ミカダ

【小説】*ミカダさんのあんまり不思議じゃない冒険*【感想】

ぷらすです。

植木まみすけさんがnoteで連載していた小説『*ミカダさんのあんまり不思議じゃない冒険*』が、昨日ついに完結を迎えました。

本編53話+エピローグ3話。連載期間は約2年にも及び、総文字はなんと役十万字にも及ぶ大長編小説です!

僕は第1話からこの物語を愛読していて、早く続きが読みたい気持ちと、ずっと読んでいたい、ミカダさんの物語が終わらないで欲しいという気持ちの狭間で身悶えていたわけですが、それとは別に、この物語が完結したらちゃんと感想を書こうと密かに心に決めていて、アップされる作品へのコメントも控えていたんですよね。

*ミカダさんのあんまり不思議じゃない冒険*とは

本作は、いわゆる「異世界ファンタジー」です。
主人公のミカダさんは、一人で船を操り海を越えて、島から島へ依頼された荷物を運ぶ『船守』という国家資格を持つ17歳の女の子。

“ある過去”が原因で彼女は、親友で相棒の“ジルバ”以外には決して心を開かず、他者と自分たちの間に頑なに距離を置いています。

そんなある日、彼女は不思議な少女から「薬瓶を≪トオイトオイ島のカシの木≫へ配達してほしい」という依頼を受け、相棒ジルバと共に出港するも運悪く嵐に巻き込まれ……。という物語。

これは、*ご挨拶&目次&グース群島用語辞典* という本作のサブテキストでもご自身が書かれていますが、本作は、まみすけさんの実体験が元になった物語なんですね。
もちろん、フィクションなので事実そのままというわけではなく、これまでまみすけさんが体験し、感じてきた事を登場キャラや物語の中に落とし込んでいるわけですが。

壮大で小さな冒険の物語

「異世界ファンタジー」というと、近年ではラノベなどの一大ジャンルになっていて、その多くはRPG(ロール・プレイング・ゲーム)の世界観に生まれ変わる主人公という設定で描かれる事が多いです。つまり、作者と読者があらかじめ共有している「ドラゴンクエスト的なファンタジー世界」の“お約束”の世界をベースに物語を展開していくわけです。
それ自体は全然悪くないし、多くの人が共有する世界観や物語の中で、いかに他作品と差別化するアイデアを考える難しさがあると思います。

一方で、オリジナルの異世界を描くことは、国々の風俗や食、言語や宗教、単位や通貨やルールなどなど、(物語に描くかどうかは別にして)「セカイ」を丸々一つ構築しなければなりません。

それでいて、ある程度は(僕らが住む)現実世界とリンクする要素がないと、読者は作者の頭の中のセカイを共有することが難しく、その辺のバランス感覚が作家の腕の見せどころになるわけです。

まみすけさんは長編小説初挑戦にして、漫画で培った経験とスキルを活かしながら、この難題に取り組んだんですねー。
本作は現実世界をベースにしつつ、そこに独自のルールや風俗を付け加え(または置き換え)た「セカイ」を作り上げ、自身の体験や感情、カラフルに彩られた色々、(自ら取材に出かけたという屋久島などの)自然の描写などを架け橋にして、感覚の共有という形で、僕ら読者を物語世界に招いてくれます。

自身のイマジネーションを独自のワードとリズム感に乗せて描く、まみすけさんの小説は(上手く言えませんが)音楽や歌を聴く感覚に近い感じがしました。
最初は小さかったミカダさんの「セカイ」が、冒険の中で彼女の感情の変化や成長に合わせて広がりを見せ、その色を変えていくのです。

もちろんそれだけではなく、物語的にも起承転結はしっかりしているし、後半部分では読者(というか僕ですが)が、あっと驚く仕掛けもあって、「おぉ! そういう事かー! 」と心底関心してしまいました。
この「仕掛け」によって、現実の世界と物語のセカイがシームレスに地続きになるんですねー。
この展開はまったく予想だにしていなかったので、本当にビックリしたし「あー、やられたー!」って思いましたねー!
沢山のフィクションに触れていると、どうしても物語の先を予想するクセがついてしまうじゃないですか。
本作では、その予想が(いい意味で)見事に裏切られましたよ。

キャラクターの魅力

本作序盤から登場する元傭兵のチロタ。
ライオンのような長髪、背が高くマッチョで顔や体に傷のあるイカツイ外見。何事も真剣に捉えて悩み込んでしまうミカダさんとは対照的な、人懐っこくて大らかな彼は、トオイトオイ島へ同行することになり、時にぶつかり合い、時に足りない部分を補い合いながら、頑ななミカダさんの心を癒し、少しづつ開いていくんですね。
同時に、ミカダさんと共に旅をすることで、彼もまた、自分が囚われていた過去の傷を癒していくのです。

そんな二人の動向にヤキモキしながら読み進めるのも本作の大きな魅力なと言えるでしょう。

大切な儀式

挨拶の中でまみすけさんは、“第一稿はあまりにも暗くて、試しに読んでいただいた方が鬱をもらってしまって具合が悪くなってしまう始末。”と書かれていて、その後、“読者を意識してラノベ風に、キャラをきっちり立て直して、リライトし”たのが、この作品なのだそうです。

第一稿は、まみすけさんのショックが反映された暗い物語だったのが、読者を意識しフィクションにしていく過程で、恐らく自身の心の傷を徐々に癒したのだと思うし、まみすけさんに限らず、個人的な体験やその時感じた感情を物語という形に落とし込むことで昇華させる行為は、作家にとってある種の、大切な儀式なのかもしれません。

そして作者が抱える悩みや葛藤、コンプレックスや哲学は、物語として磨かれることで、読者の心に届き、共鳴し、感動を呼ぶのではないかと思うんですね。

足掛け2年に渡って描かれた物語は、53話+エピローグ3話と、WEB小説としては少々長く、読むのを躊躇してしまう人もいるかもですが、まずは試しに最初の1話を読んでみて欲しいです。

そして、続きが気になった人は、ミカダさんやチロタと一緒に、まみすけさんが作り出したもう一つの「セカイ」を冒険してくれたら、僕も一ファンとして嬉しいですよ。

ではではー(´∀`)ノ



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