シリオンの魔女 2
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シリオンの魔女 2

1話前

 高級旅館、シルバーリーフ。冒険者の宿なんて下卑た施設ではない。この街でトップクラスの宿で出て来る飯は絶品。シリオンに潜る冒険者の中でもかなり高位のモンスターを狩った一同が記念に飯だけ食いに来る、通常貴族しか泊まらないような、そんな宿。間違っても生卵を親の仇の様にとき解し、いい感じの肉を浸して「はい、あーん❤️」とかやる馬鹿ップルが来る店ではない。現在進行形でやってるが。傾ける杯はガラスの、極めて薄く滑らかで、透明度が高いクリスタルガラス。中身はヴィンテージワイン。おまけになんと給仕が付く。普通ならこんな馬鹿ップルは蹴り出されて然るべきだが、カーミラが予約を入れたという事は基本的に「魅了」で支配下に入れたという事。
「お嬢様は今宵も見目麗しく……」と宿の主人は述べていたが、これは魅了による世辞や「言わされていること」ではなく、客観的事実である。惚気と思いたくば思え。実物見たら掌返すのはもう既に分かってる。色白ではあったがカーミラは実際確実間違いない美人でありプロポーションは踊り子や王宮の美姫にも劣らない。今宵のドレスは背中を大胆に見せた漆黒のエレガントなもので、人によってはその背に白い翼を幻視するものさえ居るだろう。それが、あーん❤️だ。ギャップ萌え。
 この愛しの残念な美女と出会ったのは確か4年前。彼女は自分の家を這い回るゾンビやアンデッドをファイアーボールで焼いてはデボアリングバッグ(昨今流行の無限袋とやらに似るが、入れたものが消失する残念アイテムだ)に放り込み、丹念に家の掃除をしていたのである。そして俺を見て放った言葉が「カコイイ・ヤッター!」で、華奢な両腕を上げて長い黒髪を揺らしながらピョンピョン跳ねた。なんでもコレクションの遠見の水晶が「今日は貴方のラッキーディ。運命の絆が結ばれるカモ!」と予告したらしい。それでソワソワして掃除を始めるとか年頃の女の子か! その威厳の無さに俺は彼女が冒険者であることを疑わなかった。自室に招き入れられ、自室?とハテナをいくつも浮かべ、招かれた部屋で茶を飲みソワソワしてたら「私が迷宮の主人のカーミラです」ととびっきりの笑顔で喰らわされたと、そーゆー訳だ。カーミラ? カミラ? ……えーっとカーミラ……吸血鬼じゃん!と気付いた時にはもう魅入られていた。あれは呪文ではなく神々の生み出した至高品が醸し出す天然そのもの、愛らしく見えるものが実際愛らしく、即ち世界法則であり回避は不要の奇跡の一手。ダンジョンの釣り天井が落ち、魔力を失った目玉の魔物が落ちる様に、彼女と恋に落ちるのは極めて自然なことなのだ。だって可愛いのだから。普通、ワラワとか尊大な態度取って見下すものではなかったか。不死の女王は案外気さくだったのだ。


【続く】

えー……このストーリーは大体単行本数冊分のイメージが既に生まれており、書き始めると超絶長いです。先に短編の方完結させたいので続きはちょっと待ってください。たぶんちゃんと書きます。

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純戦士のおじさん

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