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マスカレイドを貴女と(9/9):ヨーセーの素顔

マテリアルの近くに行くと、ユキがもじもじしながら待っていた。

「にぃに、……ごめん!」

泣きじゃくりながら頭を下げるユキに、「だいたいわかった」と言って、僕はついに事実を認めた。

「ライヒは、ヨーセー、土井陽征が、自分の弱さを隠すために作った存在だ」

ユキの前では、僕はライヒにはなれない。ライヒを作ったのは、もともとユキだけど。いや、だからこそ。

「霧島さんとマテリアルで知り合って、その時着てた服とか自分で作ったの、って自慢してて、すごいね、って誉めてくれて、嬉しくて、調子に乗って、にぃにの秘密を言っちゃったんだ。悪いのは全部ユキなんだよお!」

「いや、誰も悪くないよ」

そう言って、ユキの頭を撫でた。そして、「なんかわからないけど、すっきりした」と続けた。素直にそう思ったから。それでも泣きやまないので、ずっと気になっていたあのことについて尋ねた。

「あの、カレンさんのウィッグは……」

ユキではなく、霧島さんが答えた。

「リューグナーエンゲルのカレンさんは、私の……」

「うん、わかった。もういい。もうこれで終わりにしようよ。ユキも全然悪くないから、な?」

カレンさんの正体なんて、知らなくていい。もう回答は見え透いているけれど、カレンさんはずっと僕の憧れのままでいてほしい。それが作られた姿でも。

そして、僕も、ライヒを絶対に殺さない。


その日の夜、とても楽しい夢を見た。マテリアルよりも何倍も広い場所で、何万人いるかわからないたくさんの観客。

僕は、マイクを持って立っている。ライヒの仮面を被って。

隣では、垢抜けて金髪になったコージュンが職人みたいな顔をしてギターを弾いている。

その横では、メイド姿のラッテちゃんが笑顔で躍りながらベースを弾いている。

力強いシンバルの音が聞こえるが、ドラマーは決まったのだろうか。そういえば、以前マテリアルでコージュンと談笑していた人が少し前にバンドを脱退したと聞いた。引き抜いたのかもしれない。

そして、ステージにカレンさんが乱入してきた瞬間に、とてつもない歓声が上がる。最前列で興奮する人々を警備員が必死に押さえている。

観客の中に、相変わらず表情のない霧島さんの姿を見つけた。隣に妹さんがいる。ふたりで来たのかな。連番になっているということは、一緒にチケットを買ったのかな。

ユキは関係者席にいる。僕よりもラッテちゃんのほうばかりを見る。ラッテちゃんと手を振り合っているのを何回か見た。

タツジさんとタクマさんは立ち見席にいる。社会人バンドは無事に作り直せたのかな。

カレンさんは、近くで見てもとても美しくて、その艶かしい声も魅惑的だった。だけど今の僕はライヒだ。カレンさんが霞むくらいの存在感を見せつけなければならない。


目が覚めたら僕は、ただの地味な高校生に戻っていた。今日もユキは僕の部屋に勝手に入り込んで何やら洋裁をしている。

「おはよー。ねー、にぃに」

「ん?」

「ユキ、塾行くのは中学入ってからにする」

「そっか」

「今は、お洋服作るの楽しいから、いっぱい作ってたいし」

「うん」

さあ、僕はマテリアルにでも行こう。今日はリューグナーエンゲルの2回めのワンマンライブだ。早めに行かないと、入場規制がかかるかも。

そしていつか。

マスカレイドを貴女と。

これで終わりです。

前は、「全部を書こう」と思って結局は全く書けないというのを繰り返していたのですが、今回はあえて断片的というか、別に伝わらなくてもいいかな……という部分を残したいと……、うん、まあ半分は言い訳なのですが。精進が足りませぬ。

「とにかく物語を完結させる」が今年を通しての目標なので、それは果たせたかと。

カレンさんの正体はあえて明言しないことにしました。しなくても辿っていけば、あの人しかいないとわかるので……。

ラッテちゃんは個人的に気に入っているので、ぜんぜん関係ないようなお話で再び出すかもしれません。というか全員ラッテちゃんぐらい尖ったキャラにした方が良かったかも……。次はもっと濃いやつを。いつになるかわからんけど、……濃いのを。

サウナはたのしい。