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【読書感想文】お坊さんたちの漢詩に心が洗われる (1200字)

『五山文学集』は岩波書店の古典文学大系の一冊です。私は古典文学大系の本を全部読もうと思っています。挫折する可能性大ですが、少しずつ読んでいます。『東海道中膝栗毛』のように、楽しく読める作品もあります。

五山文学とは、鎌倉時代から室町時代に禅のお坊さんたちが書いた漢詩のことです。この本を読むまで、そんな作品が残っている事さえ知らなかったので、新鮮な気持ちで読めました。

この本には絶海中津の漢詩を中心に多くの僧侶たちの作品が収められています。俗世間を離れて、求道に生きる僧侶たちの心境を美しく描いた作品を読んでいると、心が洗われます。

中世の日本は戦乱が続いた時代ですが、そんな中でも芸術に打ち込んだ人たちがいたことを知って、励まされました。戦乱から逃避するというより、戦乱に向き合うために詩を作り続けたのかもしれません。

五言絶句のように漢詩は形式が決まっており、その枠の中で作品を作らなければなりません。短歌や俳句に似ていますが、さらに難しいです。韻を踏まないといけないので、言葉のリズムを考慮に入れる必要があります。

馬鹿な私は、以前漢詩を作ろうしたことがあります。好きなので作ってみたいと思いました。でも1時間考えても、まったく作れません。漢詩は冗長な修辞は許されず、研ぎ澄まされた表現が必要になるので、漢語の性質を深く理解しないと作れないと感じました。

友だちが訪ねてきて、喜びを感じたという詩が意外に多いです。孤独に修行する人たちには、知り合いの訪問が嬉しかったに違いありません。特に気に入っている詩を二つ紹介します。

僧を訪うて寺を尋ね去き、
鶴に随つて舟に棹して回る
来往俱に瀟洒
寧んぞ湖上の梅に慚ぢんや

これは想像上の情景を詠んだものです。鶴と梅の組み合わせが美しいです。僧侶としての自分の生き方は、湖の上の凛とした梅にも恥じることはない、という気概が表現されているのではと思いました。絶海中津による一編。

千里の佳期、一夕同じ、
花辺に席を開きて香風に座す。
明朝花落ちて客の還り去らば、
誰に縁つてか落紅を掃かん。

これは上記に書いた友人が訪ねて来てくれた喜びを書いたもの。これも絶海による作品です。散った花を誰が掃くのかという最後の部分の寂寥感が心に沁みます。

幽花は雨の頻りに催すことを受けず、
羞を含んで白夜に開くことを怕るべし。
伝語す 春を尋ねて園を買ふ者に、
更に燭を点じて夜深けて来るべし。

これは雨が降っても桜が開花しないことを詠んだ詩です。恥ずかしがって、昼間には開かないので、夜に灯をつけて来てごらんという洒落のめした内容になっています。桜の花が待ち遠しいので、書いてみました。

異国で生まれた詩の形を身につけて、それを自然に表現した昔の日本人の力量に頭が下がります。いつか漢詩を作ってみたいのですが、多分逆立ちして無理でしょう。これからは中国の漢詩だけではなく、日本の漢詩も読んでいきたいです。




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