ジェネシス_ノーマル

GEEK-16

ぷらすです。
GEEK-16アップですよー!
いよいよ、決戦の日が始まりましたー。
あと、2~3話で終了の予定ですので、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです(*´∀`*)ノ

 ブルックリンの端にある湾岸の街レッドフック。そこに立つ平屋建ての廃工場の中にギークはいた。
 人目につかぬよう、抜き足差し足何本もあるコンクリート柱の影に身を潜めながら中の様子を伺うと、薄暗くいかにも廃工場といった寂れた風情の砂や埃の積もった工場内の床には、しかし幾つもの足跡がついていた。
 その足跡を辿って工場の奥に入ると、一台のエレベータ前にたどり着いた。
 廃工場らしくドア部分の塗装は剥がれ、むき出しになった鉄部分はサビが浮いているが、人のいない廃工場のはずなのにエレベータの電源は生きている。
「ディテールの作り込みが甘すぎる。まさか罠じゃないだろうな……」
『十分注意しろよ』
 ボソボソと独り言を言いながら、エレベータ周りをチェックするギークにハマーで待機しているヒューバートが応える。

 今のところ工場内外には一台の防犯カメラも見当たらないが、“潜入捜査“である以上、まさかエレベータで移動するわけにはいかない。
 上を見上げてみるが、特に怪しい細工は見つからないところを見ると、外観通り工場は平屋建て。地下に『スポンサー』の研究室があると見た彼は、万が一のため何処かにあるだろう、地下への非常階段を探す。

 やがて暗闇で目を凝らしてみると、ギークはエレベータの近くに小さな扉のような物を見つけた。軽く押してみると、扉は簡単に開き、その奥には点々とライトが灯った地下へと伸びる古びた階段がある。
 足音を出さないよう気をつけながら階段を下りていくと、突き当たりには人一人が通れるほどの扉。おそらくは研究室に通じているのだろう。
「扉を開けるとそこには機関銃を構えた怖い奴らが何人も……なんて事がないことを祈る」
 そう言って、壁際に背をつけドアノブに触れると鍵が掛かっていないのか、簡単に回ってロックが外れ、重みでドアが自然に開く。

 バクつく心臓を宥めるように一度だけ大きく深呼吸をすると、ギークは思い切って開いたドアから中へ飛び込んだ。

 すると、ギークの目に飛び込んできたのは見覚えのある装置と、そのそばに転がる幾つもの死体の山だった。
 白衣に赤いシミを滲ませた男女の死体が全部で十体。
 そこから離れた場所に、アーミースーツと防弾チョッキに身を包んだ厳つい男の死体が十五体。合わせて二十五体の死体がコンクリートの床に無造作に転がっている。

 そんな恐ろしい光景を前に呆然と立ち尽くすギークだったが、一つの死体に目をやると、ハッと夢から覚めたように手前に転がる白衣の死体に駆け寄った。
「……サマンサ」
 白衣を着た女性の死体の顔には見覚えがあった。
 研究室の同僚として何年も一緒に装置の設計に携わった仲間だった。
 美人ではないが、いつも仲間を気遣い冗談が好きで、チームのムードメーカーだった。

「まさか、これも教授が……?」
 ギークが呟いた瞬間だった。
『コンラッド、工場に男が数人入っていった! すぐに脱出しろ!』
 耳にはめたイヤホンから、ヒューバートの声が聞こえた。
 ハッと顔を上げると、エレベータの階数表示のインジケーターが動いている。
 ギークは慌てて非常階段に走ると、扉を閉めて壁際に背中をつける。
 エレベータの開く音がして、数人分の足音や会話が聞こえてきた。
「おいおい、皆殺しかよ。『スポンサー』も非道いねー」
「全くだ。今まで一生懸命言われた通りに働いてただけだろうに、酷いことしやがる」
「けど、こんだけの人数を一体誰が殺ったんだ? 傭兵みたいなのもいるじゃねえか」
「ん? この薬莢……、この傭兵の銃に使うのと同じじゃねえか?」
「なんだ、じゃぁ白衣のヤツらを殺したのは、この傭兵どもか」
「じゃぁ、傭兵は誰が殺ったんだよ」
「さぁな、知らねえし知る必要もねえさ。さっさと死体を運び出して“掃除“を済ましちまおう」
 そこまで聞いてから、ギークはヒューバートの待つ車へテレポートした。

