初心者向け軍事 携行対戦車兵器 -現代での3つのニッチ-
はじめに
歩兵は陸上での戦闘ではあらゆる場所で活躍する。
どんなに兵器が進化してもまだ銃を持って走り回る歩兵が必要だ。
一方で、マトモな攻勢をするには戦車も絶対に必要だ。
なので歩兵が戦車と戦うハメになる状況は戦場ではよくある。
だから歩兵が対戦車兵器を持つ必要があったんですね。
ここでは「歩兵が持って運搬して使う一人用の対戦車兵器」
つまり携行対戦車兵器の話をしようと思います。
携行対戦車兵器の基礎的知識
今回の本題は「携行対戦車兵器には3つのニッチがある」という話題
・・・なんだけれども
その話をする前に、最低限の基礎について大まかな話をします。
こんなの知ってるよ!って人は読み飛ばしてどうぞ。
昔は歩兵用対戦車兵器にはいろいろあったんだけど
現代のものは基本的原理はどれも一緒。
「成形炸薬弾という砲弾を射出して戦車に当てる」
その射出の方法や成形炸薬弾のサイズとかが主な違いになる。
成形炸薬弾の基本構造
5の部分が爆発した圧力で3の部分が瞬間的に侵徹体になる
侵徹体:(戦車などの装甲を)貫通するもの
形成炸薬弾が表面で爆発すると装甲板に穴を開けるほどの圧力が生じる。
それさえ実現できれば、貫通力に砲弾の速度とかが関係ない。
貫通力には砲弾の大きさ・重さが関わってくる。
じゃあ、どうやってその重い弾丸を戦車の表面に持ってくる?
もちろん何らかの手段で「発射」する必要があるわけだ。
その方法は人間が一人で扱える手段だと限られてくる。
個人で扱うには十分に軽くてかつ反動も小さく抑えなきゃいけないからね。
無反動砲かロケットランチャーかの二択だ(あるいはその複合)
無反動砲
無反動砲というのは読んで字の如し。
射手への反動が無い(伝わらない)構造の砲。
わかりやすいね。
構造を単純化すれば…
砲弾を高速で発射するから反動が生じる。
→反対側にも何かを射出して相殺しよう!
という感じの代物だ。
固形物の射出や火薬の燃焼ガスの噴射による反動で相殺する。
カール・グスタフ無反動砲の発射の瞬間
射手の後ろにガスの爆炎が吹き出した跡がはっきり写っている
ロケットランチャー
ロケットランチャー(ロケット発射機)も名前通りの意味。
「ロケットの力で自ら加速する砲弾」
すなわちロケット弾を発射する装置 文字通りだな!
(砲弾が誘導装置を持つミサイルの場合はミサイルランチャー)
砲弾が自分で加速するわけだから射手には大して反動がかからない。
発射機は単にロケットを点火したり照準するための装置なわけだ。
だから発射機そのものの構造を軽く単純にしやすい利点がある。
M72対戦車ロケット発射機用のロケット砲弾の断面図
固体燃料ロケットの先端に成形炸薬弾がくっついてるのがわかる
ロケット弾発射無反動砲
両者の複合であるロケット弾発射無反動砲みたいなものも多い
世界一有名な携行対戦車兵器であるRPG-7もこのタイプ
重い砲弾をより高速で射出するためにロケット砲弾にしてる感じだ
RPG-7の砲弾の構造
Iの部分が成形炸薬弾
IIの部分はロケット砲弾としてのロケットモーター
IIIの部分は無反動砲としての発射火薬とその他
上の数字の細かいパーツ解説部分はwikipediaのRPG-7の記事に乗ってる
現代の携行対戦車兵器は基本的には全部このどれか。
そして発射装置が使い捨てかそうでないかでも2分される。
発射機の再利用性
発射機が再利用可能だと何が嬉しいのか。
それはもちろん発射機が一つあれば砲弾の数だけ発射できること。
発射機5個+砲弾5個よりも発射機1個+砲弾5個のほうが軽い。
後者のほうが前者よりも発射機4個分も軽くてスペースを取らない。
じゃあ発射機はみんな再利用可能にすればいいんじゃない?
