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10.義母の介護を拒否する自己中義弟嫁の話

私はサトコ、52歳。
義実家で、同い年の旦那と要介護認定3の義母との3人暮らし。
義父は私が嫁いで来る前に亡くなった。
義母は2年前に脳卒中で倒れ、右半身麻痺になったが、幸い認知機能にダメージはなく、介護ベッドを設置しヘルパーさんの助けも借りて、慣れない介護生活に余裕が出てきた今日この頃だ。

私たち夫婦には娘が1人いるが、1年ほど前に結婚して独立している。
義母がこんな状態なので、家を出ることをためらっていたが、
「自分の人生を大切にしなさい」
という義母の言葉で結婚を決めた。夫亡き後、教師をして女手1つで息子2人を育てあげたお義母さんらしいセリフだ。
その娘のハルカは、この家のすぐ近くのマンションに住んでいる。
「近くだから、しょっちゅう顔出すよ!おばあちゃん」
そう言って、週に1度は手土産を持って遊びに来るかなりのおばあちゃんっ子。
今義母が手にしているWi-Fiタブレットも娘のプレゼントだ。
「ずいぶん便利になったわねえ」
もともと器用な義母は、タブレットを巧みに操作して映画を見たり読書をしたり、最近はパズルゲームを楽しんでいる。
思うように体は動かせないが頭脳明晰な人にとってはとてもありがたいアイテムだ。

「あっ、お義母さん、さっきユキオさんから電話があって、今日ミヤコさんが入学祝いのお返しを持ってくるそうよ。お義母さんの大好きなものを持っていくから楽しみにしてて…だって」
ユキオさんは旦那の弟で、ミヤコさんは奥さんだ。
義弟夫婦には子供が男女2人いて、長男がこの春大学に進学した。
家のローンもあるし、学費が大変だとか、まだ妹も高校生でお金がかかるとか、ミヤコさんからさんざん愚痴を聞かされていたので、義母と夫が奮発して入学祝いに10万円を包んだのだ。
そのお返しを持ってくるという連絡だった。
「あら。もしかしてシャインマスカットかしら?…私が食べたいって言ってたのをユキオが覚えててくれたのね」
義母は嬉しそうにしていたが、ミヤコさんが持ってきたのは近所で買った2000円ほどのマドレーヌセットだった。

ミヤコさんは、お祝いのお返しはシャインマスカットで話がついていることを知らなかったのだろう。
夫からシャインマスカットをお返しにするよう指示されたものの、もったいないと思った彼女が安いマドレーヌセットに変更し、その差額はたぶん自分のポケットに入れているのだろう。ミヤコさんは、そういうせこいところがあるのだ。「ユキオから電話があって、私が食べたがっていたシャインマスカットを持ってきてくれるって話だったけど…?」
少し呆れ気味にお義母さんが言った。まさか、そんな約束ができているとは予想していなかったのだろう。
「えっ?そうなんですか?でもお義母さんマドレーヌお好きでしたよね?」
ミヤコさんは一瞬焦りの表情を見せたが、さっと顔色を戻して悪びれることなくにっこり笑った。
話をそらそうと思ったのか、義母が手にしているタブレットを目ざとく見つけ、
「それ結構お高いでしょ?使いこなせるんですかぁ?なんかもったいない感じ」
と、義母を見下すような目をした。
私はこの義弟嫁とは話をしたくないのだが、義母を馬鹿にされたままでは腹が立つので、
「あら。お義母さんは私より使いこなしてるし、私ができないパズルも簡単にクリアしちゃうわよ」
と言い返してやった。私の話にミヤコさんは、
「うわぁパズルとか、あたし絶対無理ぃ」
と、人の楽しみを小バカにするように言って笑う。いつもこんな調子で、うんざりする。
「でも、パズルとかボケ防止にいいらしいから…お義母さんがこれ以上ボケちゃったら、お義姉さんだって大変ですもんねぇ」
ここまで言わないと気が済まないのだろうか。そもそも義母はまだ全然ボケてなどいない。

