「或る「小倉日記」伝」(松本清張)

 田上耕作という人物が森鴎外の小倉在住時期を調べるエピソードです。「小倉日記」の失われていた部分を補完したかったようです。取材をしていて、身体に麻痺があったせいでまともに取り合ってくれないこともありました。苦しみながら多くを調べ上げた耕作ですが、第二次世界大戦が始まってしまいました。戦時中に取材を続けるわけにもいかず、未完のまま死んでしまいます。
 鴎外の足跡を辿り続けた耕作は「小倉日記」の原本の存在を知ることなく死んでしまいました。病が進み、衰弱してしまった耕作が他の何かに興味を持てるとは思えません。知らないままであったことが救いであったように思います。

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