ところが、再利用可能にするにはある程度以上の強度が必要になってくる。
そのためには発射機を重くする必要があるわけ。
逆に言えば使い捨て発射機だと軽くできる。
大威力を求めれば重い砲弾が必要になる傾向がある。
人間が一度に持てる量には限りがあるので
大威力の砲弾ほど一人が持てる量は少ない。
持つ砲弾の量が少ないほど発射機本体の軽さのほうが重要になってくる
完全な使い捨てじゃなくて
照準器とか負荷はかからない部分だけ再利用する使い捨て式もある
ここまで話せば今回の本題は十分わかるかな・・・
ていうかこの部分、最初から必要無いきがしてきた…
でも、初心者にどこからどこまで話したらいいのかよくわかんない・・・
携行対戦車兵器の3つのニッチ
大前提として、明確にきっちり3分されているわけではない
けれども、大まかな傾向として聞いてほしい。
1.歩兵にとって邪魔なものに取り敢えず撃てる歩兵用の砲
歩兵一人で使える携行対戦車兵器は少人数の歩兵部隊のためにある。
具体的には小銃分隊(歩兵10人以下くらいの部隊)とかに1つとか。
この規模の部隊の掌握範囲内で使える武器はそう多くない。
小銃か軽機関銃かグレネードランチャーか手榴弾かということになる。
最前線で戦う歩兵のほぼ最小単位というわけだ。
そして歩兵たちが戦場では「銃弾だけでは倒しにくい敵」とよく遭遇する。
たとえば建物の中に隠れて撃ってくる敵とか
あるいは防御構造物をつくって撃ってくる敵とか
はたまた敵歩兵を支援する装甲車とかいろいろだ。
二次大戦期に作られた防御構造物
戦場には銃だけで撃破しにくいものがいっぱい!
そんな驚異を排除するための砲撃支援とかがすぐ受けられるとは限らない。
少人数の歩兵部隊だけで今すぐその手の驚異を始末したい・・・
そんなとき、携行対戦車兵器を歩兵用の砲として使ってしまうのだ。
グレネードランチャーの更にすごいやつとも言える。
歩兵も命がかかってるから危険を犯すより安全に戦いたいからな。
強力な爆弾を相手に投げつける武器なんていっぱい撃ちたいに決まってる。
ところが、いっぱい撃つにはもちろん弾をいっぱい持ってないといけない。
人間が持てる量は限りがあるので、いっぱい持つには軽くする必要がある。
軽い砲弾は当然ながら戦車を相手にする能力は低くなってしまう。
当たりどころや状況によってはもちろん戦車の撃破も期待できるけど…
どちらかといえば戦車以外に使うのが主目的なポジションだ
そういうニッチなので最初から対戦車用以外の砲弾も用意されてたりする。
成形炸薬弾は同じサイズの普通の爆弾より歩兵相手には威力が低いからね。
具体的にどの携行対戦車兵器がここに属するかというと・・・
紛争地域でRPG-7をぶっ放す民兵をゲームとか映画でたまに見るでしょ。
ああいうRPG-7はこのポジションの武器として使われているわけだ。
背中にRPG砲弾を入れる袋を背負った兵士
いっぱい持てるといっても結構重いので比較的という話
西側だとカール・グスタフ無反動砲やSMAWやM72とかがここに属するかな
AT-4もどっちかといえばこっち寄りか?
Mk153 SMAW
前半分は照準器と発射装置で再利用式
後ろ半分は砲弾ケース兼発射管で使い捨てる
対人砲弾とかも用意されてていろんなものに使いやすい
2.対戦車用の切り札
そうは言うけど戦車が出てきたら確実に撃破したいんだよ!
