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NIKKA独自の“オールモルト製法”とは!?

今回のテーマは唯一無二の“オールモルト製法”で有名なニッカの終売ボトル「オールモルト」と「モルトクラブ」です。
「オールモルト」はニッカウヰスキーが製造し、アサヒビールが販売していたブレンデッド・ウイスキーで、700ml税別1400円で、1990年から2015年まで販売されていたブランドです。
1990年に発売した当初は2450円でアルコール度数は43度でしたが、1997年のリニューアル以降はブレンドが見直され、アルコール度数を40度に変更して価格も大きく変更されました。(初期型と中・後期型の見分け方はアルコール度数と価格面になります。)
対する「モルトクラブ」は同じくニッカウヰスキーが製造し、アサヒビールが販売していたブレンデッド・ウイスキーで、700ml税別1100円で、1995年から2016年まで販売されていたブランドです。

過日、ニッカ公式HPではオールモルトを「華やかモルト100」、一方のモルトクラブは「すっきりモルト100」と呼称していた様です。
それを反映して、最終型の製品ラベルでは、いずれの商品も“Malt 100 Whisky”とラベルに表記することで、モルト100%ブランドの統一感を高めたものとなっています。
それに加え、オールモルトが金色のラベルに「pure&rich」の味覚キーワードを表記しているのに対し、モルトクラブは銀色のラベルで「pure&clear」と表記することで、統一感の中にもしっかりとした違いをアピールするボトルデザインにしていました。
発売当時の日本では空前の本格焼酎ブームで、その焼酎ブーム隆盛期において、対ウイスキーではなく焼酎を強く意識した立ち位置のウイスキーだったと思われます。
その「対焼酎向けの家飲みウイスキー」であることを強く意識したオールモルトのCM「女房酔わせてどうするつもり?」のキャッチコピーは特に有名で印象に残る宣伝文句でした。
家飲み食中酒路線としてニッカのラインナップの中では異端児のような扱いを受けていた「オールモルト」と「モルトクラブ」のモルト兄弟。
しかしながら、独特の存在感を放つモルト兄弟専用のボトルデザインや当時の販売戦略を見てもニッカが相当に力を入れていたことが伺えます。
そもそも「オールモルト」と「モルトクラブ」は最初からウイスキー同士で争う気が無い販売戦略だった様で、仮想敵は「焼酎ブーム」そのものだったと思われます。
双方に共通するのは、モルトウイスキーなのに飲みやすいという点で、非常に柔らかな口当たりが特徴で、ウイスキーを飲み慣れていない層の獲得が狙いだった様です。
実際、時代背景的に「対焼酎」が開発コンセプトだったと思われるこのモルト兄弟の立ち位置をニッカの他のラインナップと比べて「ウイスキーらしくない」云々と論ずるのは些か的外れかもしれません。
メーカーの指針として「本物のウィスキー」を愚直に追及してきたニッカですが、モルト兄弟の開発は「食卓にウィスキー」という、時代背景的に新しいウイスキーの在り方を提案した、大胆かつ斬新な試みだったと言えるでしょう。
余談ですが、よくライバルと目されていた立ち位置のウイスキーとして、和食に合う食中酒「和イスキー」を追求していたサントリーのピュアモルト「膳」という商品がありましたが、ライバルというよりは「対焼酎」に向けた共闘関係だった様に感じます。
それほどまでに当時の国内の焼酎ブームは圧倒的でした。

「オールモルト」と「モルトクラブ」の原材料はモルト(大麦麦芽)のみ。
ニッカ独自の手法であるオールモルト製法という手法で製造されています。
では、そのニッカ独自の“オールモルト製法”とは一体何でしょうか?

一見同じ様に見えて従来のシングルモルトやピュアモルトと実は大きく異なる、第三のモルトウイスキー“オールモルト製法”
「オールモルト」と「モルトクラブ」のモルト兄弟を支える“オールモルト製法”とは、単式蒸溜機で蒸溜したモルトウイスキーにスコットランドで伝統的に使われていたカフェ式連続蒸溜機と呼ばれる連続式蒸溜機で蒸溜したモルトウイスキー(通称カフェモルト)をブレンドする製法のことです。
ここで登場する『カフェ式連続蒸溜機』とは、1830年代にスコットランドのイニアス・カフェ氏が開発した蒸溜機で、一般的に使われている複式蒸溜機と比較すると純度の低いエタノールしか得られないというデメリットがありますが、その代わりに原料の香りなどを色濃く残すというメリットがあり、原料由来の旨み成分をほどよく残し、口当たりのやわらかい味わいのウイスキーを造ると言われています。
今や世界中でニッカしか所有していないニッカ独自の『カフェ式連続蒸溜機』は、穏やかな味わいだけでなく円やかな質感を生み出すことに定評があり、その特異性に惹かれたニッカ創業者の竹鶴政孝氏がカフェ式スチルに並々ならぬ拘りを持っていたことから採用されて現在に至るということです。

現在、宮城峡蒸溜所が誇るカフェ式連続蒸溜機は通常では主にグレーンウイスキーの製造に使用されています。
しかし、グレーンウイスキーの製造だけで年中稼働しているわけではなく、カフェ式連続蒸溜機で蒸溜工程を行ったモルト原酒も定期的に製造されていて、それがカフェモルトとして“オールモルト製法”へ存分に生かされているということです。
一般的に単式蒸溜は手間がかかり生産コストも高くなりがちですが、個性豊かなお酒を生み出すことが出来る製法ですが、人によっては逆に風味や個性が強すぎて飲みづらいといった側面もあります。
一方、連続式蒸溜機を通した原酒は単式蒸溜機を通したものに比べ、個性に乏しいお酒になりがちですが、穏やかで万人受けする味わいに仕上がります。

