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サウナの熱の話 〜熱いだけじゃサウナにならない〜

理想的な温湿度なのに何故か体感はイマイチだった・・・。そんな経験をしたことがある人もいるのではないでしょうか。

温度や湿度で良いサウナかどうかを判断しがちですが、それ以外にもさまざまな条件が絡み合って「快と不快」の環境を作り出しています。人それぞれ好みはあるものの、「不快」に感じる環境は共通していることが多いです。今回は「熱」をキーワードに、快と不快を生み出す理由やその仕組みについてお伝えします。


熱の伝わり方

まず、熱の話をするときに「熱の伝わり方」を理解しておく必要があります。ざっくりと解説します。

対流:空気や水などの流れによって伝わる
輻射:放射線(電磁波)で伝わる
伝導:直接物質が触れ合うことで伝わる

サウナの熱の謎/著・Saunology

サウナヒーターをONにすると石が温まります。それぞれの石同士がくっついているのでそこから熱が伝わり、これを「伝導」と言います。
サウナストーン全体が温まると空気を介してサウナ室全体が温められます。これが「対流」です。
「輻射熱」は電磁波とも言いますが、空気や水などの物質を介さなくても熱を伝える方法です。例えば太陽の光による熱も輻射熱です。どんなに遠くても温めることができるのは輻射熱があるからです。ちなみに、遠赤外線ヒーターのサウナは輻射熱により身体を温める方法であり、他の対流式のサウナとは体感が違います。

気持ちの良いサウナの条件とは

フィンランド式のサウナでは、頭からつま先まで身体を均一に温めることが気持ちの良いサウナの条件の一つとされています。そのためには対流により空間を温めることが基本とされています。肌が温まるだけではなく、呼吸を通じて身体の内側から温まる効果もあります。
逆に、輻射熱により身体の一部が顕著に熱くなってしまったりする場合は不快に感じられますし、上下の温度差があり、足元が冷える場合も不快に感じます。

対流を生み出すための空間の広さ

対流を感じるためには空間の広さも重要になってきます。あまり狭いとストーブとの距離が近くなってしまうため輻射熱を感じやすくなってしまうのと、対流ループを生み出しにくいのです。推奨されているサウナのサイズは6平米以上(2.4m x 2.5m)で、どんなに小さくても4平米以上(2m x 2m)のであることが望ましいとされています。


対流を生むために推奨されているサウナの広さ

上記の面積を木造のモジュールに合わせて平面を落とし込む場合は上の図のようになります。455mm、910mm、1820mmの倍数に寸法を落とし込むことで木材の無駄を最小限にすることができます。ベンチのレイアウトは一つの例ですが、面積が大きくなるほどストーブ本体が大きくなりますし、同じ広さでも電気ストーブよりも薪ストーブの方が本体が大きくなります。出入口の位置やベンチのレイアウトに注意が必要です。

輻射熱の良し悪し

本体が露出しているサウナストーブは輻射熱が強いため、人が座る位置関係を慎重に検討する必要があります。たまにレンガなどでサウナストーブを囲っている場合があります。それは安全のためもありますが、余計な輻射熱を遮蔽するメリットもあります。

ちなみに遠赤外線ヒーターのサウナもあることから、全ての輻射熱が悪というわけではありません。輻射熱は効率よくサウナ室を温めるためには必要なものです。ただし、身体の一部が顕著に熱くなって不快に感じることを避けるための配慮が必要になります。

上下の温度差

身体全体を均一に包み込むように温めるのが良いサウナの条件だということをお伝えしました。温められた空気は自然と上昇して天井付近に溜まります。頭と足元で温度差が発生してしまうのは仕方がないことなのですが、あまりにそれが顕著だと不快に感じてしまいます。

