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コーヒーの味

コーヒーが好きだ。特に香り。
でもコーヒーがすごく好きでこだわりのある人にとっては腹立たしく思えるかもしれない、私の好きなコーヒーは酸味も苦味も抑えられて牛乳がたっぷり入ったミルクコーヒーなのだ。「コーヒーの香りがするホットミルクじゃん」と思う人もいるかもしれない。何なら私もたまに思う。でも同じカフェインでもティーじゃなくてコーヒーがいいの。

我が家は家族でいちばんちびすけの私が小さい頃からずっと、朝はコーヒーで始まる家だった。(緑茶を愛していた祖父母を除いて)
だから私も小学生の頃から当たり前のように、朝ごはんにコーヒーを飲んだ。みんなが飲んでいたから私も飲む、くらいの受け入れ具合だったと思う。でも、私は好き嫌いも多かったし苦いものも苦手だったから、母は私の分にはたっぷりの砂糖と牛乳を入れてくれていた。私にとって真っ黒いコーヒーは大人用、薄い茶色のコーヒーは子ども用。そして今でも私は子ども用のコーヒーを飲んでいる。

去年の成人式の朝、美容院の予約が朝6時とかだったために私は母に午前4時半に叩き起された。
目覚めてすぐは何も食べられない私に、これだけ飲めと母がコーヒーを淹れてくれていた。
大学生になってからは自分のコーヒーは自分で淹れるようになっていたから母のいれるものを飲むのは久しぶりで、そんなことを思っていたかどうかは覚えていないけれど、とにかく、ひとくち飲んでびっくりして目が覚めたことだけは覚えている。

すっごく、美味しかったんだ。そのコーヒー。

何故かは分からないけどすごくすごく美味しく感じて、一気に飲み干した。「なにか入れた?」って母に聞いたけど別に何も入れてない、いつも通り、と返ってきた。


毎朝コーヒーを淹れて飲んでいる。
朝じゃないときもあるけど、起きたらやかんを火にかけて、コーヒーを淹れる。お前は起きたぞ、とカラダに言い聞かせるルーティンみたいなもの。自分の淹れるコーヒーも「正解」を叩き出す確率が上がってきたと思う。

成人式の朝、あのコーヒーが美味しかったのは、あの味が私にとっての「コーヒー」だからだろうな、と思う。
母が10数年間も作り続けてくれた、あのコーヒーと砂糖と牛乳のバランスで出来た飲み物が、私にとっての「コーヒー」なんだなって。
あの味が基準で、正解。
世の中にあるコーヒーという飲み物の中でいちばん最初に覚えた味で、その味を持って「コーヒー好き」になった訳だから。
私がいちばん美味しく感じるコーヒー、それがあれだった。


自分の淹れるコーヒーもだいぶ美味しくはなってきたけどね。
やっぱりちがうんだよね、絶対に。
思い出は美しいものだし、それもあってやっぱりあれ以上に美味しいコーヒーは、少なくとも自分には作れないだろうな。
もちろんお店で飲む苦いカフェラテも好きだし、コーヒー味のお菓子とかも好きだし、自販機のあったくて甘いカフェオレも好きだし、よく飲む。

でも私にとっての「コーヒー」は、
あの砂糖と牛乳がたっぷりの甘いミルクコーヒーのことなんだ、たぶんずっと。

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