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2020年が明けたあの瞬間の、あの光

毎年、年明けに楽しみにしていることがある。
言うまでもあるかしら、いわゆるそのあれ、つまり、カウコンだ。
ことによっては非常によく燃えるキーワードなので、固有名詞その他に関しては、ぼんやりと書いておく。

今年、年が開けるその瞬間まで私はスマホで往生際悪くnoteを書いていた。2019年最後のnoteを更新したかったのだ。ところが、義実家泊でテンションが上がりきった子どもたちは寝る素振りも見せず、対して夫は早々にお眠りになられていた。
やっと全員が寝付いたのを確認したら、なんとびっくり、23時半だった。信じられない。
そーっとスマホを取り出して、暗闇の中noteを書いていた。最後をまとめる段になって足踏みしてしまったら、年が明けてしまった。
なんたることか。カウコンのオープニングを犠牲にしたっていうのに、けっきょくnoteの更新は叶わなかった。
こうなったら切り替えが大事。
更新できなかったnoteのことはすっぱり忘れて、いち早くテレビの前に座るしかない。
寝室としてあてがわれていた和室を抜け出して、リビングに行くと、義姉がいた。
「笑ってはいけない」がついている。けれど、彼女の目線は手元のスマホに落とされている。
迷っている暇はない。オープニングを見逃した私に選択肢なぞあるものか。去年の轍は踏まない。
「カウコンみていい?」
言えた。言えたのだ。私は新年早々できる子だった。
言い方に卑屈さや挙動不審な様子もなく、とてもスマートで爽やかだったと思う。
「うん、いいよ」
快諾を勝取った。素晴らしい幕開け、ありがとう2020。ありがとうお義姉さん。
せかせかとチャンネルを変えると、眩い光が画面いっぱいに溢れていた。胸が高鳴る。
去年は確か、カウコンのその時に、義兄や義妹や姪っ子たちが揃って「笑ってはいけない」をぴくりとも笑わず上手に観ていて、笑い上戸の私は笑いをこらえるのがひたすらに大変だし、カウコン観たいし、念を送って送って送り続けて、もちろん叶わず、辛抱たまらんくなった残り数分であたかもそんなに見たいふうでもないない感じを装って、「ちょっとカウコン観てもいい?」って中途半端にニヤけた顔で気まずさを全身から吹き出させながら、交渉したのだった。


画面の中ではあの、関西出身のふたりが歌っていた。
懐かしい曲が続いて、もう20年くらい前の懐かしい曲も流れてきた。胸がいっぱいになって思わず口ずさみそうになるのをぐっと堪えた。隣では義姉が難しい顔をしてずっとスマホに目を落としている。どこかのエラい人に送る謹賀新年のメッセージを考えているのかもしれない。歌うのは自粛した。

画面を眺めて、ああ、まぶしいなぁ、プロよなぁ、素晴らしいなぁ、と思いながら、ふと、義姉への新年の挨拶をしていないことに気がついた。年明け最初の言葉が、「カウコン観ていい?」って私、どうかしている。中学生なのかな。
一瞬でも、できる子だと思った自分をぐしゃぐしゃに丸めてごっくんしたい。
しばらくは、「今、さりげなく、あけましておめでとうございます」って言うべきだろうか悩んだのだけど、画面のなかは美しすぎて目が離せないし、義姉は変わらず画面を睨んでいるし、時折、ビコンとなにか着信もしている様子。こういうのがどうにも苦手なのだ。上手くやれない。
そわそわしたりちらちらしたり、ただただ独りよがりに気まずかった。

画面の中ではくるくるといろんなグループが出ては引いてゆく。みんな身のこなしが軽くて、笑顔が弾けていて、心が奪われた。
心が奪われているうちに、私が心の底の底から待ち望んでいた彼らが現れてしまった。もうご挨拶どころではない。
漏れそうな悲鳴をどうにか制して、ほとんど祈るような気持ちで画面を観る。カウコンをこんなに心待ちにしている一番の理由は彼らだ。ソロの彼と、グループを引っ張る彼はそれぞれ多忙であり、デュオとして活動するのはとても稀だ。その稀な一日が、カウコンなのだ。
この日の彼らを、私は、年越しの一番の楽しみにしている。カメラに向かって最高の笑顔、最高のパフォーマンスを今年もありがとう。エネルギーを満タンに頂きました。今年も生きていけそうです。合掌。


観客席には溢れんばかりのペンライト。この光の中で歌ったり踊ったりするのはどんな気持ちがするんだろうか。
熱に浮かされたような気分になっていたら、あの5人が到着した。紅白歌合戦の会場から駆けつけた彼らは、到着と同時にステージへ案内されていく。
途中、メンバーのひとりが進行方向を間違えて、照れ笑いをする様子も映し出されていた。
彼が慌ててみんなを追いかけて、5人が揃ってステージへかけ上る、イントロが迫る、ステージに立つと同時に歌が始まった。
なんというプロの仕事だろう。
この瞬間だけで、尊さが大気圏に突入してしまう。
例えば私だったら(例えなくていい)、進行方向を誤ったら万事休すだ。すべての歌詞も振りもすぽんと抜け落ちていくだろう。笑顔もなにもあったもんじゃない。ひたすら焦りに侵食されてステージを台無しにしてしまう。そもそもそんな人間はジャニーさん(言ってしまった)のお眼鏡には叶わないと百も承知なのだけど。というかそれ以前に私、生物学的に履歴書の段で落ちるのだけど。

迫りくるイントロを全員が笑顔で回収して、スマートに歌い始めたあの一時、彼らのプロに身震いがした。
最高のダンスと歌だった。多忙な彼らはいったいいつ練習しているんだろう。いったん覚えたら永遠に忘れないということもないだろう。間髪抜かさず繰り出される次の曲も、今しがた到着したとは思えない完璧なパフォーマンスだった。
努力はいつだって美しい。

毎年のことだけれど、気持ちが高ぶったまま、あっけなくカウコンは幕を下ろしてしまう。会場ではどうなんだろう。まだしばらくはキラキラした時間が続くんだろうか。
まるでおとぎの国みたいな素敵な時間がすとんと終わってしまって、呆然としてしまう。しばらくはチャンネルを変えることができなかった。
ちょっとポンコツなスタッフのひとりが、うっかり重要なスイッチ的なものを誤って触っちゃって、会場がばばんとほんの一瞬でもいいから映し出されないかしら、と本気で祈っていた。

もちろんそんな願いが届くはずもなく、淡々と次の番組が始まって、あれは夢だったのかなと思うほど、熱はゆるゆる覚めていった。

いつの間にか義姉は就寝していて、なんだか物足りなさを持て余して、ずっとソファで見たくもないテレビを観ていたそんな年明け。

けっきょく、義姉に新年のご挨拶はしそびれたまま。
こんなところで「あけましておめでとうございます」届け。

また読みにきてくれたらそれでもう。