ジェネシス_ノーマル

GEEK-17

ぷらすです。
やっと、以前やったぷち企画で、服部ユタカさんが名前と能力を考えて下さったアンディー・アンダーソンと、海見みみみさんが名前と能力を考えて下さったオペラ・ナイトを物語で動かす事が出来ました!
(アンディーの方は、もっと活躍させたかったんですが、物語の展開上、上手く動かせなくてホント申し訳ないです。(;´д`))

という訳で、今回は『服部ユタカX海見みみみX青空ぷらす』のコラボ小説となっております!
そして、いよいよGEEKも次回が最終回ですよー!

 September 13 Monday at 7:00 pm

「ほう、確かに三年前の装置と見た目は同じだが、まさか中身まで三年前と同じとは言うまいな」
 濃紺のスーツに赤いネクタイ、白髪を綺麗に撫で付けた長身の男ロジャー・マッケンジーがクラウザーをジロリと睨みつける。
 すると、それまで人懐っこい笑みを浮かべていたクラウザーの小さな目が、猛禽のそれに変わった。

「いいえ、寸分違わず三年前の装置と同じですよ。ミスターマッケンジー」
「なっ! 君は何を!?」
「まぁ、お聞きなさい。現在の技術では物質転送装置の実用化は不可能だったのです。ある一定以上の質量の物体を転送しようとすれば、負荷に耐えられず空間は暴走しブラックホール化してしまうと、質問したすべての世界的物理学者が口を揃えて証言しました」
「だったら何故、あれだけの負債を抱えた上、さらに出資を募ってまでこんなガラクタを作ったのだ! 君は一体何を考えて…」
 口泡を飛ばすマッケンジーをクラウザーは「つまり」と声で制する。

「あの装置は使い方によっては、たった一台で地球を消滅させる力を持つ、核兵器をも超える究極の兵器なのです。我々は今その力を手に入れたのですよ?」
 クラウザーの目に狂気が宿る。
「ではそんな我々に、国は、いや、世界は果たして逆らうことが出来ますかな?」 いや、それではまるで世界征服を企む狂人のようだ。言い換えましょう。とクラウザーは笑う。

「国や世界は、“我々のビジネス“を邪魔することが出来ますかな?」
 でっぷりと太ったハゲ頭の小柄な老人の言葉に、マッケンジーはよろよろと後ずさる。
「き、君は、自分が何を言っているのか分かっているのか……」
「もちろん分かっていますとも。これからは我々の苦労して稼いだ金の上前を掠め取る税金も、我々を縛りビジネスを邪魔するルールも、我々の椅子を狙う競合会社も存在しなくなるということです。これまでの負債など一年も経たずに回収出来るでしょう」
「そ、それはつまり、国を、いや世界を敵に回すということだぞ!」
 クラウザーは、怯え切ったマッケンジーを猛禽のような目で見開くと、「それは違う」と声を張り上げた。

我々が、ビジネス界の頂点に君臨するのです。永久に!

「狂っている……」
 だらりと両腕をたらし、立っているのもやっとの状態のマッケンジーは、怪物でも見るような目で怯え切った目でクラウザーを見ながら、そう呟いた。
 クラウザーは、そんな上司の様子に心底失望したように頭を振ると、
「まったく、お前は相変わらずだな、弱虫ロジャー」と嘲笑う。
「同期入社でありながら、お前はいつだって私の前にいた……。
 I・L・B発展のために数々の功績を挙げてきた私より、倫理だのルールだの下らないものに怯え、ただ現状維持に努めてきたお前がだ!
 そんな無能に、今まで顎でこき使われてきた、この! 私の! 気持ちが分かるか! ロジャー・マッケンジー!」
 吹き出したマグマのようなクラウザーの怒声に押されるように、マッケンジーはその場に尻餅をつき、「ひぃ」と情けない声を上げる。

「なるほど、私の研究データを盗み出したのはそういう訳か」
 突如聞こえた声にクラウザーがゆっくり振り向くと、そこに立っていたはずの警備員たちの姿はなく、真っ黒なマスクを被り三つ揃いのスーツに身を包んだ男が立っていた。

「ふん、やはり現れたか。随分と立派な格好だなヘヌリ」
 音もなく現れたBHの姿に驚く様子も見せず、クラウザーは覆面に隠された彼の本当の名を呼ぶ。BHはマスクの中で眉根を寄せた。
「貴様……私の正体を…」
「もちろん分かっていたとも。私の雇った研究員が最初に殺されたあの事件を覚えているか? お前が最初に人殺しをしたあの事件さ」
 クラウザーは小首をかしげ肩をすくめる。