 走り出したハマーH2の助手席で、ギークは白黒のマスクを無言で脱いでコンラッドに戻ると深い溜息を吐いた。
「奴らの会話は聞こえたか? ヒューバート」
「ああ、聞こえていた。どうやら奴らは金で雇われた“プロの掃除屋“のようだな。今、車のナンバーをチームが照会中だ。じき奴らの正体もヤサも分かるだろう」
「殺らせたのは『スポンサー』のクラウザーで間違いないみたいけど、殺ったのは一体誰だろうな」
 コンラッドの問いに、ヒューバートは無言のまま車を走らせたが、やがてボソリと口を開いた。
「傭兵らしき男たちは、白衣の連中を撃ったあとにお互いを撃った。だが、白衣の連中だけならまだしも、おそらくは仲間同士殺しあえなんて命令には従わんだろうな」
「クラウザーに飼われてるゾイドがいるってことかな」
 ヒューバートの言葉を引き取ってそう言うと、コンラッドは眉根を寄せて硬い助手席に身を沈めた。

 September 13 Monday at 6:30 pm

 「あと、30分か……」

 ヘルメット内蔵のモバイルで時間を確認したGは、モニターに映し出された合衆国東部で最も人気のあるニュース専門のケーブルテレビ、CNAの番組を眺めながらトラックの荷台で独りごちる。

 トラックの荷台側面には大手精肉店のロゴが書かれているが、FBIニューヨーク支局が所有するダミートラックだ。
 荷台の中には最新の通信機器やコンピュータ、モニターなどが所狭しと置かれ、数人のオペレーターがモニターをチェックしている。
 CNAスタジオの入ったビルの中には、それぞれ変装したボーダーや局員たちが要所要所に配置され、その様子はFBIによってハッキングされた防犯カメラからリアルタイムでトラックに送られていた。

 CNAで最も視聴率の高いニュース番組『イブニング・トゥディ』の生放送開始は午後七時。あと三十分を切っているが、ゾイドギャング団「ファイヤークラッカー」幹部、トリッキー・ロドリゲスは未だ姿を現していない。
 幹部の一人 MA3こと、マリーナ・アンダーソン三世を逮捕した今、残る幹部は三名。
 “邪神の声“を使い相手を洗脳するトリッキー・ロドリゲス。
 広範囲にわたるソナー能力を持つアンディー・アンダーソン。
 “邪眼“の持ち主で、相手に幻覚を見せるオペラ・ナイト。

 MA3の供述から、ニューヨーク全域で最も高い視聴率を得、またネット配信もしている『イブニング・トゥディ』の生放送中、カメラを通してその視聴者を洗脳、ゾイド化しようというテロをファイヤークラッカーが画策しているという情報を得たFBIニューヨーク支部 ゾイド犯罪対策チーム、通称Z・C・SとプロフェッサーGをリーダーとするボーダーたちは、ファイヤークラッカーの狙いを阻止し三人の幹部を逮捕するべく、昨晩からこうして張り込みを続けているのだ。

 そして昨日、大手企業体『スポンサー』従業員からの内部告発によって、場所が判明した秘密研究所に潜入したギークは、その危険性から政府が研究を封印した物質転送装置(テレポート装置)と、研究員と警備員の死体を発見し、それが『スポンサー』CEO デイヴ・クラウザーの指示によって行われた事実を掴んだ。
 さらに、物質転送装置と研究所、研究データの破壊とクラウザーを始めとした関係者抹殺のため、ファイヤークラッカーリーダー BHが、誘拐したZCSのセシリア・ローズと共に、今日そこに現れる事も分かっている。

 そこで、Gをリーダーとしたテロ対策チームと、ギーク、ヒューバートを中心とした『スポンサー』及びBH対策チームの二班に分かれ行動することが、昨日深夜の打ち合わせで決まり、メンバーそれぞれが徹夜で準備をしていたのだ。

 Gが再び時計を見ると、時刻はもうすぐ午後七時になろうとしている。
 しかし、トリッキー・ロドリゲスは一向に姿を現さない。
(……気づかれたか?)
 敵にはソナー能力を持つアンディー・アンダーソンがいる。
 彼の能力を持ってすれば、ニューヨーク中の人や車の動きを察知することも出来るだろう。ならば我々の動きを察知し、急遽作戦を変えた可能性もある。
 Gがそんな事を考えているうちに時計の針は午後7時を指し、『イブニング・トゥディ』の生放送が始まった。

