ディベロッパー表紙

ディベロッパー9

ユキノフさんの「ディベロッパー7.xふぃろさんの「ディベロッパー8」を受けて続きを書きましたー。
「最終決戦寸前まで書こう」と決めて書き始めたら、随分長くなっちゃって、普段の倍くらいになっちゃいました。(〃ω〃)>
でも、はにータンの活躍を描けたので悔いなしですよーw
お時間のあるときに休み休み読んで頂けたら嬉しいです(*´∀`*)ノ


お誘いですよ。(企画へのお誘いとルール)

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目次(過去ログ・参加作品はこちらから)

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ディベロッパーキャラクター説明

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マガジン(全参加作品が収納されてます。)

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April 10, Sunday 9:00 PM 00 minutes

 D&Tビルの主、ダン・マッケンジーすら失い、今や無人の城と化したD&Tビルの階段を、ディベロッパーはプロバイダーを追い駆け下りる。だが、まったく距離を縮めることが出来ず、ついていくだけで精一杯だった。
 拳銃で狙い撃とうにも、九十九折の階段ではプロバイダーはすぐに見えなくなり、その分、自分のスピードが落ちてしまうから、それこそ見失ってしまうだろう。

 蘇生後は生前とは比べ物にならない身体能力が備わったディベロッパーだったが、それはきっとプロバイダーも同じなのだろう。
 加えてヤツは元ニンジャマスター。生前のスペックが段違いなのだ。

 プロバイダーを追いながらも、ダンにたどり着くまでに倒してきた敵の姿が視界の端に映る。
 生きているヤツも『死んでいるヤツ』もいた。どうやらブラウザーカンパニーとやらの計画は順調に進んでいるらしい。

 踊り場から踊り場へ飛び、折り返しの壁を蹴りながらトップスピードを落とさぬようにプロバイダーを追うも、徐々に距離を引き離され視界に捉えきれない瞬間が増える。
(まぁいい)
 ディベロッパーは心の中でそう呟く。
 追いつくことが目的ではない。プロバイダーことジョー・アイザキを、もう一人のニンンジャ・マスターが待つ地下駐車場まで追い詰めることが出来れば上出来なのだ。

 追いすがる包帯男を引き離し、地下駐車場に到着したプロバイダーの耳に、空気を切り裂く音が聞こえ、彼は咄嗟に身を躱した。
 硬質な音を立て、地下駐車場のコンクリート柱に突き刺さった『ソレ』は、細い両刃の根元に小さな輪のついた小型ナイフ。
 忍者の使う『クナイ』だ。

「久しいな相沢譲」
 影の中から浮き出るように声の主が、姿を現す。
 ブロンドの髪に白い肌、少女のような小柄な女性。

「ユマか」
 無機質な声で名を呼ぶプロバイダーに、彼女は硬質な声で答える。
「今は14代 白雲斎だ、兄さん」

April 10, Sunday 8 pm 15 minutes

 サンフランシスコ郊外に建つ豪邸、ブルーノ・カルデローニ邸には、男たちの悲鳴が響き渡っていた。
 マルコの死後、イワンによって辛うじてファミリーの体を保ってきた王無き城に、今は敵にとなった元仲間たちが急襲をかけてきたのだ。

「くそっくそっ! 一体なんだってんだ!」
 手持ちの武器で必死に応戦する仲間たちを置き去りに、イワンは一人ドン・カルデローニ、マルコ・アゲロを経て自分に物となった書斎に立てこもり頭を抱えて震えていた。
 元々、荒事はからっきしなのだ。ファミリーに入ったのも情報収集の腕が偶然マルコの目に止まったというだけ。
 銃撃戦など、ただの一度も経験がなかった。

「おい小僧」
 突然声をかけられ、イワンは「ヒッ」と小さな悲鳴をあげて声の方に振り向き、今度は女の子のような甲高い悲鳴をあげた。
「ド…ドン・カルデローニ!!」
 刹那、イワンはその細い首を掴まれ、そのままグイっと持ち上げられた。足が床から離れ息ができない。
「手前ぇ、誰の許可を得て『俺』のオフィスに入ってる」
 地の底から響くようなドスの効いた野太い声。
 間違いなくドン・カルデローニだった。
 だからこそ、イワンは恐怖した。
 なぜなら、ドン・カルデローニは間違いなく死んだハズだから。
 しかもイワンは、マルコの命令で目の前の男の死体を『始末』しているのだ。

