本当はかみ合っていない「ありがとう」の応酬

どんなに大切で仲のいい相手でもムッとすることがある。

といっても、その心のもやもやの原因はパッとは分からない。「なんだか不快だった」そんなものだろう。

そこから考えてみて時間がたってはじめて「ああ、そういうことか」と言語化できるようになる。

私も先日気付いたことがあるのでここでシェアしようと思う。

1人になりたい私

私は恋人ととても良好な関係にある。

私が不機嫌になることはたびたびあるものの、彼の寛容さによって支えられていると思う。そこには感謝しかない。

毎日の中でも互いにささいなことで「ありがとう」を伝え合うし、お互いがお互いのために動いていると感じる。

そんな中、不穏な空気になったのは先日「なんだか浮かない気分だ」と彼に伝えたときだ。

それに対する彼の提案は「何か動画でも見る？」だった。

私を思ってのことなのだろうが、私はなぜだかムッとして「それは君がしたいことじゃないの？」と嫌な返事をしてしまった。

彼はしょんぼりしていた。申し訳ない。

ただ、そこからしばらく考えて分かったのだが、私が浮かない気分だったのは社会とのつながりが希薄になっていて、不満足になっていたからだった。

コロナで外出しづらくなったのもあるが、恋人は「君さえいれば他に何もいらないよ！」というタイプで私とできるだけ一緒にいたいしどんなことも知っていたいと思っている。

私もそれにこたえようとできる限り通話をつなぐし、会える時には会うようにしていた。

それはそれで楽しいのだけれど、私は「彼と一緒じゃない時間」を求めていたのだ。

私が求めているのは社会とのつながりを感じられる体験をすることだった。

だから彼が提案すべきは「気分転換に友達とあってきたら」とか、彼の目の届かないところに私を送り出すことだったわけだけれど、彼の願望からしてその提案が出ることはない。

独占して一緒にいたいというのが本音なのだから。

私が彼の「動画でも見る？」にムッとしてしまったのは、言外の「俺と一緒に」という言葉を感じ取ったからだろう。

きっとこれを彼に言えば「一緒になんて言ってないよ。自由にしたらいいよ」というだろうが、普段の言動から私が推察してしまうのだ。

「一緒に見たいでしょ？」ときけば「もちろん」と返ってくるのは明白なのである。

私がしたいといえば、たいていのことは止められはしない。

「さみしいけど楽しんでおいで」と見送ってくれることだろう。

しかし、それはそれで彼の願いをかなえてあげられないことが悲しくなる。どちらを選んでも私には嫌な気持ちが付きまとう。

勝手に思いやって自分の自由をつぶしているのはわかっているし、それがもどかしくて仕方ない。

このどちらにもいけない面倒な状況に私はことさら機嫌を悪くするのだ。

どうすれば解決できるだろうと考えるが、結局不機嫌になるという形で彼と距離を置くことになってしまう。

良好な関係に見えるだけ

彼はただただ私を想っているのだろう。

それが彼の幸せだから。

思いやっていろいろしてくれるのはわかる。

でも、それはどうも私の望みとは少々離れているのだ。

もちろん望み通りなことのほうが多いし感謝しているのだけれど、時々起こるすれ違いに悲しくなる。

例えば、彼が「かぬちゃんは甘いものが好きなはず」と毎週スイーツを買ってきてくれるとして、それに対する私の返事は「ありがとう」だ。

別に甘いものが特別好きでなくとも、私のために買ってきてくれたんだ！と彼の気持ちと思いやりに嬉しくなる。

しかし、「なにかをしてもらって、それに感謝する」という一見何の問題もないように見える状態が、実はかみ合っていないのだ。

だって、彼は「かぬちゃんは甘いものが好き」という誤解をしているのだから。

別に甘いものが嫌いなわけではないから、おいしく食べるし不都合はない。

それでも「彼が私を誤解している」という事実がある。

「好きなものを与えた」⇄「好きなものを貰った」なら同じ認識なのに、誤解があると「好きなものを与えた」⇄「私を思いやってくれた」になり、理解に不一致が生ずる。

これに気づくと「彼って私のこと分かってないな」となるのだ。

そういうわけで心のもやもやは「彼が私を理解してくれていないのがいやだ」という言葉で言語化される。

「ありがとう」の意味を使い分ける

「ありがとう」の応酬のような一見良好に見えるやり取りも、根底でずれていると徐々にすれ違いが積もり関係に支障をきたす。

悪気がないというのがなによりや厄介だ。

どうしようもないしどちらが悪いでもないので、なんだか嫌な気分だと感じたら、問題が小さいうちに気づけるようしっかり考える時間を持つべきだろう。

「心配してくれてありがとう」「思いやってくれてありがとう」はいくらでもあるので、これからは「よく理解して行動してくれてありがとう」を増やせるようにしたい。