ミヤコさんは、私が入れた紅茶を飲みながら自分が持ってきたマドレーヌを食べている。
「でも、お義姉さんはスリムでいいですよねぇ。あたしなんて水飲んでも太っちゃう」
義弟と結婚した当初は小柄で可愛らしい女性だったが、年々横に成長し、キュウリが立派なカボチャになった感じ。肉体の膨張につれて、態度もますます増長していくようだ。
「ところで、あなたそのマドレーヌ3個目でしょ?」
「あらっ、そうでしたっけ?」
まったくもってムカつくほど能天気。都合の悪い話は聞き流す鉄のメンタルの持ち主だ。
関心があるのは自分だけ。他人のことなどまったくお構いなしで、人の長所は無視して見下すばかり。自分に足りないのは運のみ…みたいな考え方の人だ。
正直、私もお義母さんも、この人と一緒にいて楽しいことなどひとつもなかった。

義弟家族は、この実家から徒歩で10分もかからないところにマイホームを建てて住んでいる。
義弟はよく様子を見に来てくれるし、子供2人も時々遊びに来るが、このミヤコさんが顔を出すことはあまりない。
たまに来たかと思うと、お義母さんの部屋で少しだけ過ごし、後はリビングで私相手に愚痴やら陰口やらを一方的にまくしたてて帰っていく。
この日も、お義母さんの部屋ですごした後、リビングのソファにどっかり座わり、いつものように私にお茶を要求したのだった。
「お義姉さんも大変ね。姑の介護なんて…私は絶対やりたくないわ」
とミヤコさんが話を向ける。
「私はお義母さんが好きだし、大変だとは思ってないけど…」
私がそう応じると、
「またまた無理しちゃってぇ!ここの話し声はお義母さんには聞こえないんだから、素直に本音を言えばいいのに」
とケラケラ笑った。

さらに義弟嫁は嫌味を続ける。
「お義姉さんみたいな人、偽善者って言うんでしょ?あたしは正直者だからぁ、本音で全部話しちゃうの。長男との結婚は絶対嫌だと思ってたし…旦那と結婚したのは次男だったからだもん」
偽善者の意味がわかっていっているのかも怪しい。とりあえず世界中の正直者に詫びてほしい。
ミヤコさんは、その後も散々近所の人の悪口を言い、夫の愚痴をこぼし、子供の自慢をして帰っていった。

義母は、私がぐったり疲れた顔をしているのを見て、
「お疲れ様。あの人の相手なんてうんざりよね。欲しいものは自分で買うわ」
と言って、ため息をついた。
「お義母さん…後で私が買ってきますよ。私もシャインマスカットの口になっちゃった」
私が笑顔でそう言うと、お義母さんも笑った。
その日の夕食のデザートはシャインマスカット。お義母さんと旦那と私で美味しくいただいた。

多少の問題はあるにせよ、ごくごく平穏な日常だった。
そんな穏やかな日々に突然不幸が訪れた。
私の旦那が急死したのだ。
旦那がいつもの時間に起きてこないので寝室をのぞくと、彼は大きなイビキをかいて目を閉じていた。
声をかけても目を開けないので、肩に手をかけて揺すってみたが反応がない。
救急車で病院に運ばれ、そのまま目を覚ますことなく息を引き取った。
義母と同じ脳卒中だった。
あまりにも突然のことで頭が真っ白になった。
優しかった旦那の死を受け入れられず、
「なぜ?」「どうして?」「嘘でしょう?」
そんな言葉が頭の中を駆け巡った。
気がつくと娘のハルカが隣にいて、泣きながら私の手を握ってくれていた。
そばには娘の旦那さんが寄り添っていた。彼がお義母さんを車いすに乗せて連れてきてくれたらしい。
義弟の家族も駆けつけていた。

旦那が他界してしばらく記憶はあいまいだが、1つだけ鮮明に覚えていることがある。ミヤコさんが放った一言だ。
「お義兄さん、高額の生命保険に入っていたんでしょ?うちに分け前はないのかしら?」
この人は、いったい何を言っているんだろう?
悲しみと怒りで頭がクラクラした。

娘にも聞こえたようで、ミヤコさんを厳しい口調で非難した。
「叔母さん!こんな時に何言ってるの?」
少しひるんだのか、それでもミヤコさんは、
「やあねぇ。ちょっと気になっただけよ」
と悪びれる様子もなく、義理の兄が亡くなったというのに、悲しむ気持ちは全く感じられない。
「あのね叔母さん。死亡保険金は遺族のものなの。もし叔父さんが亡くなって、うちの母が保険金はもらえないの?って言ったらどう思う?」
娘にそう問われ、ミヤコさんは少し考えた後、
「そりゃムカつくわ」
と言った。想像したら本当に腹が立ったのだろう。なんと単純な思考回路だ。

