[神経内科] 歩行障害② 歩容

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[1] 歩容の観察

歩行は大脳、脊髄から末梢神経、筋肉に至るまで多くの器官が協調して初めて可能となる複雑な機能である。そのいずれかが障害されると歩行障害を来しうるため、多種多様な原因が考えられる。しかし、その中でもいくつか疾患特異的な歩容があるため、それを知っておくことは診断に役立つ。

1) 観察すべきポイント
歩行スピード、歩行時の姿勢・バランス、左右対称性、両下肢の幅、足の上げ方、歩幅、腕の振りなどを観察する。
診察室では間欠跛行をみることは難しいため、「何mくらい歩けますか?」「何分くらいなら休まずに歩けますか?」などの問診は必須である。

2) パーキンソン歩行 Parkinsonian gait
Parkinsonismを来す疾患で見られる。
スピード:はじめの一歩が出にくく、徐々に加速 (前方突進現象 propulsion)
姿勢:前傾・前屈位、肘関節を軽度屈曲
左右差:Parkinson's diseaseでは左右差が見られることがあるが、Parkinson's syndromeでは左右差がない(ことになっている)。
下肢幅:やや開脚ぎみ
足の上げ方:あまり上げず、すり足歩行をする
歩幅:狭く、小刻み歩行となる
腕の振り:腕の振りは小さい
鑑別疾患:Parkinson's disease、Parkinson's syndrome(血管性Parkinsonism、進行性核上性麻痺 PSP)、正常圧水頭症 NPH

3) 一側性痙性歩行 spastic hemiplegic gait
片側の錐体路障害によって生じる。
姿勢:Wernicke-Mannの肢位をとる
   麻痺側の上肢の屈曲・内転位+下肢の伸展位
左右差:片側の麻痺があるため顕著に見られ、麻痺側は足を上げられない
麻痺側は股関節を中心に弧を描くように回して歩く(ぶん回し歩行)
鑑別疾患:脳梗塞脳出血脳腫瘍など

4) 両側性痙性歩行 spastic gait
両側の錐体路障害による。
姿勢:両下肢が痙縮して伸展位をとる
左右差:左右の動揺性が強い
歩幅:狭く、下肢を交差させて歩く(はさみ足歩行)
鑑別疾患:脊髄腫瘍小児脳性麻痺、視神経脊髄炎、HTLV-1関連脊髄炎

5) 運動失調性歩行 ataxic gait
小脳性運動失調、脊髄性運動失調、前庭(迷路)性運動失調のいずれでも見られる。
姿勢・下肢幅:バランスの悪さを補うため開脚歩行(wide based gait)となる
左右差:体幹の動揺があり、よろめいて歩く
歩幅:不規則
鑑別疾患:多岐にわたる
 小脳性:小脳梗塞小脳腫瘍、脳幹梗塞(Wallenberg syndrome)、他系統萎縮症(旧名 脊髄小脳変性症)
 脊髄性:深部感覚障害(脊髄後索や末梢神経の障害)を来す傍腫瘍症候群、シェーグレン症候群、アルコール中毒、糖尿病性神経障害
  前庭性:前庭神経炎、BPPV(良性発作性頭位めまい症)

6) 鶏歩 steppage gait
下肢遠位筋の筋力低下による。
足の上げ方:つま先を上げられず、下垂足になり代償的に大腿を高く上げる
鑑別疾患:末梢神経障害(Charcot-Marie-Tooth病、CIDP、腓骨神経麻痺)

7) トレンデレンブルグ歩行 Trendenburg gait
中殿筋の筋力低下による。
姿勢:患側を支持脚とするときに体幹が健側にふらつくため、代償的に患側に体幹を揺らして歩く
鑑別疾患:中殿筋麻痺(上殿神経支配)、発育性寛骨臼形成不全(旧名 先天性股関節脱臼)

[2] 階段昇降について

外来において階段昇降は見ることが難しいので、問診で推定していく。階段昇降ができれば、下肢の運動障害はほとんどないと思って良い。
階段昇降は昇るときと降りるときのどちらが悪いか聞いておく。

[3] 階段を昇りにくいとき

神経原性 or 筋原性を考える。
遠位筋の筋力低下によって尖足位になると階段を昇りにくくなる。遠位筋有意の筋原性疾患はまれ(封入体筋炎など)のため、基本的には神経障害による。
近位筋の筋力低下があると、大腿を上げられないために階段を昇りにくくなる。近位筋有意に筋原性疾患があると症状が出やすく見つかりやすい。

1) 神経性:下肢の弛緩性麻痺があり、尖足位(鶏歩)であるとき
   足部 foot におもりをつけて階段を昇るような状態だろう。

2) 筋原性;下肢近位筋の脱力(筋力低下)があるとき
   皮膚筋炎、多発性筋炎が代表。

[4] 階段を降りにくいとき

軽度の錐体路障害か小脳性運動失調か脊髄性運動失調を考える。

1) 錐体路:下肢の筋緊張が亢進(痙縮)し、伸展位であるとき
      階段を昇るときにはささえ足が伸展位でも問題ない。
      階段を降りるときにはささえ足は屈曲位にならないと難しい。
      ニーブレースを装着したまま階段を降りることを想像すると良い。

2) 小脳:下肢の運動失調や体幹の運動失調を来す
      歩行障害が初発症候になる。
      下肢の麻痺がないのに階段を降りにくいときに考える。

[5] 運動失調時の階段昇降

ふつうは階段を昇るときには前傾姿勢をとる。
重心を後ろにしながら階段を昇ることはないだろう。

小脳性あるいは脊髄性の運動失調では、歩行時に上体が後ろに取り残される傾向がある(すなわち後傾気味になっている)。 
階段を昇るときには前傾姿勢をとるので、自前の後傾を打ち消してくれる。
階段を降りるときには後傾がさらに強まるために降りにくさを感じる。

もちろん、下肢の運動麻痺や運動失調が高度となれば昇るときも降りるときも障害を感じるだろう。

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