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【小説】夢の中の林檎(1018字)

妻と冷戦状態が続いている。私が悪いのだ。会社で上司に叱られた腹いせに、彼女を怒鳴りつけてしまった。私の好きな麻婆豆腐を作って、残業の私を待っていてくれたのに。謝ったのだが、口をきいてくれない。

家に帰るとキッチンにメモ書きがあり、ドリアを温めて食べてと書いてあった。食欲がないので半分程食べて風呂をすませ、歯を磨いて寝室に入った。妻は壁の方を向いて眠っている。頑なな背中に彼女の怒りが感じられた。

ため息をついて、ベッドに横になった。疲れているせいかすぐに眠りに落ち、夢を見た。故郷の公園に行く道を歩いている。子供の時に何度も通った所だ。遠くに見える丘が輝いている。遠足で登ったことのある眺めの良い場所だった。懐かしさで胸がいっぱいになった。

「これあげる」声がしたので振り向くと、小さな女の子が林檎を差し出している。真っ赤に熟れて美味しそうな林檎だった。女の子の頬っぺたも赤くつやつやしていて、林檎にそっくりだ。

「ありがとう」自然に声が出て、林檎を受け取った。「食べていいの?」とたずねると、女の子がうなづいたので、勢いよく林檎をかじった。甘味の中に程よい酸味を感じる。じっと見つめる女の子の視線に気づいたので、

「君も食べる?」と半分ほど残っている林檎を差し出した。食べかけをあげるのは申し訳ない気がしたが、全部自分で食べるのはもっと申し訳ないと思った。

「ありがと」女の子がそういったときに、目を覚ました。枕もとの時計を見ると、5時半。そろそろ起きる時間だ。ふと妻の方を見ると、あおむけになって寝ていた。頬に赤みがさしていて、夢の中で見た林檎とそっくりだった。

無意識のうちに手を伸ばし、そっと彼女の頬を撫でた。妻が目を覚ます。ぎょっとして、しどろもどろになりながら、「起こしてごめん」と言った。彼女はじっとこちらを見つめている。

ばつが悪くなってしまい、「ほっぺたが赤くて、可愛かったんだ」と言ってしまった。妻はふふふと笑い出し、「馬鹿ね~」とつぶやく。

どういうわけか胸の中に温かいものが広がり、体の力が抜けた。「朝ごはんの支度するから」明るい声で彼女はそう言った。

いつも読んでくださり、有難うございます。短歌や詩を書くことが多かったのですが、最近は小説を書くことにも、はまってきました。夢の世界と現実の接点を書く物語は面白いことに気づき、シリーズ化して書いてみようと思っています。いずれマガジンにもまとめます。よろしければ、お読みください。



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