そして、初七日の法要の席で義母が突然言いだした。
「サトコさん。これまでお世話になりました。私は次男夫婦に面倒をみてもらうよ」
私は何も聞いていなかった。義弟夫婦も同じだろう。
何よりミヤコさんの驚きぶりは尋常ではなかった。
私の住んでいるあたりは田舎のせいか、親の介護は子供が看るとの考え方が根強い。義両親を施設に入れたりすると「あの家の嫁は…」と近所で噂になり、陰口をたたかれる。
この地で生まれ育った私も、古い考えを捨て去ることができない。
「サトコさんはお嫁さんだもの。長男が亡くなったなら、次男の世話になるのが筋というものでしょう?この家も2人じゃ広すぎるし、売ってしまおうと思ってるの」
義母の決意は固そうだった。
私が異を唱えようと口を開きかけた瞬間、割って入るようにミヤコさんが声を上げた。
「いきなり、何言ってんですか!そんなこと急に言われたって無理に決まってるじゃないですか!!」
義弟が止めようとするのも構わず、
「他人の介護はお断り!勝手に施設でも何でも行けばいいじゃない!!」
とわめき散らす。
その場の空気が一瞬で凍りついた。
前々から他人の介護はお断りだと言っていたこと…。
義弟が長男だったら結婚していなかったと言っていたこと…。
そんなミヤコさんの言動を知っている私はそこまで驚きはしなかったが、こんな人にお義母さんのお世話を任せるわけにはいかない。

義母の面倒を義弟夫婦が看ることに反対する私と、義母の面倒を見たくないミヤコさんは、ある意味では利害が一致していた。
旦那が他界して、血縁のない嫁の私にこれ以上面倒をかけたくないという義母の気持ちは分からなくはないし、ありがたいとも思う。
けれど、これまで仲良くやってきたし、この家に対する愛着だってある。
せめてもう少し、息子を失った義母と、愛する旦那を失った悲しみを共有したいと思っていた。
ミヤコさんは、何とかして義母との同居を避けようと熱弁をふるっている。
「家だってそんなに広くないんですよ?お義母さんのベッドを入れる部屋なんてないし、子供たちもまだ学生で、お金の余裕もないんです!」
義弟夫婦が家を建てる時、義母が泣きつかれて頭金を出したことを私は知っている。その恩も綺麗さっぱり忘れたのだろうか?
「広くない家だと言うけど、お義母さんからずいぶん援助してもらったのよね?」
私がやんわり逆襲を開始すると、ミヤコさんは顔をしかめた。
「だから、この家の近くに建てたんじゃない!頭金を出す代わりに近くに建ててほしいって交換条件みたいに言われて…仕方なくそうしたのに!」
ところが、ここで義弟が嫁の言い分に反論したのだ。
「ちょっと待てよ。ここを改築して3世帯同居にすることを兄さんと相談してただろ。それをお前が絶対嫌だと言って、あの家を建てたんじゃないか!」
私はそのことを知らなかった。旦那が私に相談する前に、そのプランはミヤコさんによって阻止されたということだろう。
もし3世帯同居が実現し、このミヤコさんと一緒に暮らすことになっていたらと思うと、心の底からぞっとした。

