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うっかりすると、ぺっしゃんこ

今日は、走って走って走ったんだけど、けっきょくうまくやれなかった。

今週は取材や、幼稚園の半日保育、お誕生日会(保護者参加)、などがあって、そもそもの稼働時間がうまく確保できなかった。
そんな週の金曜日だもの、朝からずっと気持ちは小走り。
子どもたちをいつもより少し早く、園に預けたら、開店と同時にスーパーへ。顔なじみの店員さんが「今日は早いね」と声をかけてくれる。
ざっと必要なものを引っ掴むようにしてかごに入れて会計を済ませて、車に乗る。そうそう振り込みしないといけない支払いが一件あったんだった、とコンビニに寄って、お振込み。
私はATMとべらぼうに相性が悪いので、ATMの前に立つだけで緊張する。
振込金額を確認して、税込みだから、とか、あ、送料も込みだよね、とか、もたついているうちに液晶に影がふたつ映っていることに気がつく。
あ、ふたりもお待たせしてしまっている、と思えばもちろん焦る。
急いでいるそぶりを懸命に発動させて、なんとか事を済ませて明細を手に立ち去ろうとしたら「お得なクーポンが出ます」と、ATMの無機質だけどかわいい声。
だけれど、焦れていたらしい後ろのサラリーマン風の男性はピッと画面をタッチして、お得なクーポンは消え失せた。
別にいいんだ。イライラさせてごめんね。

帰宅したらパソコンを立ち上げる。
10時20分には家を出て、今日は幼稚園のお誕生日会に向かうことになっている。
6月生まれの息子のお誕生日会。
なるべく早く上げてしまいたい原稿を抱えていて、今日は週末で、週が明けたら月末で、とにかく余裕がない。一文字でも多く書くのだと気合でキーを叩く。

小一時間仕事をして、お化粧を直したら、また車に乗る。
以前、私が一日に車に乗っている時間を合算したら平均三時間ほどだった。この時間をなにか有効活用できないかしら、といつだって思う。
(良い回答募集中)

コロナ禍ということもあって、テラスから子どもたちを見学した。
毎年お誕生日会には「大きくなったらなにになりたいか」を発表する。
息子は元気よくお名前を言ったあと、「大きくなったらポケモントレーナーになりたいです!」と言っていた。
なれるといいね。とっても。

例年であれば、そのまま給食を頂いて帰るのだけど、こんなご時世なので、早めのタイムアップ。
「お時間です」とお声をかけられて、しなしなと帰宅。
ここからは、14時40分までにどれだけ書けるかが勝負。
「勝負!」と言って、漫画のワンシーンみたいに倍速でゴリゴリ書けたらいいのだけど現実はそうもいかない。書いては消して、そうじゃないと唸って、ほかの表現があるはずと考え込んだりする。これだと思える手ごたえにぶち当たるのを期待して、つい手を止めてしまったりもする。
それでも何とか、前進して、じゅうぶんとはいかないけれど、書けるだけ書いたぞ、とお迎えへ。

*

天気予報が外れた。
今日は「午後から雨」の予報だったのに、豪雨注意報まで出ていたのに、雨は降らなかった。
家の近所のサッカーコートで、息子はサッカーに勤しんでいる。一か月の定額制で、火曜から金曜日はサッカーを教えてもらえるのだ。
お迎えにいくと、大喜びで「サッカー行こうぜ」とお友達と一緒にはしゃいでいた。ええええ、雨でお休みのはずだったのになぁぁぁぁ、と小さく思う。
お友達のお母さんが車で送って下さることになり、お任せして私は長女をピックアップしに行く。つもりが、はたと「金曜日は地区の一年生と一緒に帰ってくれる上級生が長女しかいない日」だと思い出す。
息子のサッカーが終わるまでに、修理に出していた車を引き取りたいので、自宅までゆっくりと歩かせていたら間に合わない。
あらどうしましょう。
こういうのが地味に消耗する。
時間をうまくパズルのように組み合わせるための、頭脳労働と、いちいちどうするか決定するという作業、それらがじわじわとうっすら降り積もって、疲労に変わる。
とりあえずどこにいるのかね、と携帯で長女の位置情報を確認すると、地図上で、長女のアイコンがありえない場所で点滅している。
私の見方が悪いのかと、地図をくるくるひっくり返してみるのだけど、どう見てもおかしい。
ピンときて、お友達のお母さんに電話をした。
「もしかして、うちの子、○○ちゃんとそちらに向かってるかもしれない!!」
車を走らせて○○ちゃんのお家へ向かうと、いた。

