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今こそ『進撃の巨人』・・・・人生のリアルな痛み。

昨晩、『進撃の巨人 The Final Season』 完結編(前編)が放映された。
素晴らしかった。

アニメ制作会社MAPPAに、画面の前で「一人スタンディングオベーション」をしてしまうほどの出来だった。

進撃の巨人については、NHKでも何度か特集が組まれたし、世には素晴らしい考察があふれている。もちろんこのnoteにも。

正直、今さら付け足すことなど何もない。

でも私はたくさんの人に、進撃の巨人を見てほしい。
途中でやめた人にも、戻ってきてほしい。

だから私も、自分の感想と見解を書いておこうと思う。


「進撃の巨人」は、諫山創さんが別冊少年マガジンで連載していた、ダーク・ファンタジー漫画だ。
全34巻。2021年の4月に完結している。

そして物語の始まりは以下の通り。


主人公の少年エレンは、三重の壁に囲まれて暮らしている。
なぜなら壁の外には、人類を食い尽くした巨人がいるからだ。

そして生き残った人々は、壁の中で107年も平和な時を過ごしていた。
壁の中には人が子を増やし生きられる、十分な広さと自然があったから。

しかしエレンは、自由を阻む巨人や壁が許せない。
いつかすべてを壊して、広い世界を見たいと願っていた。

けれどある日、平和は一瞬にして終わった。
巨人により壁が壊されたのだ。
そして人々は思い出すことになる。
「自分たちが巨人に支配されていた恐怖を。鳥籠の中に囚われていた屈辱を」

エレンは平和と自由を取り戻すため、兵士となって巨人と戦う道に進む。


物語の序盤は絶対悪の「巨人」に、知恵と勇気で立ち向かう圧倒的弱者「人類」の、わかりやすい対立で描かれる。

兵団の同期という仲間と、互いに助け合うのも読んでいて胸が熱くなった。
また「巨人」は何か」という謎もあり、ダークだが胸おどる冒険活劇だ。

しかし、話はじょじょに複雑な様子を見せる。
善悪がオセロのように、くっきりしていないのだ。
敵が味方になり、味方が敵になっていく。

そんな厳しい中、主人公とその仲間は「選択」を迫られる。
正解の「ない」選択を、何度も何度も。

しかも迫られる時は、常に「その人個人の問題」によるのだ。
彼らは同じ敵と戦いながらも、たった一人で岐路に立つ。

このギリギリさは、正直読んでいて辛い。

そう「進撃の巨人」は、読めば読むほど心が苦しくなる作品なのだ。

だから途中でやめてしまう人の気持ちはよくわかる。
最初から手に取らない人の気持ちも。

でも、それでも読む価値がこの作品にはある。

なぜならこれは「私たちのリアル」だと思うからだ。


子どもの頃、世界は結構わかりやすい。
善悪は親や学校が決めてくれるし、答えも用意されている。

そして成長すると、それに疑問を抱き壁を打ち壊そうとする。
だが壁の向こうにも、自由があるわけではなかった。

社会に出れば、白が黒になり黒が白になる現実を見る。
誰にも背景があり、単純に「悪者」を見つけ出すことは難しくなる。

やがて被害者と思ってた自分が、加害者でもあることに気づく。

なのに生きるためには、あらゆることを決めなくてはいけない。
小さなことから、大きなことまで。その責任は自分が背負う。

もちろん賢い他者に委ねるという選択肢もある。
しかしその場合は、思いもよらない場所へ連れて行かれるかもしれない。

そんな事件は、世界中にあふれている。

一体、進撃の巨人の世界と、何が違うのだろう。
命をかけていない点か?

でも自殺者の数がそうではないと、私たちに知らしめてくる。

進撃の巨人で描かれているのは、このリアルだ。
美しい人生の裏側。人間の影の部分。

普段、ちょっとだけ目を逸らしているもの。

でも、だからこそ進撃の巨人は世界中で読まれたのだと思う。

登場人物の迷いや苦しみ、弱さやずるさに自分を見るから。
もちろん、己の勇気や誠実さも。

つまり彼らの物語は、私たちが今生きる現実の写し鏡なのだ。


だが進撃の巨人は、ただ重苦しいだけではない。
ちゃんとエンターテイメントとして成り立っている。

笑いもファンタジーの快感も、十分に散りばめられているから安心してほしい。

個人的には途中でちょっと・・・な部分もあったが、最終話でしっかり満足することができた。

ガンダムもそうだけれど、「よくぞ少年少女向けのジャンルで描いてくれた!」と、感動してしまう。

難しい内容をエンターテイメントにきっちり落とし込み、よりたくさんの人々に伝えることは、創作の真骨頂ではないだろうか。

私はそういう点でも、進撃の巨人を高く評価している。


ところで初めて進撃の巨人を見る方には、ぜひアニメをお勧めしたい。
理由は3つ。

①絵がきれい
諫山先生は、ものすっごく絵が下手だった。すごい速度で上達されたけど、単行本1〜5巻まではファンでも厳しいものがある。

その点アニメは最初からハイクオリティの画力で物語が楽しめるから、誰でも入り込みやすいと思う。

MAPPAさん、すごいっす。

②原作に忠実。
最近のアニメらしく、原作にとても忠実な作りで素晴らしい。

アニメオリジナル部分も多少はあるが、より原作をわかりやすくしてくれる出来の良さ。安心してお楽しみいただけると思う。

③主題歌が秀逸。
OPとEDのほとんどが、世界観にピッタリ合うため余韻を味わえる。

私のイチオシは、第2期26話から37話のED。
神聖かまってちゃんの「夕暮れの鳥」。

諫山先生の書き下ろし画を背景に流れるこの曲は、あまりに物語にシンクロしておて、初めて聴いた時は鳥肌が立ってしまった。


私は『進撃の巨人ファイナル」が今アニメ化されたことに、大きな意義を感じている。

なぜなら、このところ急速に世界は変化していて本当に怖くなるから。

大国による紛争が起きてしまった。
小さな国が攻め込まれるかもしれない。

美辞麗句で飾られた、正体を見せない何かが近づいてくる。
素晴らしい理念を、台無しにする流れが見える。

どうして?どうしてこうなっちゃうの?

こんなもの見たくない。忘れていたい。
小さな自分の生活を大事にしたい。明るい面だけ見ていたい。

そんな私に進撃の巨人は、「別世界の物語」を装い現実を突きつけてくる。
これは、あなたの明日かもしれないと。

その時、あなたは何を選ぶのかと。

私も一人で考えなくてはならないだろう。
彼らと同じく、この問いは一人一人に突きつけられるのだから。


『進撃の巨人 The Final Season 完結編(後編)』の放映は、2023年秋を予定しています。

ぜひそれまでに一度!!!

長い文章にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。



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