【1日1文献】認知症の人が社会参加をするための作業療法─「想い」「役割」「先入観」に焦点を当てて─#認知症#社会参加#役割

参考文献:認知症の人が社会参加をするための作業療法
─「想い」「役割」「先入観」に焦点を当てて─
筆者:竹原 敦
発行日:2022年
掲載元:作業療法 41 巻 (2022) 2 号
検索方法:インターネット
キーワード:(認知症の人の想い), (役割獲得モデル), (役割チェックリスト), 人間作業モデル, (偏見)

【抄録】
・認知症の人が社会参加をするための作業療法について,想い,役割,先入観という視点から考察した.
・認知症の人の言動に内在する本人の想いを受け止めること,役割獲得モデルによって段階に応じた役割獲得を支援すること,認知症の人に対する先入観,レッテル,スティグマ,偏見を払拭し,認知症の人の多様な可能性を示すことによって,多くの認知症の人が希望を持って社会参加することが可能になると思われる.
・作業療法士は,認知症の人を受け入れる社会の素地を創ること,すなわち,認知症の人が安心して生活できる社会に変えることが必要だと考えている

メモ
・認知症は,米国精神医学会の診断基準第 5 版(The Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:DSM-5)1)によると,せん妄,うつおよび統合失調症を除外したうえで、下記認知領域のなかで1つ以上の低下があって,手段的日常生活の自立を 阻害する場合に診断される.
①複雑性注意(complex attention)
② 実 行 機 能(executive function)
③ 学習および記憶(learning and memory)
④言語 (language)
⑤ 知 覚 - 運 動(perceptual-motor)
⑥社会的認知(social cognition)

・一般的に認知症は,次のような 4 つの類型ごとに症 状が異なる.
・血管性認知症は,記憶低下がそれほど目立たない場合もあるが,複雑性注意および実行機能の 低下が顕著で,病前の性格が温存されることが多い. また,同時に片麻痺などの運動障害を呈する場合もあ る.
・Alzheimer 型認知症は,診断基準の認知領域における記憶障害が必ず出現し,重度化すると言語機能が低下することもある.しかし,手続き記憶は比較的 保持されるため,昔から行っていたことは実行可能な 場合が多い.
・前頭側頭型認知症は,脱抑制(我が道を行く)がある.また,共感が欠如したり,食べ物への こだわりを持つことがある.
・Lewy 小体型認知症は, ありありとした幻視があり,歩行はパーキンソン様で, レム睡眠行動障害が認められる場合もある.

・我が国の認知症の人は,2025 年に 700 万人以上に なるといわれている2).さらに,高齢になるほど認知 症になる割合が増加し,85 歳以上の人の 55. 5%が認 知症高齢者という試算もある3).
・こうした状況に対し,政府は 2015 年に認知症施策 総合戦略を含む新オレンジプラン4)を,2019 年6 月に は基本方針として認知症施策推進大綱 5)をとりまとめた.
・これは,認知症になっても住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けられる「共生」を目指し,通いの場の拡 大など「予防」の取組みを政府一丸となって進めてゆくものである.
・ここで示されている「共生」とは,認知症の人が尊厳と希望を持って認知症とともに生きる, また,認知症があってもなくても同じ社会で共に生きるということであり,「予防」とは,「認知症になるの を遅らせる」「認知症になっても進行を緩やかにする」 という意味で,いわゆる認知症にならないようにするという一次予防とは異なる.
・つまり,認知症になることは通常のことで,共に地域社会の中で生活していこう,という声明だと捉える ことができると思う.それでは,認知症の人が自分らしく社会参加をするためには,作業療法としてはどのような点に焦点を当てるとよいのだろうか.本論は, 認知症の人の想い,役割獲得,先入観という 3 つの視 点から考察する.

・認知症の人が社会参加することを考える際に,最初に社会参加とはどのようなことを指すのかを考える必要がある.

・Levasseur ら6)は,他者との相互関係を伴う活動に参加することと定義づけ,以下のように参加の階層性を示した
レベル 1:他者と つながる準備段階として,一人で行っている日常の活 動(ADL,IADL,一人でのテレビ視聴等)
レベル 2: 直接的な接触はないが,他者が周囲にいる活動(近隣 の散歩等)
レベル 3:他者との社会的接触はあるが, 特定の活動を一緒にしているわけではない(支払いの ための店員との接触等)
レベル 4:共通の目標のため, 他者と共同して活動する(テニスなど,大半のレクリ エーション活動)
レベル 5:特定の個人や集団を助 ける活動(介護・育児,ボランティア等)
レベル 6: より幅広い社会に貢献する市民活動(政治組織への参 加等)

・岡本は,社会参加を社会活動と捉え,家族や親族を超えた他者との 対人活動(友人との食事,世間話),団体や組織に参 加して行う活動(自治会活動,ボランティア活動), 地域における活動の場への参加(公園,図書館,公民 館)と定義づけた.

・また,生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health:ICF)9)では以下を参加と定義づけている
①学習と知識の応用(learning and applying knowledge)
②一般的な課題と要求 (general tasks and demands)
③コミュニケーショ ン(communication)
④運動・移動(mobility)
⑤ セ ル フ ケ ア(self-care)
⑥ 家 庭 生 活(domestic life)
⑦ 対 人 関 係(interpersonal interactions and relationships),
⑧ 主 要 な 生 活 領 域(major life areas)
⑨コミュニティライフ・社会生活・市民生活 (community, social and civic life).

・社会参加の内容について,橋本ら10),小林 11)は,
① 個人的活動(近所づきあい,近所での買い物,デパー ト,近くの友人訪問,遠くの友人訪問,国内旅行,海 外旅行,お寺参り,スポーツ,レクリエーション)
②学習的活動(老人学級,カルチャーセンター,市民 講座,シルバー人材センター)
③社会的活動(地域 行事,町内会活動,老人会活動,趣味の会の活動,奉 仕活動,特技などの伝承活動)
④仕事
と具体的に示している.

・また内閣府は,高齢社会白書(内閣 府)12)で以下を社会参加としている.
①就労
②ボランティア活動
③地域社会活動(町内会,地域行事など)
④趣味やおけいこ事

・こうした定義や内容によると,社会参加は総じていえば【社会活動を通じた地域社会との関わり】と捉えることができる.

・認知症の人がどのようなことをしたいと考えているのか,どのような文脈のなかで人生を歩んできたか, すなわち,作業療法士は認知症の人の想いを評価すべ きであると思われる.
・想いの評価をするためには,認知症の人の行動の理由を本人に聞く,本人がうまく答えられないことは家族に聞く,そしてそれらの行動と想いを本人,家族,関連する人にとっての共通言語と して翻訳し,解釈することが必要だと考えている.
・翻訳を助けるためには,本人が昔興味があったことは何 か,やる気がでることは何か,かつての役割は何か, これまでの生活習慣はどのようなものかを事前に把握 しておくことが必要と思われる.
・そうした認知症にな る前の,いわゆる作業歴から認知症の人の想いを推論 することが大切と思われる.

参考URL:
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jotr/41/2/41_166/_pdf/-char/ja

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