この際、私は秘密にしていたことを全部明らかにしようと思った。
「家の援助だけじゃないわよね?子供が病気だとか、旦那の給料が下がったとか、ボーナスが出なかったとか言って、その後何度もお義母さんや私の旦那からお金を借りたわよね?」
義弟は寝耳に水の話のようで、
「そんな話は何も聞いてない!そもそも給料が下がったことなんてないし、ボーナスもちゃんと出てる!」
と、私の話がにわかには信じられないようだ。
今この場にいるのは、私と義母と娘夫婦、そして義弟家族4人の計8人。
その全員から疑惑の目を向けられ、さすがのミヤコさんも焦ったようだ。
「えっ?ちょっと待って!そんな昔のこと言われても思い出せないわ!お義姉さんの思い違いじゃないの?」
とぼけてごまかすつもりらしいので、私は、別のネタを明らかにした。
「じゃあ最近の話をするわ。先日入学祝いのお返しと言ってマドレーヌを持ってきたけど…」
しまったとばかり、ミヤコさんの顔がゆがんだ。意表を突かれて義弟が突っ込んでくる。
「えっ?俺はお袋が食べたがってたシャインマスカットの、なるべく高いやつを買って持っていけってお金を渡したよな?」
「えっ?えーとそれは…お店がお休みだったのよ。それで仕方なく…お義母さんマドレーヌ好きだったなぁと思って…」
そろそろ言い訳ネタが尽きそうだ。
それまで黙っていた義母が口を挟んだ。
「マドレーヌが好きだなんて、私は一言も言ったことありませんよ。それに、あなたが持ってきたマドレーヌは、あなたがほとんど1人で食べちゃったじゃないの!!」
事情を察したのか、そこにいる全員が納得したようにうなずいている。義弟夫婦の子供2人も冷たい視線だ。自分の母親が親族に責められてるのを、どんな気持ちで見ているのだろう。

さらに私から切り札をもう一枚。
「これは言わずおこうと思ったけど…あなたがここに来るたび、お義母さんの持ち物がなくなっているのよね、少しずつ…」
着物や貴金属がなくなっているのに気づいたのは、お義母さんが倒れた後だ。
「ちょっと!人を泥棒呼ばわりするつもり?お義姉さんの勘違いじゃないの?」
そう反論するが、明らかに動揺している。
「お義姉さんが盗んだのを、あたしのせいにしてるんじゃない?」
そう来るとは思わなかった。
「お母さんがそんなことするわけない!」
「何を言ってるの?サトコさんにかぎって、あり得ないわ!」
娘のハルカとお義母さんがほぼ同時に声を上げた。
ここまでくると、義弟も自分の嫁の不祥事を認めざるを得ないようだ。
「なぜだ?何のためにそんなことを?俺は給料はちゃんと家に入れているし、生活には困ってないだろ?」
それは私も知りたいところだ。
言い訳が思いつかないのか、ミヤコさんは真っ赤な顔をしてうつむいている。

口を開いたのは、義弟夫婦の長男だった。
「知ってるよ…お母さんはパチンコにハマってるんだ!!」
思いがけないところからの真実の暴露に、ミヤコさんがあたふたしている。
「えっ?あんた何言ってるの?そんな証拠がどこにあるのよ!!」
「だって買い物に行くと言って出かけて何時間も帰ってこないことあるし、帰ってきたらなんかタバコ臭いし…変だなと思ってたけど、この前パチンコ屋に入るところ見たんだ」
もう言い逃れはできそうにない。
「なっ、なによ!いいじゃないの少しくらい!」
ついに彼女は開き直ったが、義弟は冷たい口調で冷静に問いただした。
「それで?いくら借金があるんだ?」
義弟嫁はなかなか口を割らなかったが、120万の借金があることが分かった。
義母の部屋から盗んだ品々もフリマアプリなどで売りさばいていたらしい。

