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『能力者温泉 チカラの湯』第6話:桜ノ宮トキエのご興味

これまでのあらすじ

ユーリ・サラマンダー・シャルロッテ氏(とにかくなんかめっちゃすごい人)に、透視の方法を教えていただいております。

登場人物

森ノ宮マホミ

ループ魔法学園1年生。空を飛ぶのは苦手だが物質変換系の魔法は得意。甘党。トールのノートを拾った。

桜ノ宮トキエ

ループ魔法学園1年生。時間系の能力者。永遠が欲しい的なことを考えている。辛党。

天王寺トール

ヘタレ浪人生。マホミに一目惚れし、ループ魔法学園を志望する。ノートを落とした。

ユーリ・サラマンダー・シャルロッテ(U.S.C)

超人気マジシャン。性別不明。エスパー系の能力を複数もっている。挨拶は朝でも昼でも「こんばんは」

ここはなんの変哲もない教室だ。教壇の他には、所狭しと並べられた机と椅子しかない。

あと数センチで触れられそうな位置に、有名なマジシャンのユーリ・サラマンダー・シャルロッテ氏が目を閉じて立っている。わたしは心臓をバクバクさせながら、そっと教壇の下にノートを置いた。すぐそばに氏の2つの靴が並ぶ。絹のような材質でできた紫色のブーツ。

どこに行けばこんな靴が手に入るのだろう。ABCマート?……あ、この島のABCマートとはもちろん、日本国内で有名だというあのチェーン店ではない。たまたま同じ名前で、たまたま同じ靴屋というだけである。

「……隠せました」

上擦る声でわたしが言うと、さっきと同じように桃谷先生が氏のアイマスクを外……す前に、氏の能力によってアイマスクが粉々になって空中に飛んで消えた。ていうかこの場に先生がいる意味あんまりないような。

氏は優しげな笑みを浮かべ、「ありがとうございます」と瞳を閉じて一礼した。ついつい「ありがとうございます!」と鸚鵡返しをしてしまう。

「私のノートは……、ここです」

静かにそう言って、教壇の下からノートを浮かび上がらせた。教室内からは歓声と拍手が沸き起こる。

「今の私は見えます。今の私はすべてこのノートについて知っています」

Google音声みたいな言い回しだな……と思いつつ、わたしは思いきって質問した。あ、ちなみにこの島のインターネット回線はテレビと似たような手法(第1話をテキトーに各自で読んでください)で繋がれている。

「あ、あのー、し、シャルロッテ様。……実はそのノート、たまたま拾ったとのでして、わたしのじゃないんです。ど、どどどどどどどどどっどら……、ど、なたのものか、わかわかわかるんですか?」

氏はわたしに視線を合わせて、にっこりと頷いた。目を合わされると恐怖でついうっかり逸らしそうになる。元々わたし目を合わされるの苦手だしなあ。

「もちろんです!」

氏は腕を大きく左右に振り上げて、声を張り上げた。気絶しそうなくらいビビった。ショーもこんな感じなのだろうか。やっているほうも観ているほうも疲れそうだな。

「今から念力で、このノートの持ち主をここに取り寄せましょう。4、3、2、1
……」

念力で、持ち主を、取り寄せる……?ドラえもんの道具に、とりよせバッグ、ってあったなあ。遠くのものを持って来れるカバン。あれの人間バージョンってこと?で、このノートの持ち主って、あの………

「あ!」

「あ!」

「あの、ノートの……」

「え、えーとととととと……」

目の前にいるのは、チカラの湯で見かけた彼だ。何が起こったのかわからないという表情で、気まずそうに目をそらしている。シャルロッテ氏が彼に向かってお辞儀をする。

「突然お呼び出しして申しわけございません。前触れもなく」

いやあ全くだ。トイレとかお風呂の途中だったらどうするんだ。

「あの、ここ、どこで……すか?僕、CHIKARAモールで掃除してたんですけど……」

氏は手を高らかに上げて、「ループ魔法学園にようこそ!」と叫んだ。そのパフォーマンス、要る?