そのためには砲弾を持てる数を諦めてでもデカイ砲弾が必要だ。
特に現代の戦車を撃破するにはかなり大型の重い砲弾になる。
小銃も一緒に持って射撃戦に参加してもらうことを考えると
一人の射手がせいぜい1発そこらしか持てないような重量だ。
(少人数の歩兵分隊だと射撃戦に参加できない人員は他に負担が寄る)
1発しか持たないと考えるとこのクラスはあんまり再利用式にしにくい。
本当に戦車を撃破しなきゃいけないときに確実に叩き込む切り札。
あんまり気楽には撃てないが必要なときは切羽詰まってるので無いと困る。
西側だとパンツァーファウスト3とかAPILAS
東側だとRPG-28やRPG-30がここに収まるかも
パンツァーファウスト3
もう見るからに重心位置が前のめりそうなデカイ弾頭の見た目
小銃も一緒に来れ持つとか辛そう
RPG-30
細い方の筒に入ってるやつが相手の爆発反応装甲を破壊
太い方の本命で戦車を撃破するという2本の砲弾を束ねたやつ
3.戦車を遠距離撃破する携行対戦車ミサイル
1.と2.は実は射程がかなり短い。
実戦だと300mで当たれば御の字と言われている。
これは小銃でも人間に安定して当てられるような距離。
戦車からすればかなりの近距離だ。
この距離まで自分から近づいて射程に入れて打つのはかなり危険だ。
待ち伏せをする場合でも、敵戦車が自分たちの防御してる陣地の内側まで入ってきている、いわば陣地突破の最終段階まで来てる距離になってくる。
そして対戦車兵器は発射の瞬間がかなり目立つ。
発射したらすぐ位置がバレると思った方がいい。
それなのに、敵の歩兵の射程内とかで撃たなきゃいけないのだ。
つまり攻撃に成功しても反撃でやられる危険が非常に大きい。
もちろん、射程がながければ長いほど攻撃のチャンスが多くなる。
遠ければ遠いほど安全に撃って安全に離脱できる。
当たり前の話だ。
だけど射程が短いのは砲弾が遅くて重いからだから仕方がない。
遅い砲弾はちょっと距離を間違えただけで飛び越えるか逆に早く地面に落ちすぎるかして当たらなくなってしまう。
そして単純に地面に落ちるまでの距離が短いから遠くに届きにくい。
さらに翼安定式だと砲弾が風の影響を受けやすくなって逸れる。
相手が移動目標だと未来位置との差が大きくなって当てにくい・・・
・・・とかいろんな要因で遠ざかれば遠ざかるほど当てにくくなる。
これを解決するには砲弾そのものが自ら敵に向かっていく…
つまり誘導ミサイルを発射すればいい。
携行式対戦車誘導ミサイルだ
誘導ミサイルは2km先の戦車に当てられるような代物が珍しくない。
物によっては戦車の弱点である上面を狙いに行く機能もある。
(これは上から被さることで発射点を特定しにくくする役割も兼ねる)
じゃあみんな対戦車誘導ミサイルを持てばいいじゃん?
と言うわけにもいかない事情がある。
まず誘導ミサイルは無誘導弾より基本的にかなり重い。
ミサイルそのものないし発射機に誘導装置や制御装置が入ってるからね。
同じ原因でかなり高価になる。
具体的には1発で2000万円とかするらしい。高い。
価格に目をつむったとして、
発射機とミサイルがそれぞれ重いと兵士も困る。
FGM-148 ジャベリン
ミサイルと人間を比べるとわかるが見るからに重そう
実際かなり重いので持ち運びが辛いらしい
あまり重いと小銃をもたせるのも辛くなってくる。
戦車を撃破する以外の仕事がやりにくいレベル。
兵士も人間なのであまり重いもの持たせるとしんどいわけだ。
今流行のジャベリンとかERYXとか・・・
とにかく携行式の対戦車誘導ミサイルは基本的にここ。
もうワンランク上になってくると数人がかりで運用するタイプの「携行式」とはいえないタイプの対戦車誘導ミサイルになる。
なるべく「2」のポジションに近づけたいNLAWみたいなタイプも有る。
「携行式対戦車誘導ミサイル」で一纏めにしちゃうのはちょっと乱暴かもしれないけど、まあとりあえず許してほしい・・・
NLAW
射程800mと誘導ミサイルとしては短射程だがかなり軽い
だんだん2のポジションの無誘導対戦車兵器が小型の誘導ミサイルへ置き換わっていくのかもしれない。
お金は要らない、読んでくれさえするならば