既に前述していますが、ニッカ独自の“オールモルト製法”は単式蒸溜機で蒸溜したモルトウイスキーと連続式蒸溜機で蒸溜したモルトウイスキー(通称カフェモルト)をブレンドするモルト(大麦麦芽)100%ウイスキーです。
同じ大麦麦芽のみを主原料とするウイスキーとして、シングルモルトを代表格とする単式蒸溜で製造されたモルト原酒のみを混合(ヴァッティング)したモルトウイスキーという存在があります。
シングルモルトウイスキー以外にもピュアモルトウイスキー別名ヴァッテッドモルトウイスキー、あるいはブレンデッドモルトウイスキーと呼ばれている単式蒸溜モルト原酒同士をブレンド(混和)するタイプのモルトウイスキーもあります。
では、それら単式蒸溜工程で製造されたモルト原酒のみをブレンド(混和)したウイスキーと比較してニッカ独自の“オールモルト製法”とは、何がどの様に異なっているのでしょうか!?

一般的なモルトウイスキーは単式蒸溜モルト原酒のみで構成され、連続式蒸溜工程を経たモルト原酒は一切混ぜないという点が"オールモルト製法"と異なります。
普通に考えると原材料の全量がモルト=シングルモルトやピュアモルト…所謂ヴァッテッドモルトウイスキーやブレンデッドモルトウイスキーとも言える立ち位置となるはずです。
しかし何とも不思議な話ですが、ウイスキーの定義としてモルトのもろみをカフェスチル(連続式蒸溜機)で蒸溜したウイスキー原酒は「連続式蒸溜機で蒸溜した」という構成要件により、たとえ原料がモルト(大麦麦芽)であったとしても「連続式蒸溜機を使用したウイスキー原酒」ということで種類別としては「グレーン」に分類されることとなります。

つまり、一般的なモルトウイスキーと違い、ニッカの“オールモルト製法”ではモルト(大麦麦芽)のみを原材料としているものの「単式蒸溜モルト原酒」に「グレーン扱いとなる連続式蒸溜モルト原酒」を混ぜ合わせたことにより、全量モルト原酒であってもカテゴリとしては「ブレンデッドウイスキー」という不思議な立ち位置です。

※単式蒸溜 : モルト(大麦麦芽)を糖化・発酵させたものを、ポットスチルと呼ばれる単式蒸溜機で2回蒸溜する蒸溜工程。
※連続式蒸溜 : 蒸溜を何度も繰り返す連続式蒸溜機で短時間で蒸溜することによりアルコール度数を一気に高める蒸溜工程。
通常は原料にコーンなどのグレーン(=穀物)を使用するため、連続式蒸溜機にて蒸溜されたウイスキーは総じて“グレーンウイスキー”と呼ばれる。

では、同じ“オールモルト製法”で製造されている「オールモルト」と「モルトクラブ」の違いはどの様な部分なのでしょうか?
「オールモルト」と「モルトクラブ」の違いですが、主にブレンド面が大きく差別化されていて、特にカフェモルトの混合比率の違いや長期熟成原酒の使用量の差などが代表的な違いです。
カフェモルトの配合比率がオールモルトよりもモルトクラブの方が多くブレンドされ、オールモルトは単式ポットスチル蒸溜のモルトが多く使用され、その分カフェモルトの配合比率を減らしてブレンドされています。
加えてオールモルトはブレンドに単式蒸溜長期熟成モルト原酒を使用することで、より豊かな香りと芳醇な味わいを実現しました。
モルトクラブは逆説的に長期熟成カフェモルト原酒を多くブレンドすることで、甘くやわらかな香りとすっきりとした後味に仕上げています。
オールモルトの方がより長期熟成原酒を用いているため、価格的に若干高めですが、どちらのブランドもニッカ独自の“オールモルト製法”によるモルト(大麦麦芽)100%ウイスキーという根幹の部分は共通です。

モルト兄弟と同社の姉妹品「ピュアモルト・レッド」「ピュアモルト・ブラック」との大きな違いですが、「ピュアモルト・レッド」「ピュアモルト・ブラック」共に余市と宮城峡の単式ポットスチル蒸溜のモルト原酒を主に使用して出来ている部分が違います。
当然ですがグレーン扱いとなる連続式蒸溜モルト原酒は一切使用されていません。
(なお、ピュアモルト・レッドはアイラモルトも一部使われているそうです。)

古き良き伝統を大事にする、ニッカだからこそ表現出来た味わいが垣間見える“オールモルト製法”。
「カフェ式連続式蒸溜機」で生産したモルトウイスキー(カフェモルト)と通常の単式蒸溜機(ポットスチル)で生産したモルトウイスキーをブレンドして豊かな香りと円やかな味わいが感じられる、今までにないモルト100%ウイスキーを目指したニッカのブレンダーたち。
その想いの結晶として誕生したのが、オールモルト製法ウイスキー「オールモルト」と「モルトクラブ」であったという訳ですが、結果的に2010年代初頭にハイボールブームから始まった狂騒的国産ウイスキーブームによる原酒不足の余波の中、モルト兄弟は一定の役目を終えたという厳しいメーカー判断の下、一抹の寂寥感と共にその姿を消すこととなったのです。

名称:「オールモルト」「モルトクラブ」
種類:ブレンデッドウイスキー
販売:アサヒビール株式会社
製造:ニッカウヰスキー株式会社
原料:モルト
容量:700ml 40%(最終型)
所見:原酒不足の荒波に消えたニッカ独自の"オールモルト製法"