ふたりそろって、仲良く「ごめんなさーーい」

お母さん二人からお説教をされて、反省しているのかしていないのか、判然としないまま、ランドセルを回収した。

遊ぶ約束をしていたらしく、あちらのお母さんの快諾もあり、いったん長女を置いて、ほんの一瞬帰宅。
シンクの中の洗い物をざっと済ませて、お風呂も洗う。時計を見たら、もうこんな時間。サッカーが終わる。
慌てて車に乗って、サッカーコートへ。お説教で時間がやや溶けてしまった。

チャイルドシートでは退屈していた末っ子が寝てしまっていた。
息子のお迎えに行くために起こすのが忍びない。ここでまた足りない頭を使ってあらゆる想定をする。
サッカーコートにいるお友達のお母さんに、息子を駐車場に向かうよう言ってほしい旨LINEをする、だとか、末っ子を寝かしたまま、サッカーコートまで走って息子にすぐ車に乗るよう言いに行く、とか、末っ子をそおっと起こして抱っこして、サッカーコートへ行くとか。
どれもデメリットがちらついて、迷う。が、迷っている時間もないので、末っ子を起こす、を選択。
泣いたりぐずったり暴れたりしませんように、と祈りながら起こす。緊張が走る。

「にーにのサッカーお迎えしようか」

声をかけると、うんと頷いたので、抱き上げるとぎゅっとしがみついてくれた。勝ち。

時刻は16時40分。
息子はサッカーコートの隣の空きスペースでしぶとく走ったり蹴ったりして帰る気配がない。息子たちが使っていたサッカーコートでは今度は小学生がボールを追いかけていた。
声をかけても届かない。まだまだお友達もたくさん遊んでいるから、宴もたけなわがすぎる。
時計を見ては焦る私をみて、お友達のお母さんが気を利かしてくれる。

「長女ちゃんのお迎え行ってきていいよ!息子君みてるから!」

ひゃーもーごめんなさいーー。いつもいつもありがとう。
彼女たちにはお世話になりっぱなし。
ああ、これでいいんだろうか、持ちつ持たれつじゃないじゃない、持たれてばっかりだよ、こんなの、と小さくくよくよしてしまう。

17時10分。
長女をお迎えに行ったら、お友達宅の近くの公園で、信じられない姿の長女(とお友達)を見つけた。
全身びしょ濡れだった。絞れば水がぼたぼたと零れるくらい、水浸しだった。ちょっと理解ができない。
お友達のお母さんと呆然とする。
ふたりとも、にっこにこで、それはもう楽しかったんだろうことは分かるのだけど、いささか度が過ぎている。
車に乗せるのもはばかられるほど濡れている。というか滴っている。ずぶずぶでぼたぼただった。
また両お母さんから軽く注意をされた、滴る長女を車に乗せて、サッカーコートへ再び。
これでやっと帰宅できる、と期待するのだけど、仲良しのお友達と離れがたくてはしゃぐ息子(とそのお友達)。
なんだかもう、疲れてしまって、今日はうんと暑かったし、金曜日だし、元気があと1㎎しかないし、そんなわけで、ぷつんと糸が切れてしまった。
頭が何もはたらかない。
どうやったら帰宅できるのか、見当がつかなくなる。お友達のお母さんも同様であるらしかった。彼女は自粛明け、ようやく出勤が再開したところだと言っていた。さぞかし疲れているだろう。

私も彼女も、ふと頑張れなくなってしまって、なんかちょっとどうでもよくなってしまった。
いっそもう帰宅できなかったとしたら、それもそれだ、とすら思った。

だけれど、そんなことを言っている場合ではもちろんないから、何とか彼らの興奮を沈めて、また遊ぼうねと、お別れした。
自宅に戻って、びしょ濡れの長女を着替えさせて、息子がトイレで用を足して、時計を見たら、車屋さんの閉店時刻が迫っていた。
上手く逆算ができなかったことをひどく後悔して、車屋さんに電話をかける。
優しく「明日で大丈夫ですよ」と言っていただいて、胸をなでおろした。

のもつかの間、末っ子が、15時からずっと言っていた「ママとおやつを買いに行く」のミッションを果たしていないことに気がついた。

「ままぁ、おやちゅまだ買ってないよ?」

またも脳みそをフル回転させる。
なんて言ったらいいのか。自宅の敷地内まで来て、家に入れないとかなんなんだ。
お店閉まってる(うそ)…?また明日にしよう…?おやつ食べたんじゃなかったっけ(うそ)…?
どれも不誠実で気に入らない。
そもそも、約束を果たしていないのは私だし。

ゴモゴモと説得すべきフレーズを口の中で転がしているうちに、要求が三段活用を経ていて、「お店屋さんでご飯が食べたい」と誰ともなく言っている。

ママだって今から慌ててごはん作るのなんてまっぴらだ。まっぴらだけど、四人だけで外食するのも御免だ。心身ともにエネルギッシュな日ならともかく、こんなに、身も心もすっからかんな日にできるような芸当じゃないんだよ。しかも行先はファミレス一択だもの。そんな気分じゃないのだ。

