〜絶対売らない100枚〜 No.11

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Computer World / Kraftwerk

例えば、10年前と今とで、自分の音楽観みたいなものは俯瞰的に見ればさほど変わったとは思ってないが、圧倒的に聴かなくなったのはやはりダンスミュージック系統のテクノ系の音である、エレクトロニカも最近のものに関してはやや興味が薄い。

そこら辺何故なのかと考えると、まぁ端的に言って「飽きた」の3文字に尽きるのかな、と思う。直感的に楽しめて踊れるものの何が悪いかと言われればそれは別にそれで問題ないのだが、そのインスタントな感覚にどうも白けてしまう自分がいる。そこ以外の部分にしても、全体の印象が過剰というか、カラフルに過ぎる。音色も録音も響きもどうも好きになれない、音圧が高くて低音域も高音域もギラギラしていて息苦しさすら感じる。斯様な体たらくなので、今となっては本流のダンスミュージックのCDは殆ど手元にない、アンダーワールドの諸作が棚に残っているのみである。

ずっと音楽を聴いていてなんとなく分かってきたことだが、それは音楽における「音」というのはデカけりゃいいってもんではない、ということである。迫力はあるかもしれないが、何度も聴くのはキツい。適度な、音響的な隙間がやはり必要なのだろう。

思い切って断言してしまうと世の中に溢れる大抵のエレクトリックな音は「コンピューター・ワールド」には勝てない。別に音楽に勝ち負けなどないが、色々聴いても結局はこの作品に戻ってしまうし、電子音楽で死ぬまで聴くぐらいのレベルになるとこの一枚ぐらいしかないのではないかと個人的には思う。

その魅力を端的に言い表すと、研ぎ澄まされた一筆書きの世界というか、とにかく音が気持ちいい。クラフトワークには他にも「ヨーロッパ特急」や「人間解体」などの外せない力作があるが、どれも音の色、響き、全体の像も含めてなんだか手触りがいい。まぁ細かいことは抜きでよろしい、めんどくさければ各作品の代表曲をリミックスしなおした「The Mix」を聴いてもらえればいい、最初の一音の響きだけで分かる人にはそれだけで分かる筈である。

話を戻すと、そうした早すぎた「音響派」的な音作りと、リズムへの探究、テクノポップとしてのコミカルな軽さ、それぞれがこの「コンピューター・ワールド」の中にはごく自然に内包されているように感じる。クラフトワークの作品は全体的な傾向として見ると音作りそれ自体の拘りの方が強い、無論この「コンピューター・ワールド」も例外では無いが、それとは別に音の肉体性というか、こういう有機的な躍動感を感じられるのは本作だけだと思うが、どうだろう。

クラフトワークとしてのオリジナルアルバムは「ツール・ド・フランス」以降全くリリースされておらず、多くのプログレを出自とするバンドと同じくして「過去の遺産」にモノを言わせている状況である。もうその役目を終えた、とする見方があればおそらくそれはあながち間違いでも無い、しかしこんな幾らでも音楽を装飾することも加工することもできる時代だからこそ、クラフトワークが作る音を聴きたい。今だからこそ「コンピューター・ワールド」のような音のアウラが必要なのである。


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