「慌てていたお前は気づかなかったようだが、あの研究員、実はあの後しばらくの間、息があったのだ。親切な誰かの通報で病院に搬送された彼から全て聞いたよ。
 お前が生きていたことも、研究データの在り処をこそこそ探っていたことも。だから私はずっと、子飼いの異能力者に命じてお前の動向を見張らせていたのだ」
 クラウザーの瞳が、獲物を狙う猛禽の光を帯びる。

「お前の作ったギャング団も随分と大きくなったようだ。科学者などではなく、ビジネスの世界を選んでいれば出世しただろうに、まったくバカな男さ」
 だが安心するといい。とクラウザーがBHを見上げる。
「君が育てたギャング団は、この私が有効に使わせてもらうよ」
「……全ては貴様の掌の上だったということか。しかし、ここで貴様が死ねばその目論見もご破算だな」
 BHはそう言って懐から出した拳銃の銃口を、クラウザーに向けて構える。
 そして人差し指に力を込めようとしたその瞬間だった。

そこまでだ!
 エレベータ横の階段の扉が開き、ヒューバートとギークが地下研究所に飛び込んできた。
「FBIだ! この場にいる全員を拘束する!」
 窓一つ無い地下空間に、ヒューバートの声が響いた。

 September 13 Monday at 7:20 pm

「くそ! どうなってるんだ!」
 アンディー・アンダーソンは酷く混乱し、同時に自分の身に危険が迫っている事を察した。

 ロドリゲスのいるビルにほど近いホテルの屋上に陣取って、眼下に広がるニューヨークの車や人の動きを、中継が始まるまで完全に把握していた彼のソナーに、突如乱れが生じたのだ。
 慌てて屋上から乗り出すと、通りに広がるネオンがやけに眩しく煌めいている。表通りの空中に、まるで紙吹雪のようなものが宙に踊り、道路沿いに停められた車から一斉に盗難防止ブザーが鳴り響き始めたのだ。

「俺の能力を封じるために!!」
 自身のソナー能力の弱点を突かれた事を悟ったアンダーソンは、すぐさま無線のスイッチを入れた。
「オペラ・ナイト、FBIのやつらが動き出した! 恐らくロドリゲスのところにボーダーが向かってるはずだ。阻止してくれ!」
 しかし、無線機からはザザザ…というノイズが聞こえるばかりで、オペラ・ナイトからの返事はない。

「オペラ・ナイト! 応答しろオペラ・ナイト!」
 悲鳴に近い叫び声で、何度呼びかけても無線機は無反応のままだ。既にFBIの手が伸びているのかもしれないと思ったアンダーソンは、慌てて屋上を降りようと扉に走る。
 作戦が失敗したとのだとしても、自分の能力があれば逃げ切ることは容易い。FBIの連中に追い込まれる前に、このホテルを出さえすれば……。
 乱暴に扉を開き、急いで階段を駆け降りようと足を踏み出した瞬間だった。
 コンクリートを踏みしめた足の裏に摩擦はなく、体が宙に浮いた。
 そして彼は、そのまま階下までゴロゴロと転げ落ちてしまう。
 グルグル回る視界に、まるでスケートリンクのように凍りついた階段が映る。

「「「フリーズ!」」」

 そして、彼が転げ落ちた階下の廊下には、武装したFBIの警官が銃口を向けて待ち構えていたのだった。

 September 13 Monday at 7:15 pm

「邪魔をするな!」
 漆黒の覆面の下でルンドバリ・ヘヌリが咆哮を上げ、空いた左腕で何もない場所から大きな袋を引っ張り出した。それはひと一人をスッポリ包み込む大きさ。
 その中に入っているのが誰なのかを察知した、ヒューバートとギークの足が止まる。
「もう少しで全て終わるのだ。頼む、そこで黙って見ていてくれコンラッド」
 一転、懇願するような口調でそう言うと、ヘヌリは左手で袋を抱え込むようにして、右手に構えた銃の照準をクラウザーに合わせ、引き金を引く指に力を込めようとする。