足の温度差が頭の温度差より 13 ~ 15% 以内であれば最も快適で快適ですが、20% までなら問題ありません。約 20% の温度差があると、人々は「足の冷え」を感じ始め、約 27% の温度差になるとほぼ全員が足の冷えを感じます。

https://localmile.org/saunadynamics/

この温度測定の具体的な場所は、シッティングベンチ(腰掛けるところ)から1.0m上のあたり、そしてフットベンチ(足を置くところ)での2箇所で測定します。ベンチ自体の座面高さを40cmとした場合、その高低差は1.4mとなります。上下温度差の幅を15%以内にする場合、具体的な温度に落とし込むと、90〜77度/80〜68度/70〜60度、おおよそこの範囲内に入っていることが理想です。

重要な断面計画

熱せられた空気は軽くなるので天井付近に溜まります。ロウリュをすると空気が膨張し、その温かい空気に包まれることでさらに心地良くなります。その空気を効率よく受けるためには、天井からベンチの高さ、そしてストーブとの高さ関係を適切に設定する必要があります。


この高さ関係を基準に、ストーブや天井の高さにより適宜微調整します

天井〜シッティングベンチ

ベンチの座面から天井までの高さは1.0〜1.2m程度が推奨されています。日本人であれば1.1m程度がベストかと思いますが、身体の大きい外国人が入るようなサウナであれば1.2m程度でも良いと思います。プライベートのサウナを室内に設置する際など、高さ関係に条件がある場合でも1.0m以上は確保したいところです。あまり低いと圧迫感を感じてしまいます。

サウナストーン〜フットベンチ

温められた空気は上昇しますので、サウナストーンよりも下は温まりにくいというのはイメージできると思います。フィンランド式のサウナでは、サウナストーンよりもフットベンチを同じ高さ、もしくはそれよりも高い位置にすることがとても重要とされています。対流ループの中に身を置き、身体を均一に温めるためです。

サウナストーブは小さいものでも70〜80cm程度はあります。フットベンチの高さを床から80cm、そこからベンチ座面の高さを40cm、座面から天井までを1.1mにした場合、床から天井の高さは合計で2.3mになります。サウナストーブ(ストーンのトップ)がもっと高い場合はそれに応じて調整します(フットベンチが80cmということは、そこに上がるためのステップが必要になります)。このように上下から寸法を追っていくことで理想的な高さ関係を設定することができます。

断熱性能が低いことが上下温度差が大きくなる原因にもなる

細菌やカビの繁殖

余談になりますが、足元も含めて温度を上げることは、雑菌の繁殖やカビの発生を防ぐ効果もあります。サウナ室の清潔感が保たれているかどうかも、非常に大切な要素です。

足置き台などにバクテリアやカビが生えてしまうことがよくあります。これは、サウナの温度が十分に上昇せず、バクテリアやカビを死滅させることができないためです。

フットベンチは、細菌やその他の病原菌を殺すために約 60 ~ 65°C を維持する必要があり、カビを殺すためにもほぼその温度を維持する必要があります。

https://localmile.org/saunadynamics/


フレッシュエアー

給気と排気(そしてフレッシュエアーの発生)がうまく機能していれば程よい対流が生まれ、顕著な上下温度差を防ぐこともできます。そのためには給気と排気を適切な位置に、適切な大きさで配置する必要があります。基本は自然換気とし、場合によっては機械換気も視野にいれ検討します。電気 or 薪で考え方が変わってきますし、屋内に設置するサウナか、屋外に小屋として建てるサウナかでも考え方が変わってきます。これだけでもかなりのボリュームになってしまうので、別の記事としてまとめていきたいと思います(ただいま執筆中)。

まとめ

気持ちの良いサウナを作るためには、さまざまな観点から寸法や仕様を決定する必要があります。そのためにはフィンランド式サウナの長い歴史、そしてリラクゼーションの研究から学ぶことはたくさんありそうです。ただし、あまりそれに囚われすぎても同じようなサウナができるだけなので、その場所やコンセプトに応じて調整いきたいものです。

参考文献

Local Mile
フィンランドサウナ設計の教科書/著・ラッシリッカネン


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