「なぁ小僧……」
 死んだはずの王が、イワンの首を掴んだままその顔を近づける。
 その目には、まったく生気がなかった。澱んだ死者の瞳。
 思い返せば、自分の首を掴んだドンの手は、異常なほど冷たかった。

俺は、腹が減った

 そう言うと、カルデローニは口を大きく開けた。いや、裂けたという方が正確だろう。
 メキメキと音をたてて口が耳元まで裂け、ゴキゴキと骨の外れる音が掴まれた掌を伝わって、イワンの骨に響く。
 まるで、蛇が大きな獲物を飲み込むときのように、カルデローニの顎が外れ大きな空洞のような口内が迫ってくる。そうして見えた全ての歯は先が鋭く尖がり、ノコギリのような小さな凹凸が無数についている。
 まるでサメの歯みたいだ。

 そんな場違いな事をイワンは思い。

 そして、それがイワンがこの世で最後に見た風景となったのだった。

「白雲斎……そうか、お前が選ばれたのか」
 プロバイダーと、白雲斎ことユマは距離を取って向かい合ったまま会話を続けていた。一般人から見れば随分遠いが、後一歩踏み込めば互いの攻撃範囲に踏み込むギリギリの距離。

「そうだ。だから私は掟に従い『裏切り者』の相沢譲を処刑する。それが伊賀忍頭領 の努め」
「いいだろう。久しぶりに相手をしてやる」
 ビリビリと空気が震えるような殺気が2人の間に満ちる。

昔の私と思うな

 言い終わる前に、ユマの姿が消える。
 いや、消えたのではなく動いたのだ。常人なら目の前から消えたと錯覚するほどのスピード。
 しかし、プロバイダーも生前は師匠から免許皆伝を受けたニンジャ・マスターである。鉄の仮面に覆われた目は、しっかりとユマの動きを捉えている。

 素早く左に飛んだユマは、いつの間にか出していた十字手裏剣を投げプロバイダーの動きを牽制しつつ、一気に距離を詰める。
 それを察知したプロバイダーはユマの首元めがけカウンターの貫手を繰り出すが、滑るように仰け反って交わしたユマは伸ばされた手首を掴むと体を捻り、遠心力を利用してプロバイダーを投げ飛ばす。

 一回転して仰向けにコンクリートの地面に叩きつけられたプロバイダーの真上で高速で横回転をしながら肘を落とすユマだったが、寸でのところで躱され、着地したところをプロバイダーに捕まらぬよう手を伸ばし、掌で地面を弾いて一旦距離を取った。

「なるほど、昔より強くなった」
 無機質ながらどこか嬉しげなトーンを含ませるプロバイダー。
「それでこそ殺しがいがあるというものだ」

 床が砕けるほどの力で地面を蹴ったプロバイダーが一足飛びにユマに迫る。
 左ジャブからの右ストレート。続けて脇腹めがけての左フックを放つプロバイダー。一発でも当たれば即、骨が砕けるほどのスピードと威力。
 だがユマは風に揺れる柳のように身を捻って躱していく。

「それはアメリカ流か?」
 呆れたようなユマの言葉と共に、乾いた破裂音が駐車場全体に響き渡き、プロバイダーの顔面が跳ね上がる。

 パパパパンッ!

 再び響く破裂音4発に合わせるように、プロバイダーの身体が踊る。
 ユマの放つ、ノーモーションからの目にも止まらぬ掌底が次々プロバイダーを捉えているのだ。

「貴方は弱くなった。兄さん」
 左右の掌底がプロバイダーの顔面、こめかみ、脇腹を次々に捉え、その度乾いた破裂音が駐車場に響き渡る。
 たまらずガードを上げれば膝めがけてユマの鋭いローキック、足払い、回し蹴りが飛んでくる。距離をとれば飛び後ろまわし蹴りから空中での3段蹴り、身を屈めれば遠心力をつけた前方回転蹴りが、矢継ぎ早に繰り出され、一擊でディベロッパーの骨を折った打撃が、プロバイダーに次々ヒット。
 攻撃を受けた金属製の鎧が凹んでいき、攻撃を避けようと後ろに下がり続けた彼は、いつの間にか壁際に追い込まれていた。

