豆腐と聞いて思い出すあれら


何年か前のある日、新居建築の打ち合わせをとあるカフェでしていた。
とってもお天気の良い日で、それは昼下がりで、娘はまだ一歳で、なんだかすごく良い日だった。窓から見える景色も冬の日差しが柔らかに暖かく、梅か何かが咲いていて、とっても幸福的だった。
新居について、あーだこーだと話はとりとめもなく膨らんで、打ち合わせも終始愉快で楽しかった。
その日、カフェのお客はもう一組あって、彼らはご近所に住むであろうマダームの御一行だった。マダームは楽しそうにコーヒーを片手に笑いあっていて、打ち合わせ中にも何度か嬌声が聞こえてくる。私も主婦の端くれなものだから楽しそうな会話には目がないわけで、マダームのお声は少し大きめなもので、ついついお話が聞こえてしまって。
「そのお豆腐がね!オーガニックだっていうのに賞味期限が一ヶ月もあるのよ!」
この一言の破壊力たるや。居合わせたマダームたちにどれほどの大爆笑をもたらしたか想像できますか。私、なんだかとても感心して、思わず心の中で、ナイスマダームジョーク!と見たこともないなんか奇抜な旗を振りあげたい気持ちでした。
なに、このピントが一ミリもずれていない感じ。
その賞味期限発言がウィットに富んでいるかとか、万人に対して面白いかどうかとか、そんなことはどうでもよくって、ただ、私、シチュエーションにぴったりと合いすぎているそのピントに、快感に似たものを感じたのでした。
あれから数年、冷ややっこのおいしい季節に、お鍋のおいしい季節に、何でもない日常の狭間に、豆腐と聞けば、あの小春日和の暖かな気持ちとマダームの嬌声が蘇るのです。

また読みにきてくれたらそれでもう。