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このマガジンの狙いについて

 静と動。緊張と緩和。善と悪。瞬間と永遠。

 芸術の本質は二律背反にある。

 同様に、ビジネスの本質は「課題の解決」にあるという。「課題」とは、「やりたい(理想)けど、できない(現実)こと」――つまりは、これも二律背反である。

 二律背反。あるいは矛盾。

 矛盾とは、信義に反する武器商人のような、整合性のない、望ましくないものを意味する。しかし、矛盾のないところに、進歩もまたない。矛盾こそは、本来、人間や社会を前進させてきた活力源そのものである。

 ここに魚が好きな漁民がいたとする。だが、それは満足した個人がそこにいるというだけの話に過ぎない。
 漁民でありながら、米を食べたいという矛盾した欲求を抱えた時、人は慣れ親しんだ海辺を離れ、里へと向かう。
 そこで異文化が邂逅することにより、お互いの生産物を交換するための「市場」が生まれる。「取引」のための「制度」が整備され、やがて交換財としての「貨幣」が発達し、文化としては米と魚を融合させた「寿司」が誕生する。

 矛盾のない社会は安定している。しかし、それは長期的には緩やかな衰退といえる。究極の安定とは死であるが、そこには生と死の矛盾はもはや存在しない。
 矛盾は大きければ大きいほど、それが融和された時の便益もまた大きい

 同時に、矛盾は破滅への危険性も含んでいる。
 海の民と里の民の最初の邂逅は、おそらく相互不信からくる凄惨な武力闘争を伴う悲劇的なものだっただろう。
 我々の始祖は、文化人類学のいくつかの成果が示唆するように、憎悪の連鎖を繰り返しながら、少しずつ相互の理解を深め、やがて平和的な交流方法を編み出すことで、「win-win」の関係を構築していったものと思われる。

 矛盾が衝突する際に発生するエネルギーは、可燃性の高いガスのようなものである。個人や社会の内部における圧力を高め、発火点を超えれば暴発する。
 その暴発の最たるものが戦争である。
  上記の例にあげたような原始社会においては、他部族への脅威に対する感応性が高い環境下にあるため、矛盾の発展解消には、小爆発を繰り返しながらガス抜きをし、適宜、内部圧力を低下させる操作が必須となる。
 しかし、現代であれば、異文化による交換市場を成立させるために、わざわざ部族闘争をする必要性はない。

 このことは個人あるいは社会には、保有可能な矛盾の許容量(キャパシティー)が存在することを意味する。矛盾の破壊的作用は、内部圧力の高まりを受け止めえる大容量の器によって抑制される。

 言い換えれば、戦争とは、統合されることを必要とする矛盾が生じた時、主体者の能力が及ばないがために採用される、最も安易にして、ハイコストローリターンな手法のひとつである。

 現代社会には矛盾が山積みしている。これらは人類の発展可能性を示す福音の種でもある。
 これからの人類社会に求められているのは、矛盾が持つ破壊的な要素を上手く飼い慣らしながら、それらを克己超克し平和裏に発展に繋げていくための智慧である。

 このマガジンの狙いは次の三点にある。

・矛盾が持つ肯定的側面を意味あるものとして価値づけること。
・社会(あるいは個人)が保有可能な矛盾の許容量を増やすこと。
・そのための実用的な方策を提示すること。

 そして、それらを例示するために、人類的課題として筆者がとりあげるのが世界平和である。しかしながら、その狙いの射程には、より多くの人が幸せに生きられる社会を作っていくためには何が必要かという根源的な問いが含まれている。

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