 ハイキックでガードを弾かれたプロバイダーの視界から消えたユマの右掌底に、下から顎を打ち抜かれたプロバイダーがガクリと膝を折る。
 ユマは膝を足がかりに鉄仮面の体を駆け上がると肩車の体制になり、いつの間にか手に持ったクナイで首を狙う。いかに治癒能力がずば抜けていても、頭と胴を切り離されてはさすがに生きてはいられない。
(獲った)
 ユマが勝利を確信し、クナイをプロバイダーの首めがけ振り下ろそうとした刹那、全身を突き抜ける衝撃がユマを襲い、弾かれるように地面に倒れた。

 ショックで身体が動かず目線だけを向ければ、プロバイダーは右手でビルに動力を送る配電線を握っていた。
 彼は金属で覆われた己の身体に高圧電流を通し、ユマを感電させたのだ。
「惜しかったが、俺の勝ちだ」
 プロバイダーはユマの手からクナイを奪い取ると、片手で細い首を掴みコンクリートにユマの身体を押し付け、止めを刺そうと振り上げた。

『潜れ!』 ハニー・ビー!!
 ディベロッパーの叫び声と耳をつんざくほどの爆音に顔を上げたプロバイダーの目に、ハロゲンライトの強烈な光が飛び込んできた。不意を突かれモニターが焼き付いたように真っ白になる。

 ピータービルト・モデル389 
 アメリカが誇るトレイラートラックに、トーマスが手を加えホットロッド仕様に改造した文字通りのモンスターが、プロバイダー目掛け唸りを上げて襲いかかる。
 咄嗟に避けようとするも、影に潜った彼女の手がプロバイダーの手首を掴んでいた。

 モンスターがトップスピードのままプロバイダーに突っ込み、彼ごと地下駐車場のコンクリート柱に突っ込んでいく。その衝撃で高層ビルを支えるコンクリートが粉々に砕けるがモンスターは尚も止まらず、鼻先にプロバイダーを押し付けたまま、次の柱に激突。やっとエンジンをストップした。

 衝撃にひしゃげたドアを蹴破り、ディベロッパーがモンスターから降りてきた。
「無事か、ハニー・ビー」
 右手に握った拳銃をトラックの先端に向けたまま、ディベロッパーは後方のパートナーに声をかける。
 まだ電撃のダメージが抜けないのか、彼女は多少ふらつきながらもディベロッパーに近づき「問題ない」と答える。

 白雲斎ことハニー・ビーの気丈な声に安心しつつ、ディベロッパーは銃を構えたまま、モンスタートラックのフロントに回り込む。
 普通の人間なら当然生きてはいないだろうが、相手は自分と同じ化物で、しかもニンジャ・マスターだ。まだ油断は出来ない。が、柱とフロントの間に隙間はなく、金属に覆われた左手だけがトラックの端から出ているのを確認し、ディベロッパーはやっと拳銃を下ろした。

「トーマスになんて謝ったもんか」
 ディベロッパーは苦笑する。構想3年、製作に1年をかけた力作を、たった一度の『ドライブ』で大破させてしまったのだ。
「ディベロッパー」
 後ろから声をかけられディベロッパーが振り向くと、真っ直ぐに彼を見るハニー・ビーと目が合う。
「お前に助けられた。この恩は忘れない」
「そりゃあお互い様だ。気にするな」
 ダンが死に、プロバイダーも死んだ。この手で復讐が叶わななかったのは残念だが。
「これで、全部終わったのか……」

まだだディベロッパー。いや、ジェームズ

 不意に影から聞こえた声に、ディベロッパーとハニー・ビーは其々の武器を構える。
「あ、あんたは……」
 地下駐車場の影から出てきたのはリッキー・ブリッジス。亡妻リンダの叔父だった。

「久しぶりだなジェームズ、ハクウンサイ」
「リック……」
 唐突な展開にディベロッパーは言葉に詰まる。
 リッキー・ブリッジスは忙しい男で、彼と出会ったのはリンダとの結婚式の時だけ。つまり初対面も同然の間柄だ。
 そんな彼が、なぜこの場にいるのかといえば、心当たりは一つしかない。
「リキ、なぜお前がここに」
 そんなディベロッパーの予想はハニー・ビーの言葉でハッキリ確信に変わる。
「やはり、『リキ』ってのはあんたのことだったのか」
「そうだ。私が君を蘇らせた。自分の復讐のために、君と彼女らイガジンジャを利用した……」
「勘違いするなリック」
 ディベロッパーはリックの言葉尻を盗るように口を開く。
「これは『俺の復讐』だ。例え発端があんただとしても『俺が』自ら望んだ復讐だ」
 ディベロッパーの言葉に、リックはしばし沈黙のあと「そうだな」と頷き、
「そして、『君の』復讐はまだ終わってはいない」
と言った。

