「芋虫」(江戸川乱歩)

あらすじ

 須永中尉は戦争で負傷して五体のほとんどをを失っています。無事なのは視覚と触覚だけです。須永時子は夫を支える良い妻として、家を借りている鷲尾老少将から会うごとに褒められています。実際は抵抗できない夫を虐げることを楽しむ奇妙な嗜好があります。ある日、時子は夫の目の純粋さを恐れて目を潰してしまいます。時子は後悔して「ユルシテ」と指で夫の体に書いて謝罪します。体を動かしたりなどの反応は一度もありませんでした。須永中尉は「ユルス」との書き置きを残して失踪しました。時子と鷲尾老少将は庭を探しているときに、井戸に何かが落ちた音を聞きます。

感想

 時子の弱者を虐げて優越感に浸っていることへの後ろめたさが常にあり、それでもやめられない心の弱さに意識がいきます。しかし、時子は須永中尉を愛していなかったわけではないと思います。現代でも介護疲れが問題になっています。想いがなければ3年も世話を続けられないと思います。目を潰してしまったときの後悔しているのも想いがあるからです。また、須永中尉は視覚も失ったときに怒るのではなく時子の呼びかけに反応しなくなりました。不自由な自分の体には元々思う所があったからこそ「ユルス」と書いたはと思います。須永中尉の心の内は一度も出てこないので想像するしかありませんが、負担をかけ続ける情けなさ、心苦しさがあったからこそ決心がついたように思います。

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