虹の市【おとなのためのSFファンタジー #1】
ようこそ!
こちらは「おとなのための、創作小説」です。
ほんのひととき、
ちょっぴり不思議な世界を
お楽しみください。
今回のおはなしは
「虹の市」
です。
では、いってらっしゃいませ。
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虹の市
おねえさまは虹の向こうへ渡ってしまわれました。あのやさしい、美しいおねえさま。わたしはひたすらに泣きました。泣いて泣いて、そのまま眠りの世界に誘われ、気が付いたらふわりとどこかの世界へ行ってしまいました。
わたしのいる世界が以前と同じではないことは、周りを見れば分かります。わたしと、わたし以外の者とでは、様子が違うのです。自分がどういう姿なのかは、幼いころ、手鏡で見たから知っています。つるんとした頬、黒い目と黒い髪。ああ、そういえばおねえさまがお元気でいらした時分、鼈甲の櫛に椿油を塗り、わたしの髪を梳いてくれることがありました。
「…ちゃんの髪はつやつやで、きれいねえ」
鈴の音のような声で繰り返すおねえさまの言葉が耳の中でよみがえります。
ですのに残念ながらここでは鏡は禁止です。なぜって、「正体」が分かってしまうというのです。ですから、こちらの世界に来てから、わたしは自分の姿がどのようになっているのか、確かめるすべがないのです。井戸の水、桶の水、池や田んぼ、川などにはぼんやりとした不思議な覆いが被さっていて、鏡の代わりにすることはかないません。なんだってこの世界は、鏡を嫌うのでしょう。
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