April 10, Sunday 8 pm 50 minutes

 カルデローニ邸の戦いはあっけなく終わった。
 いや、それは戦いですらなく一方的な『殺戮』だった。
 マルコ側についた者は全員、カルデローニ率いる『不死のギャング』たちの急襲に狼狽し、反撃も侭ならぬまま死んだ。そして死体袋に詰め込まれドクター・プロトコルの研究所へと運ばれていった。
 とはいえ、マルコの部下もダンも結局はプロトコルに操られカルデローニを殺し、プロトコルの手によって蘇生させられたカルデローニやプロバイダーによって殺されたのだから、マッチポンプもいいところだが。

 カルデローニ馴染みの『掃除屋』の手によって、元通りになった屋敷に一台のリムジンが停まった。
 後部座席から降りてきたのは、ポマードでベッタリと押さえつけられたオールバックに片眼鏡の男、ドクター・プロトコルだ。
 彼が降り立つと、カルデローニを始め全員がエントランスに出迎える。

「諸君、私は今回のことで学んだ。
 生者より死者を操る方が余程、合理的だということを。
 生きている人間はダメだな。勝手なことばかりする。
 これから利用価値のありそうな者は全て『リサイクル』してから使うことにしよう」

 冗談めかしていうプロトコルの言葉に、しかし笑うものは一人もいない。
 ただ、虚ろな瞳でプロトコルの指示を待つだけだ。
 そんな彼らを眺め、ふんと鼻を鳴らすとプロトコルはカルデローニに目をやると、わざとらしく紳士的な口調で言った。
「では、ドン・カルデローニ。『私のオフィス』に案内してくれたまえ」

April 10, Sunday at 9 pm 25 minutes

「俺の復讐がまだ終わっていないってのはどういう事だ」
「君ら家族に直接手を下した犯人は、すでにこの世にいない。君、つまりディベロッパーの出現によって、カルデローニに消されたからだ」
 そうしてディベロッパーことジェームズは、リックの口から彼の知る情報の全てを聞いた。

 カルデローニファミリーとD&Tシステムの癒着、ふたりのボスの間の血縁関係、自分を蘇らせた技術は元々『死の商人』ドクター・プロトコルという男が開発したこと。5年前の爆破事件とジョー・アイザキの繋がり。

「つまり、一連の事件は全て、ドクター・プロトコルという男が裏で糸を引いていた?」
「どこまでヤツが関与しているかはハッキリしないが、答えはYESだ。5年前の事件から今回の一連の騒動に至るまで、常にヤツの影が見え隠れしている」
と、そこまで話したところでリックの携帯が鳴り、彼は2人に手で声を出さぬよう合図をしてから通話ボタンを押した。

「……分かった。君らは引き上げてくれ。ご苦労だった」
 通話を終えたリックが、ディベロッパーの方を向く。
「カルデローニ邸で激しい銃撃戦があり、その後暫くしてドクター・プロトコルがカルデローニ邸にやってきたそうだ」
「……そうか」
 リックの話で、そのドクター・プロトコルという男が黒幕であることは分かった。ならば、ヤツの居場所に乗り込み、本人に真相を聞くのが一番手っ取り早い。ディベロッパーがそう思った瞬間。
「ディベロッパー! リック!」
 突如、ハニー・ビーに名前を叫ばれ振り向いたディベロッパーの視界の端に、トラックと柱からはみ出したプロバイダーの手が、握っていた『何か』を押したのが映った。

 刹那。

 激しい爆音と地響き、ビルを支えるコンクリート柱から吹き飛ぶ瓦礫と砂埃があっという間に地下駐車場に充満する。
「いかん! 二人共外に!」
 プロバイダーが押したのは、このビルの構造柱に埋め込まれた爆薬を破裂させる、無線式のリモコンスイッチだった。
 リックが叫び、3人は外に向かって走る。
 一人遅れそうになる『人間の』リックを抱えるように、ディベロッパーとハニー・ビーは出口に向かって全速力で走り、転げでるようにビルを出た。
 振り返ると、D&Tシステムの高層ビルがゆっくりと崩れ落ちていく。

「くそっ、巻き込まれる!」
 崩れゆくビルから離れるため、全速力で走りながら毒づくディべロッパーの目前に、一台のピックアップトラックが停車していた。
「乗れ!」
 運転席から身を乗り出して叫んでいたのは、親友のトーマスだ。
「ハニー・ビー! 荷台に飛び乗れ!」
 言われるままハニー・ビーがジャンプするのを確認すると、ディベロッパーはリックの背広とベルトを掴み、トラック目掛けて全力で投げ飛ばす。

