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奇跡の出会いは本当にある! 5

「それじゃぁ、この近くで一緒に朝まで居よう」と彼は私の手を握り、店を後にした。タクシーを拾って近所のビジネスホテルを探してくれた。時間も遅かったし、数時間眠るだけなので、ツインの大きな部屋を安くで提供してもらえたようだった。
もう本当に意識不明という言葉がピッタリなほどに眠かった。マッコリの威力をこのとき初めて思い知った。恐ろしいお酒だ。でも美味しい。

一瞬で朝になったようだった。モーニングコールで目覚めたが、彼はまだ眠っていた。あれだけ「朝ボクが起こしてあげますから」と言っていたのにである。彼を起こして身支度を整えて、早朝に昌慶宮の外観を横目に観ながらバスに乗って私の宿まで送ってくれた。今から思えば、化粧も落とさず寝たので、ものすごい顔をしていたのではないかと思うが、気持ちは清々しかった。宿の前で軽くハグをして「じゃぁ〜ね」と別れた。
「あ、Skypeのヘッドセットを買って帰ります!」彼はそう言い残して帰って行った。その後ろ姿には寂しさよりも愛おしさを感じていた。

夢のような1日だったなぁ〜とシャワーを浴びながら思い出していた。
私は甘えるのが下手な人だ。小さいころから父が怖かったので”甘える”ことを知らずに育った。なのに、ヨンウン氏には素直に甘えられた。「自分でも本当に驚きだった。”甘える”ってこんなに楽な事だったんだな〜と、今までなんで甘えられなかったんだろう…
そして、ハッと気づいたことがひとつあった。
昨日は12月5日。この日は子供たちのお父さんとの結婚記念日でもあった。なんとなく、あの世からのギフトだったのかなとも思った。

空港に着いて彼に電話したが出なかった。だけど、あまりがっかりしなかった。きっと寝てるんだろうと思ったし、彼とはこれで終わりではないという予感がしていたからだ。そしてJ君にも連絡した。
「今から帰るよ〜、ありがとう!」
「昨日どうでしたか?楽しかった?先輩はいい人だったでしょう?」
「うん、おかげでめちゃ楽しかった!朝まで一緒にいたよ」
「え?誰がそこまでしろっていいましたか!え〜!!でもボクには大好きなひと同士だからとても喜ばしいことですよ、おめでとう!」と新しい出会いを喜んでくれた。
でも、何の確証もなかった。「付きあおう」と言ったわけでもなく、彼はただ「Skypeのヘッドセットを買って帰ります!」と言っただけだったからだ。なのに私にはこの出会いは、奇跡の出会いから運命の出会いになったと感じていた。

飛行機では爆睡していたので、気づいたら関空に到着していた。
帰ってすぐに彼にメールした。彼からもすぐに返事がきた。
「ヘッドセット買いました。いつでもSkypeで話せます。IDはningen-naviです」と書いてあった。早速Skypeで探したら居た!

ん?ちょっと待て!ニンゲンナビ?聞き覚えがあるぞ。
そう、C君が韓国で「ボクの車にナビはないけど、ボクには人間ナビがいるから大丈夫!」と言っていた、あの”人間ナビ”は彼だった!
「実はボク、あの日ケイコさんがどこへ行ってたのか知ってたんです」
さらに、彼はブルドッグマンションのギターC君とベースのH君と同じソウル芸術大学の同期だったのだ。しょっちゅう一緒に飲んでいる仲良しさんだった。ここでも運命に仕組まれていたらしい。

次の年の5月に韓国へ行ったとき初めて彼はC君に改めて私を彼女だと言って紹介した。驚かせるために私が行くまで黙っていたのだ。そのときのC君は目をまんまるにして本気で驚いていた。
「え?え〜!!!なんでここに居るの?あ、もしかして!いつの間に?僕らも前よりもっと親しい友達になったということだね」と言って祝福してくれた。

あれからヨンウン氏とは毎日Skypeで話した。何も決め事はせずに、ただ何となく11時過ぎにSkypeに入ってる感じで。お互いに作業しながら話したり、用事があればショートメールで連絡しておく。お互いの生活を尊重しながらの遠距離恋愛が始まった。


そんな中、2009年10月活動を休止していたブルドッグマンションがGMF(グランドミントフェスティバル)で復活ライブをすると知った。
これは、どうしても行かねばならぬ!観ておかないと、私の人生を変えてくれた大事なバンドだ。早速J君に確認した。
次いつ観られるかわからない!バックパスを用意してくれた。ありがたい〜!たっぷり楽しむぞ!ヨンウン氏とも久々の再会だった。

GMF2009は開催3回目くらいだが、今回が一番の集客だったらしい。すでに野外の会場は満杯だった。いろんなスペースでいろんなバンドがライブをしているので、探して観に行くのがなかなか大変だった。マイアントメリーも、キムジェウクのWalrusも観た。しかし、一番の狙いはおおとりのブルドッグマンションだ!
ライブ前にバックステージでメンバーのC君と一緒にご飯を食べた。ステージに上がってない時は「友達」だけど、いったんステージにあがれば、大好きなバンドのメンバーで私は1ファンに戻る。

もう生のライブを見たくて見たくてたまらなかった好きなバンド!本当に嬉しい。彼のことはほったらかし、荷物とカメラを預けて、歌いまくり踊りまくりの叫びまくり!後から彼に聞いたのだが「勝手にどんどん前に行くし、カメラもしなきゃならなくて大変だったよ!めちゃ歌いまくってるし!」と笑われた。ほぼ全曲みんなで歌いまくりだった。なかでもこの曲が一番好きな曲だったから、聞けて良かった。最後は会場がステージとひとつになった。キャーキャー叫んだので声がなくなった。それほどに楽しすぎて燃え尽きた。本当に最高でした。ありがとうブルドッグマンション!


韓国語で「천생연분(チョンセンヨンブン)」天から定められた(生まれた時から)結ばれている縁、日本で言えば「運命の赤い糸」だと感じた。

大好きなバンドを通じて友達ができ、奇跡の出会いから運命の出会いへ繋がった。遠回りはしたけど、どれも必要な事だったのだと思う。
人の縁は本当に不思議だ。その人と出会う前までの何かひとつでも違ったらこの出会いはなかったかもしれないのだから。
私がもしあの映画を見てなくて、ブルドッグマンションを知らなかったら、
J君の書き込みが見つからずそこで終わっていたら?
あの日、ヨンウン氏とデートしてなかったらこの縁は変わっていただろう。


そして何よりも、
ぐっと手を握りしめて心を閉ざしていては何も手に入らない。要らないものは手放して手を広げればそこにはいくらでも新しいものが手に入る。
今回、潔く手放すことの大切さも学んだ。

奇跡の出会いは本当にあった。

ここから約4年間韓国と日本の遠距離恋愛を経て、何もかも捨てて彼が日本にきて、3年後に入籍した。今は日本で一緒に暮らしている。C君もH君も韓国へ行けば必ず会うし、ミンちゃんはすでに我が家の韓国にいる娘だ。
そしてJ君はうちの子供たちが「サムチョン」(父の兄弟の名称)と呼んでほぼ家族となっている。ちなみにJ君は、waxやIUのライブをしながら音楽学院「music academy ZENITH」を経営している。

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