 September 13 Monday at 6:30 pm

 ブルックリンの端にある湾岸の街レッドフック。そこに立つ平屋建ての廃工場と見せかけた『スポンサー』の秘密研究施設の前に、一台の黒いリムジンが停るのを、ギークとコンラッドは近くの物陰から伺っていた。
 先に車から降りた運転手が後部座席のドアを開けると、高級そうなスーツを着た二人の男が降りてくる。
 『スポンサー』CEOのデイヴ・クラウザーと、親会社であるインターナショナル・レジェステックス・カンパニー、通称I・L・B CEOのロジャー・マッケンジーである。

「どうやら、あのメガネの男の供述はガセではなかったらしい」
 ヒューバートが低い声で呟いた。メガネの男とは『スポンサー』の社員で、今回の内部告発者ジミー・ミルンズのことだ。

 廃工場跡から出てきた数人の武装した男たちが、スーツの男たちを出迎え中に案内する。
 後に残されたのは、リムジンと運転手。
 ヒューバートとギークがそのまま様子を見ていると、湾岸の方から現れた釣り人が、外でタバコを吸っていた運転手に近づいて話しかける。
 運転手が釣り人に気を取られていると、真っ黒な全身スーツに身を包んだ男たち数人が現れ、あっという間に運転手を連れ去っていった。

「よし、作戦開始だ」
 『倉庫周辺クリア』というチームメンバーからの通信を受けた、ヒューバートの言葉にギークが頷き、二人は物陰から飛び出すと男たちが消えた廃工場へと入っていった。 

 September 13 Monday at 7:15 pm

 いつも通り『イブニング・トゥデイ』が開始され、最初のニュースが終わると、キャスターが「それでは次のトピックは現場からの中継です」と言った。
 画面が切り替わると、ニューヨークの夜景をバックに一人の男が映し出される。上下半袖膝丈のスパッツで身を固めた長身の男は、ライトの反射で虹色に輝くサングラスをかけていた。

「トリッキー・ロドリゲス!」
 Gは思わずモニターに向かって叫んだ。

 そう、ロドリゲスは何も直接スタジオにくる必要などなかったのだ。『イブニング・トゥディ』責任者のマイケル・スペンサーに暗示をかけたロドリゲスは、彼にこの中継を指示させていたのだ。

「やぁ、僕の名前はトリッキー・ロドリゲス。今夜は『イブニング・トゥデイ』をご覧の皆さんに、とっておきのプレゼントがあるよ」
 まるで、サーカスのピエロのような戯た口調でロドリゲスが話を始める。

「プランBだ、ツイッティア!」

 Gがマイクに向かってその名を呼んだ瞬間、トラックのモニターからはサングラスの男が消え、代わりに猫とネズミがケンカするアニメが映し出された。それも初代、映画館で上映されていたバージョンだ。
 そしてその映像は、『イブニング・トゥディ』をテレビ・PC・スマホなどで観ている全視聴者のモニターに流されている。
 同時に、カトゥーンアニメのキャラクターのようなヒヨコが、ポンっという緊張感のない音と共に現れ、
「探知成功! 案内するよ!」
と叫んだ。
「よし行くぞツクネ!」
 荷台から降り立ったGの背中でジェットが甲高い音を上げたかと思うと、茶色い昆虫スーツの男は、撃ち出された弾丸の様なスピードで通りに飛び出した。
 そんな彼を祝福するかのように、通りに駐車中の車からけたたましい盗難防止ブザーが鳴り響き、同時に立ち並ぶビルの屋上から一斉に、銀色の紙吹雪のような破片が発射される。
 チャフと呼ばれるレーダーを妨害するアルミ箔だ。

『それでソナー使いの能力は封じることが出来ると思う』
 超高速で行き交う車を縫う様に進みながら、プロフェッサーはコンラッドの言葉を思い出す。
 ファイヤークラッカーのテロ計画を最も確実に阻止する方法、それは彼らの行動を止めるのではなく、彼らがテロに使用する“媒体“を止めてしまうことだった。その上で、実際にロドリゲスが現場にやってくるプランA、離れた場所から中継するプランBという二つの作戦を、コンラッドは提案したのだ。

 そして、ロドリゲスを確実に捉えるには、アンダーソンの能力を封じる必要がある。
 ソナーの仕組みは超音波を発信し、その反射波を捉えることで物体の位置や大きさを特定する。そこでコンラッドは、チャフと音でアンダーソンの能力を封じる作戦を立てたのだ。
 最も、全てはツイッティアありきの作戦ではあったが。

「200メートル先、左側にあるホテルの屋上だよ!」
 甲高いツクネの声で思考から引き戻されるたGは、言われたホテルに向かってスピードを上げる。
「では私もそろそろ、いいところを見せるとしよう」
 Gはヘルメットの中で呟くと、ニヤリと笑った。 

To be continued

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