球体恐怖とミソジニー

中身が詰まっていて丸みを帯びた,弾力のある立体的な身体は母以外であってはならない,そして母なるものはすべて家の中に閉じ込めなくてはならない,無賃金で働かせることで自尊心を削がなくてはならない,苗字を剥ぎ取らなくてはならない,外に出るという発想が浮かばなくなるほどに序列を叩き込まなければならない

薄っぺらい身体に重すぎる頭をぐらぐらと載せた適齢期の若い女たちは従順なこどものようで好ましいが油断してはならない,タイトスカートの制服を履かせて妊娠していないことを確かめなければならない,妊娠していなければ若い女たちは常に我々のものであり,誰でも手に入れられる潜在的な可能性がある,できるだけよいものを安く買い叩くのがお得だ,美しければたいしたものではないといい,知性を持っていれば男はそのようなものには惹かれないといい,努力家であれば楽にしてあげるよと囁けばよい,それなりのよいものをおとなしい状態で手に入れられるだろう

我々は安心できるものに欲情する,ポルノに登場する若い女たちは無条件に消費できる,熟女と呼ばれる女たちは他人の妻であることが前提とされていて,若い女と熟女の中間は存在しない,他人の妻は他人の家の中にいてその管理下に生きている,母であればなおさら我々に刃向かうことはない,こどもとは未来への人質だ,世界は転覆しないのだから安心して凌辱してよい,そして欲情されることこそが女の価値だ,そうでないとしたらなぜ女たちは機能のなにひとつない愚かなレースがひらひらとついた服を着て着飾るのか,いずれにしても金さえあればどうとでもなる

妻でもなく母でもなく若い女でもない女が堂々と胸を張ってあるく姿ほど目障りなものはない,暇を持て余してヨガやジムで鍛えあげた身体も目障りだ,スモッグのようなゆったりとした服で身体を隠し,妻か母か未婚の女かわからないような格好も目障りだ,あの手の女たちに気をきかせて冗談でも言おうものなら軽蔑した目でこちらをみるだけで何も言わない,妖怪か獣のようだ,産みもせず家にも縛られない,欲情を拒む女たちへの罰則はもちろんそのような生に価値がないと喧伝することだ,そして稼げないようにすることだ,社会もそう望んでいるからそのような制度になっているのだ,生物として間違っている,社会を不安にさせる魔女のようなものだ,生物学的に間違っている,科学的に間違っている,感情的で非論理的でいかにも女だ,だから女とは議論ができない

どこにも属さない女,女が主体として存在することは社会を撹乱させる,そのようなものを許してはならない,社会のために,国家のために,未熟な若い女は我々の手の届くところで我々を愉しませている限り猶予を与える,丸みを帯びた身体を持ったそれは母以外であってはならない,母なるものは家に縛られていないとろくなことはない,平和な日常を守らなくてはならない

などと彼らはいちいち考えてはいない,それが普通なので,なにかを言うときにはその結論部分だけを投げつける,なぜならそのほうが要求が通りやすいからだ,そして言語化されなかった,臆病な球体恐怖を覆い隠すための暴力が空気や気配として世界を包み,その暴力は定言命法と科学と経済と共感を味方につけて,円環する地獄を編み上げてゆく,そのような世界を好まなかった者も,そこから逸脱したものを疎外し攻撃する遊びに興じはじめる,女の敵は女というのは構造の末端にすぎないが,考えることには負荷がかかるので流されて愉しく生きる方がよい,悪口を言えばよく眠れる,なにより自分が利益を得ることを手放したくないというありきたりの岸辺へ流されてゆく,繰り返し同じ景色をみているようで,濁った液体が滲出しては全体をさらに濁らせていくのをみている,人間はかなしいものだ,女として生まれた時点で人間ではないのだから,人間として生きたいのであればもう生きないべきだ,生まれないことこそが幸福だった,世界を愛する義理がないのでせめて愛するこじつけの理由を考えながら,いったいどこまで歩けばよいのだろうと思う,そして悪いことに,わたしはいまだに比較的若い女である

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