「そいつは困るぜ。リーダー」

 突然の声に、ヘヌリたちが反射的に視線を向けた先にいたのは、ロングコートを着たスキンヘッドの男だった。

 眼帯を外したその男の左目を、ヘヌリとヒューバート、そしてギークは見てしまった。

 その瞬間、

 廃工場跡の地下室だったはずの場所が、大小の岩石が転がる荒れた荒野になっていた。空は赤黒く渦を巻いた雲で覆い尽くされ、時折走る稲光がその悪夢のような色彩を照らす。
 大小の岩は、まるで不定形のアメーバのようにその形を変え、足元に広がる岩盤も不安定に蠢いている。
「……そうか。お前がクラウザーの犬だったのか。オペラ・ナイト」
 悔しげに口を開いたヘヌリに向かって、スキンヘッドの男は肩をすくめてみせた。

「これは……」
 ヒューバートとギークも、目の前の異常な光景に戸惑っていた。
 スキンヘッドの男はおそらくオペラ・ナイトなのだろう。そしてヤツは幻術系のボーダー。ならばここは研究施設なのだろうし、目の前に広がる光景は男が見せている幻覚なのだろう。
 頭ではそう分かっていても、目の前の光景に勝手に筋肉が萎縮して動くことが出来ない。視覚情報が脳をバグらせているのだ。

「悪く思わないでくれ“リーダー“ これも仕事でね」
 『リーダー』の部分のイントネーションを強めて、オペラ・ナイトはヘヌリに言った。
「貴様!」
 ヘヌリは体ごと、その銃口をスキンヘッドの男に向ける。
「おっと危ない。だが、そんな手で引き金が引けるのか? リーダー」
 言われて銃を構えた右手に視線を移すと、銃を持ったヘヌリの手が石に変わっていた。無論、それがただの幻覚であることは分かっている。
 しかし、石に変わった右手を見た脳は、彼の右手が“動かせないモノ“だと判断してしまった。

「どうしたリーダー 撃たないのか?  そこの大男も白黒も、いつでも攻撃していいんだぜ」
 もっとも、とオペラ・ナイトが嗤う。
「その足じゃ、動けないだろうけどな」
 ヘヌリ、ヒューバート、ギークの三人が足元を見ると、自分たちの足首に鎖のついた鉄輪が食い込み、鎖の先が巨大な岩に繋がっていた。
「グッ……この…」
 ヒューバートがライオンの牙をむき出しにして唸る。
 そんな彼を嗤うように、オペラ・ナイトはパンと音を立てて、両手を合わせる。
「さて、それではマスカレードを開始しよう! 三人とも存分に楽しんでくれ!」
 オペラ・グラスの声を合図に、地面で蠢いていた無数の岩が変形、荒れ果てた荒野に出現した、数十人のオペラ・ナイトが一斉に襲いかかってきた。 

 September 13 Monday at 7:18 pm

 カメラに向かい、洗脳を始めたトリッキー・ロドリゲスは、突如通りから聞こえてきた車の防犯ブザーの大合唱に狼狽した。
「くそっ! 一体何だって言うんだ! こんな雑音の中じゃぁ“声“が届かない!」
 何が起こってるんだと狂ったように叫びながら、鉄柵越しに通りを覗き込むロドリゲスの背後で突如爆音が響き、吹き飛んだ大きな塊が彼を掠めるように激しく鉄柵を揺らす。
 ロドリゲスが目を凝らすと、それはグニャリと曲がった屋上入り口のドアだった。

「トリッキー・ロドリゲス。テロ容疑で逮捕する」
 呆然と“くの字“に折れ曲がったドアを眺めていたロドリゲスの後方から、男の声が聞こえた。
 その怒気を含んだ低い声に、ロドリゲスが息を飲みながらゆっくり振り返ると、そこには、“あの虫“にソックリなアーマードスーツに身を包んだ大柄な男が立っていた。ニューヨークを拠点に活動するボーダーたちのリーダー的存在、プロフェッサーGである。

 ロドリゲスの目には、Gの背中から出るジェットエンジンの熱気が揺らす空気が、まるで彼自身の怒りのオーラを纏っているように見えた。
 チラリと通りに目をやれば、Gの登場を囃し立てるように防犯ブザーの音が鳴り響いている。
 目の前の大男に自分の能力が通じない事を悟ったロドリゲスは、その場にガックリと膝をついたのだった。

「なめるなあぁぁぁぁぁ!!」

 咆哮と共に、ヒューバートの大きな体が、百獣の王のそれに変化する。
 そして、ギークを守るように迫り来る数十体のオペラ・ナイトを鋭い爪で切り裂いていくが、まったく感じない手応えに、それらが全て幻影であることを悟る。