もう何をどう説得したのかすら覚えていない。
なにがどうなったんだったか、おうちでうどんが食べたいというので、それならとスーパーへ行って、うどんを買った。
お総菜コーナーで餃子とビーフンも買う。あとはアイス。

ああ、一日が長い。

*

我々より少し先に夫が帰宅していたので、お風呂を委託する。
ただ、彼が子どもたちと入るお風呂は非常に長いので、とりあえず今は服を着たままざっと子たちだけ洗っておいてほしい旨伝える。
ミッションは「10分deお風呂」。
その間に私はうどんを開封して、湯を沸かす。餃子とビーフンを皿に移す。
ありもののおかずや酢の物を器に盛って、トマトを切って、えーっとあとは、と考えていたら、夫が脱衣場でタオルを持ってただ、立っていた。

ちょっとよく分からないので、夫をそっとどかしてお風呂場へ入場。
ワンピースを着たまま、じゃじゃっと三人洗い上げて、タオルでくるんではい出来上がり。
さて、伊勢うどんを茹でる。
テーブルを見ると少し物足りない気がして、急遽、ズッキーニと生ハムと舞茸を耐熱皿に並べて、オリーブオイルとチーズをかけてオーブンへ。
そういうところが真面目だよ、と半ば自虐的に思ったりした。

三人にサーブして、私はあれこれ後始末をして、夫に食べようと声をかけて、着席したら、どっと疲れが襲ってきた。
もうすぐ今日が終わる。もうすぐ今週が終わる。その安堵で食欲が霧散した。今この場で溶けて寝たいと心から思った。
もそもそと目についたものを口に押し込んで、空いた食器を寄せ集める。子どもたちは依然、当然、元気(韻踏んでる)。

働かない頭になんとか今日を終えるために油をさす。
さび付いた歯車をみしみし動かす。

「長女~お便り、プリントもろもろ出してね~」

はーいと差し出されたプリントを見るとお直しがいくつか。これは直して出すやつじゃないのか。週末の宿題がひとつ増える。

土日があるからいいじゃない、とお思いになる方もいらっしゃるかもしれない。
ちょっと聞いてほしいのだけど、子どもの集中力が年齢×2分との説を採用するとして、うちの場合は、16分。
ただし、漢字の書き取りやら日記やら、自習ノート、音読やらをフルコースでやるとなると、もちろん16分では終わらない。二部制ないし、三部制をとるとなると、今から「宿題をやりますよ」の号令が二回ないし、三回必要になる。
この号令がなぜ必要なのかと言えば、我が家には子が三人いて、みんなとっても仲がいい。きちんとした宣言がないと、ちびっ子たちがすぐに長女を誘いに来てしまうし、長女は誘いに乗ってしまう。油断をすると宿題をそっちのけで、三人仲睦まじく遊んでいたり、一緒にポケモンのテレビを見ていたりするのだ。そして、困ったことに仲睦まじいともなると、私も邪魔をしたくない。だけれど、それはつまり、また再号令がどこかで必要になるということでもある。
そんなことをのらりくらりと繰り返していたら、一日が平気でつぶれてしまう。

というわけで、プリントのお直しだけでも終わらせよう、いや、そうしてもらわんと困る、明日も予定があれこれあるのだし、弟と妹が遊んでる時間は一緒に遊びたいんでしょう?と説得する。
はーいと着席してくれたはいいものの、週の終わりの夜だもの、疲れが出ているんだろう身が入らない。
簡単な計算もすぐ上の空になる。
あと少し、ほら、これだけ、ね、と言っているうちにイライラしてしまう。
今日が終わらないことにも、上の空な長女にも、この週末にまだまだたくさん待ち構えている宿題にも。
物差しで長さを図るだけの問題なのに、なんでなの、と苛立つ。
2㎝6㎜が、何度やっても読めなくて、眠たいのもわかってるんだけど、ついに強めに怒ってしまった。
ああ最悪だ、と思ったと同時に夫のため息が聞こえて、なにやってんだろうな、と地の果てまで落ち込んだ。私だってこんなのいやだ。

一週間頑張った自分をねぎらうどころか、嫌悪感でいっぱいになってしまった。

今日のママには近寄らないほうが賢明だと言わんばっかりに、子どもたちは寝室へ引っ込んでいく。
今日は誰も「ママがいないと寝れない」とは言わなかった。

やれるだけやったつもりなんだけど、この有様で、なんだか情けなくなる。
うまくいかない日があるってことは、ちゃんとうまくいっている日があるということでもあるのだから、と自分を励ますと、つけ入るように「甘えちゃって」と背中に刃物を突き刺すような自分もやってくる。

えらいえらいと自分をねぎらっていないと、なんだかぺしゃんこになりそうな夜ってある。それが今夜。

また読みにきてくれたらそれでもう。