見出し画像

誠実にNOを言わないから、人とつながれない

今となっては、この私にNOと言えない時代があったなんて、どなたも信じてくださらないかもしれませんが、管理職一歩手前のチームリーダー時代は、そうでした。

お得意先にプレゼンテーションしたプランに先方から修正依頼が入り、それを持ち帰って社内でミーティングをすると、チームの中には、せっかく手放れると思っていた仕事に面倒な横やりを入れられたことへの反感が立ち込めます。特に、プレゼンテーションに参加しておらず、後から修正依頼の内容だけを知らされるメンバーはそうなりがちでした。

そんな時、私は営業としてお得意先の考えを代弁したり、メンバーが面倒がりそうな作業を依頼すると、彼らから嫌がられると恐れ、そこに在る反感に共感を示して迎合し、その場の居心地の良さを選んでいました。

ここで妥協したら2週間後にもっと面倒なことになることは“なんとなく”感じていたのですが、「それじゃ不十分なんですよ。それではお得意先の期待を満たせていないから、また修正依頼が来ることになりますよ」と強く切り返すことができませんでした。場の流れにのって、「じゃあ、そういうことで・・・」と会議を終えて席に戻ることになります。

その結論を上司に報告すると、自分でもチラッと思い浮かんだことと同じような観点から突っ込まれ、根本的なやり直しの方向になるわけで・・・。
私はそれを、さっき笑顔で別れたばかりのチームメンバーに伝えに戻らなくてはなりませんでした。

そういうことを繰り返すうちに、関係性も悪化します。
「またかよ! さっきこれでいいって言ってたくせに、なんだよ!」
「最初から上司を連れて来いよ!お前と話したって、毎回これじゃ、意味ないじゃん!」

何も考えていないわけではありませんでしたが、皆といがみ合いたくない、嫌われたくないという、無意識的な自己防衛の欲求が、私をひどく無能にしていました。
「どうして自分が思っていることを言わないの?」 上司からの質問で、そのことに気づきました。

しかし、“頭でわかっている”のと、“実際にそうできる”こととの間には大きな溝があります。安易な解決策に傾いていく会議の流れに竿さす勇気は持てないまま、だいぶ時間が過ぎました。

ある時、「もうこの人たちと一緒に仕事をすることもなくなるわけだから、どう思われてもいいや!」と腹をくくれた時がありました。秘密裏に動いていた転職活動が実って、後は来月から有給消化に入ることを上司に報告するばかりなり・・・という状況だったからです。

ずっと貯めてきたうっぷんを晴らすときが来ました。
普段なら飲み込む一言を、その時は思い切って口から出しました。同時に、相手からどんな攻撃が返ってくるかと、身をすくめる自分もいました。

ところが、返ってきたのは、「う~ん・・・なるほどね、そういうことか。わかりやすい説明をしてくれてありがとう。ちょっと考え直した方がいいかもしれないね。少し時間をくれるかなぁ・・・」

え~、なにこれ・・・

人から嫌われたくないと思ってモジモジやり、その結果後出しじゃんけんの女王となり、結果的に皆に嫌われてきたのに・・・ 
大げさに言えば、自分が見ていた世界がガラガラと音を立てて崩れていく瞬間。

それ以来、「嫌われても問題ないから」と、あちこちの社内会議で立て続けに自分の意見をストレートに主張してみる数日間を過ごしました。結果はどれも驚くほど肯定的なものでした。私の反対意見がきっかけで、メンバーから新しいアイディアが生まれたこともありました。私の中で、NOということへの意味付けが変わりました。

たった1週間で、立場が異なる・専門性が異なる・考え方が異なる人たちと、共通の課題解決に向かって率直に腹を割って意見を戦わせることの楽しさを、ふつふつと感じるようにさえなってきていました。

もう決まっていた、例の転職のお話は、間に入って下さった方に甚大なご迷惑をおかけしつつ、辞退させていただくことにしました。「今の会社で、仲間と喧々諤々の会議をして、一緒に一つの方向性を作り出していくのが好きだから」というのが、その理由でした。

今般、マネージャーの仕事の焦点の一つに、メンバーの一人一人に活躍の場を提供し、多様性を活かしてチームの力を最大化することがあげられます。あれから四半世紀たった今、まだ自分にそれができているとは思えません。ただ、あの時期に「この道」に足を踏み入れたことは確かだなと・・・当時の上司と、チームメンバーと、そして自分に、感謝をしています。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

誰しも、仕事上などで関わる人との対立は避けたいですよね。
今回のエピソードのように、勇気を持って真実を伝えることで相手との関係性がガラリと変わると言う体験をなさったことのある方もいらっしゃることでしょう。

人と人とが関わる上で、対立構造を生み出している要因や場面は他にも色々とあると思います。
果たして、他にはどのような対処法が考えられるでしょうか?
対処できた先には、どのような展開が待っていそうでしょうか?

7月11日(土)にオンラインにて、「対立の奥を見る」をテーマにディスカッション参加型セミナーを実施します。気になる方や、課題をお持ちの方は、是非以下より詳細をご確認の上、ご参加くださいね。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?