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【読書日記】4/21 真に人を理解するとは (1049字)

『ニーチェ みずからの時代と闘うもの』は、人智学やシュタイナー教育の創始者であるルドルフ・シュタイナーが、ドイツの哲学者ニーチェを論じた本です。ニーチェの哲学の本質が掴めると同時に、一人の人間を全人的に理解する大切さがわかる本です。

ご存知のようにニーチェは晩年精神を病み、苦しい状態のままこの世を去ります。世間的には狂人と考えられていたわけです。でもシュタイナーは、そんな人物の中にある霊性に気づいて、深い敬意を払っています。シュタイナーは1回だけニーチェに会ったことがあるそうです。本書の中にそのことが感銘深く描かれています。

「人類の抱える大切な問題を一つひとつ誠実に取り上げて思索を重ねている人物に向き合っている」と感じたそうです(166ページ)。ニーチェに対するこの言葉はシュタイナーにも当てはまります。シュタイナーは時代に流されずに、主体的に生きようとした人でした。ニーチェのことを自分の先達とみなしていたのでしょう。

シュタイナーは代表的な著作の一つ『自由の哲学』の中で、世間が押し付けてくるものではなく、自分の内面の意思に従って行動しなければならないと熱っぽく説いていますが、ニーチェこそはそれを傷つきながら実行した人物でした。ニーチェのこの生き方は、有名な「神は死んだ」によく現れています。

シュタイナーは、ニーチェにひたすら没頭したと書いています。その態度は本書の端々に感じられます。客観的に分析するのではなく、ニーチェの思想を一つ一つ血肉としながら、この哲学者と対話するのです。そして、ニーチェはこの世の人生を愛した人物だった結論を出します。平凡かもしれませんが、ニーチェの哲学の明るさはここから来るのだと思います。人智学は神秘主義的なところがあるのですが、あくまでこの世に軸足を置くことを重視しており、ニーチェの哲学と重なります。

シュタイナーは霊的なものが見える人でした。シュタイナーが書いている霊的なことが、真実かどうかは分かりません。あまりにも突拍子もないものだと感じることもあります。でも人間を機械のようなものとみなす現在の唯物論よりは、はるかにましなものの見方です。

本書は、シュタイナーのそんな哲学が分かりやすく伝わってくる内容です。当時狂人とみなされていたニーチェも、シュタイナーのような人物がいることで救われたでしょう。人を霊的な存在とみなすことは、  全人的にみなすと言い換えることもできます。このような人間の把握の仕方から、シュタイナー教育も生まれたのだと思います。


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