「トーマス! アクセル!」
 声が届いたのか、トラックの車輪が甲高い摩擦音を立てるが微か聞こえた。すぐ後ろに迫る轟音に聴覚を奪われながらディベロッパーは全速力で荷台目掛けて走る。
「ディベロッパー!」
 荷台から差し出されたハニー・ビーの手を何とか握ると、とんでもない力で引かれたディベロッパーは、そのまま空中を一回転してトラックの荷台に背中を強か打ち付けた。
「ぐはっ!」
 アスファルトに降り注ぐ瓦礫と迫り来る砂埃に飲み込まれそうになりながら、それでもトーマスの運転するピックアップトラックは何とか逃げ切った。
 砂煙に沈むビルが小さくなっていく。

「何とか間に合ったか……」
 ディベロッパーは深い溜息をつくと、荷台から運転席の窓をノックする。
「とりあえず、一旦隠れ家に向かってくれ」
「いや」
 行き先を指示するディベロッパーの言葉を遮ると、リックは荷台を移動し、運転席のトーマスに隠れ家とは反対方向の住所を告げた。

 彼らを乗せたピックアップトラックが着いたのは、サンフランシスコのリゾート地に建つ高級マンションだった。
 高級車が並ぶ駐車場に場違いなピックアップトラックを停め、リックに導かれるまま3人が入った部屋の窓からは、昼間ならザ・ファラロンズ湾が一望できるだろう。

「リック、なぜここに?」
 リックの意図が分からずディベロッパーが質問する。
「カルデローニ邸にいる人数は50人を超える。しかも恐らくそのほとんどは君と同じ『不死』の肉体を持つ連中だ。まさかあのまま乗り込むつもりか?」
 確かに、D&Tシステムに乗り込んだ段階で手持ちの弾丸はほぼ底をつき、更に鉄仮面との戦闘で虎の子のモンスタートラックまで失ってしまった。
 だからこそ、ディベロッパーは一旦アジトに戻り、弾丸の補充を考えていたのだ。

 リックは何もない部屋の隅にチラリと目をやったあと、リビング正面にある本棚の前に立つ。
 天井近くまで壁一面を埋め尽くす本棚の上から5段目、左から15冊目。
 ヘミングウェイの『武器よさらば』の背表紙をリックが押すと、ロックの外れる音と電動モーターの起動する音が響き、本棚の一部が開いた。
「こっちだ」
 リックに導かれるまま、本棚の奥にある隠し部屋に入った3人は目を見張った。
 およそ18平米の部屋の壁中に、拳銃からマシンガンまであらゆる銃器がフックにかけられ整然と並び、作り付けの棚には各種弾丸、手榴弾、閃光弾、グレネードランチャー、ナイフ、暗器、防弾ベストに至るまで、およそ手持ちの武器が揃っていた。まるで武器の見本市だ。

「好きな武器を選んでくれ」
 そう言って、リック自身も防弾ベストを手に取り、身に付け始める。
「ちょっと待てリック。まさかあんたも行くのか」
「当然だ」
「さっきも言ったがこれは俺の…」
「勘違いするな」
 地下駐車場の時とは逆に、今度はリックがディベロッパーの言葉を制する。

「私は任務のためにカルデローニ邸に乗り込むんだ。サンフランシスコを蝕む権力者共を全員検挙する証拠を掴むために。武器を君たちに渡すのも、君たちが起こす騒ぎに乗じて私が潜入するために過ぎない。つまりもう一度、君たちを利用しようというわけだ」
 そう言われてしまっては、ディベロッパーに返す言葉はなかった……まて、今リックは、「君『たち』」と言わなかったか?
 ディベロパーが振り返ると、ハニー・ビーがナイフや暗器を選んでいた

「おい、まさかお前も行くって言うんじゃないだろうなハニー・ビー」
「当然行くに決まっている。お前一人では心もとないからな」
「あの鉄仮面は死んだ。お前の仕事は終わりだろう。俺に付き合う必要はない」
 早口で言うディベロッパーの言葉が終わるのを待ち、ハニー・ビーは真っ直ぐに包帯男を見据えていった。

