SSワードウルフ4-2「あこがれ」

タイトル「あこがれ」 

作者:牡蠣の種

声が出なくなった
文字もかけない
私はまた
狭い頭部に一人
閉じ込められてしまったようだ

誰にも届かない
誰も救い上げてはくれない
それでもいい
今は浸っていたい
ぷかぷか漂う私の黄色

紙に浮かんだ数字が見える
五桁の価値は数日の命
私にはもう必要がない
何枚あったって
満たされたくはない

紙も声も無価値だ
私の価値はないというわけだ
価値には価値がない
ゼロをゼロで割ることができるか
つまり殻の中では無理なのだ

さあ夜空に私を釣り上げて
殻は静かに割っておくから
黙って黒く溶けていく
あっちは冷えたディスコホール
いやに響いたクラップ音

そこはまだ湯船だった
ざばぁざばぁと空気に触れる
裸の私は弱くない
思っているより孤独じゃない
それがちょっとさびしいのだ

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