「そんなわけだから、お義母さんの世話なんて無理なのよ!この家を売ったお金で施設に入ればいいじゃない!」
何がそんなわけなのか、よくわからない。
義弟の子供たちが、泣きそうな顔で言った。
「お母さん!恥ずかしいから、もう言い訳しないで!」
「僕のお嫁さんが、お母さんの介護は絶対したくないって言ったらどう思う?」
その時、絶妙のタイミングで、娘のハルカが口を開いた。
「おばあちゃん。本当にこんな人のところで暮らしたいの?」
すると義母は、
「そうね…施設に行くしかないかもね。サトコさんを自由にしてあげなくちゃ」
そう言って優しく微笑んだ。
それを聞いた娘が、大きく深呼吸をして話し始めた。
「ご近所さんが噂してるの。お母さんが、おばあちゃんを施設に入れてこの家を自分のものにしようとしてるって」
今度は私の寝耳に水の話だ。娘が続ける。
「長男が亡くなって、次男のお嫁さんがおばあちゃんを引き取ってお世話をしようとしているのに、長男の嫁が断固反対して施設に入れようとしてるって…」
一体どうしてそんな話になっているのか。このあたりではそういう噂はすごく早く広まる。娘はミヤコさんをにらみ続けている。
「噂を流したのは叔母さんだよね?叔母さんが言ってたって、ご近所から聞いてるよ」
なんということだろう。私を悪者にした揚げ句に、義母を施設に入れてしまおうと計画してたということか。まさか、そんな悪だくみを画策していたなんて…。
ただの性格の悪い自己中で自分勝手な人だと思っていた。
その気持ちは義母も同じだったようだ。
「まさかミヤコさんに、そんな悪知恵があるとは思わなかったわ。それじゃあ私が施設に行ったら、サトコさんが悪者になってしまうじゃないの」
そう言ってため息をついた。
「おばあちゃん。今まで通りここで暮らせばいいと思うよ。お母さんはお嫁さんだけど、私とおばあちゃんは他人じゃないでしょ?当然だけど、私とお母さんは他人じゃない。だから他人じゃない同士は家族なの!遠慮しなくていいんだよ!」
娘の気持ちに思わず涙がこぼれた。
「そうよお義母さん。ハルカの言う通りよ。あの人が亡くなって、この家まで追い出されたら、私は1人で寂し過ぎるわ」
「本当にいいのかい?」
そう問いかける義母の目にも涙があふれていた。
「当たり前じゃない。家族なんだから」
娘と私が声をそろえた。

こうして私は、義母とこの家での生活を続けることになった。
相変わらず娘はよく顔を出してくれる。旦那さんと一緒のことも多い。
気の強い娘と穏やかで優しい旦那さんは、とてもお似合いの夫婦だ。
ある日、遊びに来ていた娘夫婦に義母が言った。
「いっそのこと旦那さんと一緒にこの家に引っ越してきたら?部屋ならたくさんあるし、マンションの家賃がもったいないじゃない」
「えっ?本当に?うちの旦那も、年寄りの女が2人きりじゃ心配だって言ってるんだよ。ね?」
娘がそう言うと、旦那さんはニコニコ微笑んでうなずいている。
「気遣いは嬉しいけど…私も年寄り扱いなの?」
私の笑顔の文句に、彼が「すみません」と笑いながら謝ると、その場にいた全員が笑った。
「でもなぁ。私たちが同居したら、叔母さんがまたあることないこと周りに言いふらして大変じゃ…」
娘の心配はもっともだったが、それは杞憂に終わった。
この日から半年もたたないうちに義弟夫婦は離婚したのだ。

あの日、ミヤコさんの数々の悪事とギャンブルによる借金が明らかになったのが主な離婚理由。
長年にわたり嘘をつき続けていたこと、お義母さんや私に対する悪行、さらには盗み疑惑までもが白日の下にさらされたからだ。
ミヤコさんは離婚にかなり抵抗したようだが、2人の子供も味方になることはなかった。
あの日の母親の言動や、これまでしてきたことが、子供たちにとってよほどショックだったのだろう。
もう子供たちも大きいので、母親に頼る必要もないのが救いだ。
「お義姉さんには本当にすまないことをした。ご近所さんにはちゃんと説明してきたから…」
離婚の報告に来た義弟は、深々と頭を下げてそう言った。
わざわざ説明しなくても、いずれ誤解は解けたことだろう。
だが、義弟がご近所に釈明したことで、ミヤコさんがタチの悪いウソを吹聴して回っていたことがご近所に知れ伝わった。

ミヤコさんは周囲から白い目で見られ、離婚を受け入れて家を出て行かざるをえなくなったようだ。
今更自分の実家に戻ることもできず、安いアパートを借りて、パートを掛け持ちして借金を返済しているらしい。
義弟は何度もミヤコさんに泣きつかれたが、助けるつもりはまったくないと言っていた。
もちろん私もお義母さんも同感だ。彼女はそれだけのことをやってきたのだ。

そんなバタバタした日々が落ち着いた頃、娘がやってきて私と義母に言った。
「おばあちゃん、お母さん、来月あたり夫婦でここに引っ越してこようと思うんだけど…」
少し照れたように続けた。
「実は赤ちゃんができたんだ。この家で子育てしたいの…いいかなぁ?」
私と義母は顔を見合わせた後、
「もちろんよ!!」
と声をそろえた。
「家族が増えて、ここもまた賑やかになるわね」
庭を眺めながら義母が笑顔で目を細めた。

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