている。

相談を聞いたコンサルタントCは、X社社長と成長戦略を立てることにした。X社社長はニーズがある商品を扱えば売上があがるはず、と漠然とは考えていたが、どのような商品を誰をターゲットに販売するか、は定まっていない。
コンサルタントCは、手探りで新商材を販売開始する前に、これまでX社が扱ってきた商品と顧客層をもとに、単なる商材の追加ではなく、成長戦略として検討することを提案した。戦略を考える際には、アンゾフ成長マトリクスを参考にして議論することにした。

アンゾフ成長マトリクス

コンサルタントCは、アンゾフ成長マトリクスから、X社の状況を以下のように分析した。
・X社は、商品としてはXY社のPC関連機器を、市場としてはIT化があまり進んでいない中小企業をターゲットとしてきた。これまでは、既存の商品を既存の市場に提供する市場浸透戦略を実施してきたが、アフターコロナでの既存商品の需要の低迷、営業手法の限界から、市場浸透戦略を続けていくことが難しい状態と言える。
・市場面を見ると、X社は地方の営業拠点を閉じて東名阪に拠点を集約し、リモートワークに対応した営業体制の変更を進めていく方針である。この営業体制の変更が落ち着き、さらにはリモートワークを使った営業手法が定着するまでは、現在のターゲット市場を捨てて、新規市場へ参入することは時期尚早である。
・商品面を見ると、既存商品は需要が低迷しており、アフターコロナでニーズの高い商品を新規商品として取り込むことが必要である。こうした状況から、X社は最初に新商品開発戦略を進めていくことがよいと考えられる。
・営業体制が整い、新しい営業手法が定着すれば、リモート営業を中心に、新市場を開拓することができる。新商品開発戦略の知見を基に、次の戦略として、新市場開拓戦略多角化戦略に切り替えていくことができる。
したがって、X社の成長戦略としては、①新商品開発戦略、②新市場開拓戦略、③多角化戦略の順で推進していくことを提案した。

X社社長は、コンサルタントCと戦略を立てていく中で、自身のアイデアである新商材の取り扱いが、既存市場へ新商品を提供する戦略として明確に意識できるようになった。また、この戦略に従うには、在宅勤務やオンライン商材を新商品として扱うとしても、既存市場に提供することを意識してラインナップを選定することが必要であることも理解した。

2.新商品開発戦略の進め方

X社の成長戦略の大方針が固まってきたところで、X社社長から「戦略を進めていくためのアプローチとしてはどう考えていくことがよいだろうか」、という疑問が登場してきた。コンサルタントCは思考の枠組みとして、扱う商品のカテゴリー幅と各カテゴリー内のアイテム数である奥行きで考える、次のマトリクスをX社社長に提示した。

商品から見た現状分析

コンサルタントCの現状分析は次の通りである。
・現状のX社はPC関連機器のみを扱っており、また、親会社であるXY社の商品を中心としているため、商品カテゴリーも狭く、アイテム数も浅い、右下の領域にいる状態である。
・裏を返すと、X社は商品カテゴリーやアイテム数を絞ることで、特定の商品を深く理解し、商品のよさを前面に出すことで顧客を獲得する営業手法を確立していると言える。
・この強みを活用するためには、取り扱う新商品についても、カテゴリーを広げることを意識し、アイテム数は絞り、右上の領域を目指すことが目標となる。
X社社長はコンサルタントCの分析に納得し、取り扱うカテゴリーはできるだけ広く、アイテム数は既存の顧客のニーズにマッチした商品に吟味することで絞り込み、新商品の特長を営業員が深く理解したうえで、戦略を推進することに決めた。

3.X社の成長戦略

X社社長はコンサルタントCとの活発な議論を通して、漠然としていた新商品を扱うというアイデアが、X社の成長戦略として明確になったと感じた。
<X社の成長戦略>
●既存のお客様に、在宅勤務やテレワーク会議で活用できる新商品を提供し、クロスセルを伸ばす、新商品開発戦略を推進する。
当初のターゲットは既存のお客様であることを意識して、取り扱う商品を選定する。
●新商品については、カテゴリーは広げつつもアイテム数を絞り込み、商品のよさを深く説明する強みを引き続き活かす。
●営業体制の刷新を進めているが、体制が確立されてきたところで、新市場開拓戦略を推進する。

X社社長はこの成長戦略に沿って、コロナの影響による売上減少から反転攻勢をかけられるのではないか、と自信が湧いてきた。
今後もコンサルタントの知見を生かして、X社を再び成長軌道に乗せていこうと決意した。

コンサルタントCの提示した、成長戦略はいかがでしたでしょうか。
X社のように、コロナによる影響を受け、新商材の開発や、事業の再構築を迫られる企業は少なくないでしょう。しかしながら、指針も方針もなく、やみくもに突き進んでは事態をより悪化させるだけです。
一歩引いて自社の立場や市場におけるポジションを分析し、成長戦略を明確に示すことで、取るべき行動もはっきりとします。
コンサルタントCが提示したフレームワークも、実際にはX社社長の頭の中には何となくあったものですが、枠組みを知っておくだけで、様々な選択肢のうち、どれが望ましいのかを見分ける大きな武器になります。
ちょっとした、思考のコツ、ではありますが、管理職になるためのヒントとなれば幸いです。

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