風の行き先
この町は空港が近いから、よく飛行機雲が見える。
帽子が飛ぶほどの強い風が吹いても、揺らがない細い軌跡。
銀の翼が白い飛沫を作り上げ、どこまでも広がる空に線引きをする瞬間。
あるいは溶けかけの綿が薄い青の中に透けている様子。
見上げる瞬間によって姿を変える道筋は、
何処かへと向かう人々によって作られていることをふと思い出す。
かつて乾いた砂の上に、粉の線を引いていた。
運動服と校庭の木々が揺れるときは、儚げにちらちらと白が舞った。
その時はただの文字と音でしかなかった言葉が、今は私の現在地になっている。
生まれ持った二つの目が未知なる目的地を見つめるとき、
自分の肩が切ったあとの風の行き先は見ることができない。
ただ同じ時を生きる人だけが、目撃できる景色。
あなたが空に道を作るのを、私は見ている。
私が世界に線を引くときも、あなたはそれを見ているだろうか。
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