「私は言ったはずだ『恩は忘れない』と。それにお前は私の仕事に協力した、今度は私がお前の復讐を助太刀する番だ」
 スケダチが何かは分からないが、話の流れから復協力するということなのだろうと、ディベロッパーは理解する。
「それに、プロトコルという男は、私の兄の敵でもあるしな」
 ハニー・ビーは低い声で呟く。
 そうだった。あの鉄仮面、プロバイダーことジョー・アイザキはプロトコルの計略によって命を落とし、操られていたのだ。
 そして、ディベロッパーは地下駐車場で彼女がプロバイダーを兄さんと呼ぶのを聞いていたのだ。

「OKだ、ハニー・ビー。今回はありがたく申し出を受けるとしよう。ただし……」
 ディベロッパーは後ろを振り向くと、いそいそとマシンガンを手に取る親友の首根っこを掴む。
「お前はダメだトーマス」
 後ろで不満の声を上げるトーマスを無視して、ディベロッパーは自分の銃の弾丸を補給し、他にも役立ちそうなモノを物色する。
「ん? なぁリック。これは何だ?」
「ああ、それは――」
 リックの説明に、ディベロッパーはニヤリと笑った。

April 10, Sunday 10:30 pm

 ディベロッパー、ハニー・ビー、リッキー・ブリッジスは身支度を終えると、部屋を出た。
 トーマスは、事が済むまでリックの部屋で待機。
 現在、最も安全な隠れ家だからだ。
 トーマスは最後までゴネたが、リックがトーマスの工場の経理書類のコピーを見せて何か耳打ちすると、渋々ながら了承した。きっと後暗いところを突かれたのだろう。
 エレベーターを使い駐車場まで降りると、リックは一台の車の前に立った。
「これは……」
 ディベロッパーは目を見張った。

 71年型プリマス・クーダ。

 亡妻リンダとの思い出の車だ。
 しかし、以前見たのと微妙に雰囲気が違う。
「見た目は旧式だが、心配はいらない。車体とガラスはすべて防弾仕様に変え、エンジンにはスパーチャージャーを搭載し最高時速は210マイル、タイヤは特殊素材でパンクの心配はない。この日のためにチューンした特別仕様だ」
 トーマスを部屋に残して良かったと、ディベロッパーは内心で苦笑いする。
 もし、この車を見せたら何があってもついて行くと言って聞かなかったろう。

 リックがポンと何かを投げてよこしたので受け取ると、それは車のキーだった。
「運転は君に頼む。ディベロッパー」
 リックの言葉に、ディベロッパーはニヤリと笑った。

 ディベロッパーのアクセルに合わせ、プリマス・クーダが雄叫びを上げる。
 それを確認したディベロッパーは、ギヤを1速にぶち込み、思いっきりアクセルを踏み込んだ。

さぁ、復讐の時間だ


April 10, Sunday at 11 pm 10 minutes

 突然のビル倒壊事故によって、深夜にも関わらずD&Tシステムの周囲は大混乱になっていた。
 市警や消防隊が駆けつけ、野次馬や事態を聞きつけたマスコミも集まりつつある。
 これだけの大事故にも関わらず、周囲にそれほどの被害が及ばず、死傷者が出なかったのは、場所がオフィス街であり日曜日の夜なので人がいなかったお陰だろう。
 野次馬たちは自分のスマホを、瓦礫の山と化したD&Tビルに向けて写真やらムービーを撮影していた。

 と、突如、瓦礫の一部が吹き飛び、現場に緊張が走る。
 周囲を警備していた警官たちが野次馬を遠ざけようと声を張り上げる中、
「おい、あれはなんだ!!」
 野次馬の一人が声を上げ、大勢の視線が、野次馬の指差す場所に集中する。

 消防隊が、吹き飛んだ瓦礫に向けてライトを当てると、立ち上る土煙の中に人影のようなものが見えた。
 すわ被災者か! と、周囲がザワつき始めた次の瞬間、
 影付近の瓦礫が再び吹き飛び、その場にいた全員が悲鳴を上げる。
 消防隊員が再び同じ場所をライトで照らし、他の隊員が慌てて瓦礫の山をよじ登り、影が見えた付近を捜索するが、そこに人の姿はなかった。

つづく

はーい、ここまでー(*´∀`*)ノ

なんとかこの9話で、最終決戦寸前まで持って行きたかったのと、アクションシーンを入れたら、すっかり長くなってしまいました。(〃ω〃)>

そんなわけで、あとはよろしくお願いしまーす!ε三三ヾ(ΦωΦ)ノ ニゲロー

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