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大切な人を失うこと(2) 突然の別れ②

彼女の遺体は警察署に送られ、そこで検視が行われた。もっとも、死因は明らかな睡眠導入剤の過剰摂取によるものと結論付けられたため、司法解剖は行われなかった。

警察署にて、初めて彼女の両親や親戚とお会いすることとなった。
プライベートな事柄であり、複雑な事情も絡んでいるので詳細は割愛するが、彼女は1年半ほど前に、半ば追い出されるような形でスーツケース一つで実家を出た後、なんとか職を探して一人で生計を立てつつ、通信制の大学で法律を勉強をしていた。

彼女は、自身が直接両親と連絡を取ることを拒絶し、両親との連絡は、親戚の叔母を通して行われていたそうだ。
また、彼女は、家を追い出されてから仕事と家が見つかるまでの数ヶ月間、叔母と祖母の家にお世話になっていたこともあった。
そのような事情があり、叔母が彼女の保護者のような役割を担っていた。そこで、私と彼女は、彼女の両親よりも先に叔母と祖母にご挨拶に伺おうと話していた。そして、双方で日程を調整した結果、5月3日のお昼に4人でお顔合わせをすることになった。

しかし、4人でお会いすることは叶わなかった。

彼女はここのところ、精神面での大きな不調を抱えていた。これといった確実な原因は不明だが、家族関係の問題や、仕事の忙しさ故に勉強との両立がうまく行かないことへの不安など、いろいろなことが少しずつ積み重なって、目に見える不調として出てきたのだろうと思う。

特に3月に入ってからは、彼女はしばしば家族関係の悪夢を見て魘されたり、目が覚めたりしていた。そして夜中や明け方に目が覚めたときにはひどく落ち込み、3月中旬ごろからは時折、「死にたい」「何もかも疲れた」といった内容のLINEを私に送ったり、未遂には終わったものの、首つりを試みたりすることもあった。

そんな彼女のことがとても心配になり、しばらく私の家で仕事をしてもらうことにした。幸い彼女は、3月から週5日勤務のうち、4日はリモートワークができる仕事に転職していたため、私の家でリモートワークをすることで、少しでも一緒にいる時間を増やし、彼女を安心させてあげられたらいいなと思ったからである。
また、4月に入り、私が通っているメンタルクリニックにも連れて行った。彼女は、私が飲んでいる睡眠導入剤では到底寝付けないぐらい睡眠が困難な状況だっため、かなり強い睡眠導入剤を数種類処方されていた。

そして、5月2日の夜、ふたりで各自の睡眠導入剤を飲んだ後、彼女の入眠を見届けてから私も眠りについた。

しかし、私が次に目覚めた時には、息をせず少し冷たくなっている彼女が横にいた。

状況を振り返ると、私が寝ている間に彼女は一人目を覚まして、処方されていた数週間分の睡眠導入剤のほとんどを一度に飲んでしまい、再び私の隣に戻って眠りについたまま亡くなったようだった。

もっとも、彼女は死を望んで薬を過剰摂取したわけではないと確信している。

なぜならば、彼女は翌日に叔母たちと会うことをとても楽しみにしていて、2日も、私の家で仲良く過ごしながら翌日の電車の時刻を一緒に調べたり、就寝前には、彼女からスタディプラスという学習補助アプリを勧められ、「明日から一緒に法律の勉強を頑張ろうね」と話したりした直後の出来事であったからである。
また、以前彼女が自死を仄めかすLINEを送ってきたときには、遺書に加えてキャッシュカードの番号すら書き残そうとしていたから、そんな彼女の性格からしても、私に何もメッセージを残さずして自死を選ぶことは考えられなかった。

おそらく、彼女は一度入眠したのちに悪夢によって目が覚め、鬱々とした気持ちと朦朧とした意識の中で、まるで夢遊病かのように睡眠導入剤を過剰摂取してしまったのではないだろうか。

結果的に警察では自殺として扱われたものの、このようなことから、私としては、本人も思いがけず薬を飲み過ぎてしまったことによる事故死であると考えている。

続く

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