「はあ……」

彼は反応に困っていた。

「お、お、お久しぶりです!」

わたしも反応に困って、ついうっかり元々の知り合いだったみたいな台詞を言ってしまった。

「あ、あの……。この前スーパー銭湯で、ノートを落とされました……よね?返します!」

彼に向けてノートを差し出すと、彼は顔を真っ赤にしながら捥ぎ取るように右手に収めた。

「こ、この絵は……、あの……、その……」

「上手いですね!即興でデッサンしたんですか?凄い!」

とわたしが言う前に、彼は猛スピードで教室から出て行った。あの人、たぶんこの学園に来たことないよなあ……。

キーンコーンカーンコーン!

あ、授業が終わっ……あ、あれ?さっきまですぐそこにいたシャルロッテ氏の姿が消えた……。いつの間にか教壇には紙片が置かれており、それを開くと達筆な行書体でこう書かれていた。

-I'll be back again here,Nice to meet you!-

……ほんとにどういう路線を目指して作られたキャラなのかさっぱりわかんないな、シャルロッテ氏……。だいたい、第4話で作者がふざけすぎたせいだよな。……ん?キャラ?作者?わたしはなんのはなしをしているんだ?あと念力はどうした?途中でめんどくさくなったとかじゃないよねえ?

何が起きたのかよくわからないという表情をして、桃谷先生は3分ほど固まっていた。しかし、コホンと明らかにわざとな咳払いをして、「学園内で行方不明者が現れたと放送室から全校にアナウンスします。皆さんも彼を見つけたらご一報ください」と、震えた声で言った。

「ねえ、どうすんの?彼、この学園のこと知らないんでしょ?ヤバイよ?」

氏がどこかに消えて、いつもの冷静さを取り戻したトッキーが、しごく真っ当なことに気づく。

この学園の面積は約20ヘクタール。日本で有名な大型競技場のトーキョードームの5倍ほどの広さだ。

しかも魔法学園という特性上、空中上のグラウンド、天使からのカウンセリングを受けられる保健室、1/1のお菓子の家を建設中の家庭科室、……まあこのあたりはファンシーで平和だから迷い込んでも問題はないのだけど……。

その他にも人間硬化室という拷問部屋や、意思を持ったぬいぐるみと契約を交わされて絶望的な運命に晒されるという噂がある開かずの扉、などの危険地帯がある。

「うん……。でもわたしの顔見たら逃げるんだよなあ、彼……」

「かといって、迷い込んだ場所によっては命の危険に晒されるよ。お菓子の世界で頭部を食い千切られたりとか……」

「そうだよねえ。どこかの魔法少女アニメみたいになるかもしれない……。でも、どうやって探し出すの?」

「そうねえ……、とりあえず、時間を止めるわよ!」

トッキーが右手の人差し指を天井に向かって差し出した。

「これで、この学舎内の時間は停まったわ」

「ありがとう……。ん?学舎内?ってことは……」

「そうよ。もし彼が屋外、あるいは別の学舎に移ったら、停止エリアから外れてしまうわ。まだあんまり時間が経ってないはずだし、この学舎には迷子センターもあるから、そこで保護されるかもしれない」

「でも、迷子センターの横って……」

「……ええ。人間硬化室よ。ある年、文化祭に来てた子供が何人か間違えて入ってしまって、それ以降は停学者以外は入ってはいけないとされているわ」

ちなみに、この学園の停学者は、開園からずっと、表向きは0人である。……表向きは……。

「そして、さらに説明くさい台詞を言うわよ。夜になると、かつてここに閉じ込められた子供たちと、停学を食らったまま帰って来なくなった生徒たちの霊が……」

「きゃあああっ!やめてえっ!わたしそういうオカルト的なの全然ダメなんだからーっ!」

「あ、そうだった?……あいにく、あたしはそういうの、……」

トッキーの顔が紅潮している。

「マジでガチで好みなんスよね!」

「ひえええええっ!」

「TKDKWK(トキエドキドキワクワク)って感じで!」

どうやらこの人、興奮すると口調がDAIGOっぽくなる癖があるみたいだ。

「さあ、探すわよ!」

鼻歌を口ずさんで、トッキーがわたしの手を引いた。絶対この人、この状況を楽しんでいる……。

サウナはたのしい。