「くそっ!」
 かと言って、その中に本物のオペラ・ナイトが混じっている可能性を考えれば無視することは出来ず、幻影と分かっていても反撃せざるを得ない状況。しかも倒しても倒しても新たなオペラ・グラスが現れてキリがない。
 いかにレオニーズとなったヒューバートでも、こんな状況が続けばいつかは体力と集中力が切れてしまうだろう。
 オペラ・ナイトはその瞬間を狙っているのだ。

 せめて両足が自由に動かせれば……。と、レオニーズは歯噛みする。
 岩に繋がった鎖の長さは約1メートル弱。足を踏ん張って前に進もうとするが、巨大な岩はビクともしない。

「ハッハッハー!! どうしたどうした! せっかく獣人になったのだ。もっと楽しませてくれよ、ボーーーーダーーーー!
 数百体のオペラグラスが、一斉に同じ動き同じ表情で合唱する。
「くそ! 早くこのハゲを何とかしろ、ギーーーーク!!
 悲鳴にも近い叫びを上げるレオニーズ。
「ハッ! ギークは、お前の後ろでつっ立ってるじゃないか! そいつに一体何が出来るというんだ!」
 オペラ・ナイトはレオニーズに向かって高笑いしてみせる。

「お前はいつも声がでかいんだよライオンキング」

 すぐ後ろで聞こえた声に、オペラ・ナイトは高笑いが止めて振り返ろうとするが、それよりも一瞬早く。

「それ、ペタっとな」
 緊張感皆無のトボけた声と同時に、視界の半分が消えたオペラ・ナイトは慌ててその場から飛び退いた。
 何だ!? 一体何をされた!? 
 突然の事態に混乱しながらオペラ・ナイトが指先で触ると、何かプラスチックのような物が左目を覆っていた。それを掴み引き剥がそうと力を入れるが、プラスチックのようなものは、皮膚にピッタリと張り付いて剥がれない。

「あー、それ、対異能力者用の特別な瞬間接着剤でついてるから、無理に剥がそうとすると皮膚ごと持ってかれちゃうんだぜ☆イエーイ」
 オペラ・ナイトが残った右目を声の方に向けると、そこにはレオニーズの後ろにたっていたハズの白黒男が、横ピースをしていた。
「貴様! いつの間に!!」
 驚いたオペラ・ナイトが、レオニーズの方に目を向けると、そこには呆然と膝をつくレオニーズと白黒男の姿があった。再び目を戻せばそこにも白黒男の姿。この地下施設の中に、二人のギークがいたのだ。
「!?」
「どうよ、オレッチからのサプライズ! 驚いちゃった?」
 イタズラに引っかかった友人をからかうような楽しげな口調で、白黒男がオペラ・ナイトを指差して笑う。

「……そうか、そっちのギークは囮というわけか」
「せいかーーい! キミあったまぅいーねーーー!」
「ハメたつもりが、まんまとお前らの策に引っかかったわけだ」
「何、そう悲嘆することはないさ。お前がマヌケだったんじゃない。オレッチたちの方が一枚上手だっただけの話さ。オペラ・ナイト」
 そう言って、ギークは自分の頭を人差し指でつついて見せる。
「ふん、だがお前は少し考え違いをしている」
 オペラ・ナイトが尚も不敵に笑う。
「お前は俺が、ただの幻術使いだと思ったんだろうが、俺の本職はな……、
傭兵なんだよ!
 言うが早いか、オペラ・ナイトはギークに向かって飛びかかる。
 あまりの早さに対応出来ず、あっという間に馬乗りになられたギークの額に、銃口が突きつけられた。ついさっきまでヘヌリ教授が持っていた銃だ。
「恩師の銃に打ち抜かれて死ぬがいい」
 勝利を確信するオペラ・ナイト。しかしギークは、
「忘れてるかもしれないけど、お前の幻術はとっくに解けてるんだぜ
と、銃口を額に突きつけられながらも余裕の声でそう言った。
 白黒男の言葉の意味をオペラ・ナイトが理解した瞬間、研究室を揺るがす咆哮と共に、ギークの上からオペラ・ナイトが消えた。

「おーいレオニーズ、ムカつくのは分かるけど、死なない程度にしておけよ」
 オペラ・ナイトの悲鳴が響く中そう言うと、ギークは膝をついたままの元恩師に体を向けた。

To be continued

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